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crime victim

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「いらっしゃい、さあ入って」

智は、訪ねてきた真弥を家に入れた。


真弥は、落ち着かない様子で家の中をキョロキョロと見回していたが、取ってつけたように

「いいお家ですね」

と、言った。


智はお茶を出しながら

「お姉ちゃんはどんな感じ?」


と、妊娠中の姉の状況を心配して聞いた。

「はい。

これといった問題もなく、順調です。」


「それは、良かったわ」


「あの、ユウさんは?」


「あー

ユウちゃんは実家に帰ってるのよ。
お母様が体調崩されて入院したみたいで」


「あ、そうなんですね…

あの、智さん

早速なんですが…」


「うん。
裁判の事ね」


「はい。
被害者側の証人として出廷するよう連絡が来ていますが…」

今日、真弥が智を訪ねてきた理由は、裁判の事を相談する為であった。

そう…
桐山と達也によって拉致監禁され、金を奪われ、覚醒剤を大量に投与されるという、悍ましい事件の…


「被害者は僕と智さん、そしてみっちゃんです。
裁判にあたり、僕ら三人には出廷要請がありましたが、あくまでも任意なので、出る出ないは、こちらの意思に任されています。

みっちゃんには精神的負担をかけたくありませんので、この事は伏せてあります。
今日も本当は会社に休みをもらってこちらにお邪魔してるんですが、みっちゃんには仕事に行くと言って家を出てきました。

でも、あの最悪な犯罪者を一日でも長く刑務所に入れるために、自分の証言が役に立つなら…」


「そうね。
ワタシもそれは思ってるの。

真弥君もワタシも散々な目に遭った直接的な被害者ではあるけど、一番ショック受けてるのは間違いなくお姉ちゃんよ。

自分のせいで、真弥君やワタシがあんな目に遭ったって、すごく責任を感じてるはず。」


「いや、僕はその事について、何も思ってないし、智さんには悪いんですが、みっちゃんが監禁されて変な事をされなかったのは不幸中の幸いだったなって…」

「うん、ワタシもそうよ。

だって真弥君もワタシも男だからね。」

智はそう言うと、少し笑みを浮かべた。

「いやいや、智さんは男じゃないです。
女ですよ…」

「ありがとう。

で、真弥君としては裁判に出て証言をしたいけど、ワタシはどうか?って事ね。」


「はい。
いかがでしょうか」


「勿論、ワタシも出廷するわ。」


「ありがとうございます。」


真弥はホッとして頭を下げた。


「ところで、真弥君…

もう、大丈夫?」


「えっ、何がです?」


「体の方は…」


「体…ですか…」


「そう。アイツらに打たれた注射の後遺症よ。」


「あ、それは…」

真弥は、言葉を途切れさせた。


「真弥君…
実は、ワタシはダメなのよ…

今も重い後遺症に苦しんでる…」

智は力なく言った。
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