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情状
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「北見先生
お忙しいところすみません。」
「いえいえ、まあどうぞ」
北見は智に座るよう促した。
智は、これまで事あるごとに世話になった弁護士の北見の事務所を訪れていた。
「なるほど、裁判に出廷されるということですか。」
「ええ。
あの二人に関しては、一日でも長く刑務所に入っていてもらいたい一心なんです。
北見先生、実際のところどれくらいの量刑になるんでしょうか。
先生の見解をお聞きしたくて。」
智は深刻な表情で北見に質問した。
「私もこの事件の事を色々調べてみましたが、確かに動機も手口も酷いもので、酌量すべきものは何一つ見当たりません。
ただ…」
「何か気になることが?」
「この事件は、桐山に借金をしていた佐藤が、返済に困っている事に付け込んだ桐山が計画し、実行に及んだ事がわかっています。
桐山には前科もあり、事件の内容からそれなりに重い量刑が予想されますが、佐藤については些か事情が違ってきます。」
「どういう事でしょうか」
「佐藤はあくまでも共犯であり、計画したのも、吉岡さん達に薬物を使ったのも全て桐山です。
その薬物の量から、死んでいてもおかしくないとして殺人未遂罪が適用される見込みなのは良いとして、それが佐藤にまで及ぶかは甚だ疑問です。」
「つまり、佐藤は罪が軽くなると?」
「ええ、そうです。
向こうの弁護人は、佐藤の窮状と、美智香さんとの関係を修復して、また一緒に仕事がしたかっただけだと、情状酌量を求めてくることは確実でしょう。
それを裁判所がどう判断するかですが、やり方さえ上手くいけば、執行猶予を取ることも十分に考えられます。」
「そんな…
ワタシも真弥君も、今もドラッグの後遺症に苦しんでいるんです。
そんな事が許されてもいいんでしょうか。」
「これは、あくまでも裁判の戦い方のテクニックの話をしているだけですので。
私なら、そう戦いますね。」
「…」
「しかし、佐藤は今回の件で、会社を失い、これまで構築してきた人生の基盤全てを失いました。
エリート街道を歩んできた彼にとって、この事は耐え難いでしょう。
絶対とは申しませんが、いくら軽い判決が出たとしても、もう何をする気力も残っていないのかもしれません。
それが抑止力になってくれるんじゃないかと思います。」
「そうですね…」
「問題は桐山の方です。
何の躊躇もなく、吉岡さんらを地獄に突き落とした。
彼の量刑を少しでも重くするように持っていく方が得策だと思いますね。」
北見の話に、智は元気なく頷いた。
お忙しいところすみません。」
「いえいえ、まあどうぞ」
北見は智に座るよう促した。
智は、これまで事あるごとに世話になった弁護士の北見の事務所を訪れていた。
「なるほど、裁判に出廷されるということですか。」
「ええ。
あの二人に関しては、一日でも長く刑務所に入っていてもらいたい一心なんです。
北見先生、実際のところどれくらいの量刑になるんでしょうか。
先生の見解をお聞きしたくて。」
智は深刻な表情で北見に質問した。
「私もこの事件の事を色々調べてみましたが、確かに動機も手口も酷いもので、酌量すべきものは何一つ見当たりません。
ただ…」
「何か気になることが?」
「この事件は、桐山に借金をしていた佐藤が、返済に困っている事に付け込んだ桐山が計画し、実行に及んだ事がわかっています。
桐山には前科もあり、事件の内容からそれなりに重い量刑が予想されますが、佐藤については些か事情が違ってきます。」
「どういう事でしょうか」
「佐藤はあくまでも共犯であり、計画したのも、吉岡さん達に薬物を使ったのも全て桐山です。
その薬物の量から、死んでいてもおかしくないとして殺人未遂罪が適用される見込みなのは良いとして、それが佐藤にまで及ぶかは甚だ疑問です。」
「つまり、佐藤は罪が軽くなると?」
「ええ、そうです。
向こうの弁護人は、佐藤の窮状と、美智香さんとの関係を修復して、また一緒に仕事がしたかっただけだと、情状酌量を求めてくることは確実でしょう。
それを裁判所がどう判断するかですが、やり方さえ上手くいけば、執行猶予を取ることも十分に考えられます。」
「そんな…
ワタシも真弥君も、今もドラッグの後遺症に苦しんでいるんです。
そんな事が許されてもいいんでしょうか。」
「これは、あくまでも裁判の戦い方のテクニックの話をしているだけですので。
私なら、そう戦いますね。」
「…」
「しかし、佐藤は今回の件で、会社を失い、これまで構築してきた人生の基盤全てを失いました。
エリート街道を歩んできた彼にとって、この事は耐え難いでしょう。
絶対とは申しませんが、いくら軽い判決が出たとしても、もう何をする気力も残っていないのかもしれません。
それが抑止力になってくれるんじゃないかと思います。」
「そうですね…」
「問題は桐山の方です。
何の躊躇もなく、吉岡さんらを地獄に突き落とした。
彼の量刑を少しでも重くするように持っていく方が得策だと思いますね。」
北見の話に、智は元気なく頷いた。
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