上 下
488 / 592

U-turn

しおりを挟む
「莉愛、忘れ物はない?」

智が部屋の中を確認しながら言うと、莉愛はバッグのファスナーを閉めながら頷いた。

「うん、大丈夫

あ、ママ…

ホントにアレもらってもいいの?」

莉愛は言いにくそうに、そして小声で智に言った。


「うん。いいわよ

でも、寮は二人部屋なんでしょ?
使えないんじゃないの。」


「ううん。それは上手くやるし…
一人の時もあるから」

莉愛は顔を赤らめて俯いた。


「使うのはいいけど、ほどほどにね」


「うん。ありがとう、ママ

大好きだよ」

莉愛はそう言うと、智に抱きついてきた。

智はハグしながら、幼いときから寂しい思いをさせすぎて、日本人離れした愛情表現をしてくる娘を少し不憫に思うのと同時に、心から申し訳なく思った。
自分のせいで、幼少期に一緒に住めず、また、母親を病気で失うという辛い目にも遭わせてしまった。

そのときの思いを、少しでも取り返そうとするあまり、ついつい甘やかせてしまうきらいがあったが、莉愛自身は智の想像以上にしっかりしており、智の甘さに溺れてしまう事はなく、素直ないい子に育ってくれたのだった。



「じゃあ、そろそろ出る?」


ユウが部屋に顔を出して呼びかけると、二人は頷き立ち上がった。


僅か十日間ほどの滞在だったが、久しぶりに母に甘える事が出来、また、そのパートナーのユウも、一目見て大好きになった。

莉愛は新しい実家をぐるりと見回し、納得の表情で玄関に行った。



電車を乗り継いで、東京駅まで来た三人は、改札口で別れるのは寂しいと、智とユウはわざわざ入場券を買って、ホームまで莉愛について行った。


「今度会えるのは夏休みだね。」


「うん。
もう二年だし、夏休みは長めの休みがもらえるし、またお世話になります。」


「楽しみにしてるわ、莉愛ちゃん。

また一緒にお風呂入ろうね」


「やった!

ユウさんの美しいカラダをまた間近で見られるんだー」

莉愛は大袈裟なくらいに喜び、ユウに抱きついた、


別れを惜しむ三人に、まもなく列車が発車をするというアナウンスが流れてきた。


「じゃあ、そろそろ行くね。」

莉愛は持ってもらっていた荷物を智から受け取ると、ペコリと頭を下げて新幹線に乗り込んでいった。

そして、自分の席に着くとバッグとお土産を棚に上げた。

座って窓から外を見ると、既に智とユウが窓の向こう側に移動してきていて、こっちを見て手を振っていた。

莉愛も、周りの目を気にしながら、少しだけ手を動かし、そして笑みを浮かべた。

新幹線のドアとホームドアが閉まり、ゆっくりと走り始めた。

莉愛はは後ろを振り向いて手を振ったが、すぐに二人の姿は見えなくなった。

ここでようやくシートを少し後ろに倒し、フッとため息を漏らした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。

広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ! 待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの? 「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」 国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。

転職してOLになった僕。

大衆娯楽
転職した会社で無理矢理女装させられてる男の子の話しです。 強制女装、恥辱、女性からの責めが好きな方にオススメです!

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

ニューハーフな生活

フロイライン
恋愛
東京で浪人生活を送るユキこと西村幸洋は、ニューハーフの店でアルバイトを始めるが

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

女子に虐められる僕

大衆娯楽
主人公が女子校生にいじめられて堕ちていく話です。恥辱、強制女装、女性からのいじめなど好きな方どうぞ

入社した会社でぼくがあたしになる話

青春
父の残した借金返済のためがむしゃらに就活をした結果入社した会社で主人公[山名ユウ]が徐々に変わっていく物語

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

処理中です...