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主無き家
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智が去った伊東家では、由香里が二階で敦と同じ部屋で寝るようになり、恵太は引き続き莉愛の部屋を使い続けていた。
智が使っていた枕や布団からなど、普通なら捨ててしまいたい衝動に駆られるものだが、由香里自身、智の事を敬愛しており、逆に好んで使用した。
その日も、朝早くから農作業に出かけた三人は、夕方までみっちり働き、由香里は帰ってきてから夕食の準備をしなければならず、智がいない分、全て彼女の負担となり、忙しい毎日を送っていた。
後片付けをし、一番最後にお風呂に入った由香里は、夜遅くになって、ようやく敦の待つ寝室に姿を現した。
「お疲れ様、由香里ちゃん」
「あれ、まだ寝てなかったの?」
「いつものマッサージでもしようかなって思ってね。」
「そんな事したら、明日に響くよ。
あっちゃん、気にせずに寝てよ。」
「まあ、いいからいいから
うつ伏せに寝てよ。」
敦に促されて、由香里が恐縮しながらうつ伏せになると、敦は跨って、肩を優しくマッサージした。
「あっ、すごく気持ちいいっ…」
由香里は遠慮する気持ちは常に持っていたが、敦のマッサージがあまりにも上手で、本心では毎夜の楽しみになっていた。
「あ、そうだ
由香里ちゃん」
「ん?どうしたの…」
「今度の土曜日なんだけど、組合の人たちが由香里ちゃんの歓迎会をしてくれるって言うんだけど、どうする?」
「えっ、歓迎会…
ひょっとして、村の古くからの風習がどうとかっていう?」
「あー、アレね…
全部ウソだったんだって」
「ウソ?
でも、トモちゃんが…」
「組合長が智を気に入ったらしくて、出鱈目を言ってまんまと騙したんだよ。
てか、こっちが騙されてしまったんだ。」
「えーっ、酷い」
「組合長が僕に謝罪してきたよ。
もう、二度としないから、由香里さんには安心して来てほしいと伝えてくれと。」
「私が行った方がいいなら、全然行かせてもらうんだけど…
私があっちゃんを奪ってトモちゃんを追い出したようなカタチになってるし…実際にそうなんだけど。
そんな人間が行ってもいいのかなあ」
「実は、智が組合長に、自分が浮気してこのような結果になったと皆に伝えてほしいと言ったらしいんだ。」
「えっ、そんなこと…」
「もう、ここへは帰ってこないし、そうする事で由香里さんの立場が良くなるならば、逆に嬉しいって。」
「…」
由香里はうつ伏せになったまま肩を震わせた。
「せっかく、智が色々考えて手を打ってくれたんだし、僕らはそれをありがたく受け取るのが一番だと思うんだ。」
「でも…」
由香里は涙が止まらなくなってしまった。
智が使っていた枕や布団からなど、普通なら捨ててしまいたい衝動に駆られるものだが、由香里自身、智の事を敬愛しており、逆に好んで使用した。
その日も、朝早くから農作業に出かけた三人は、夕方までみっちり働き、由香里は帰ってきてから夕食の準備をしなければならず、智がいない分、全て彼女の負担となり、忙しい毎日を送っていた。
後片付けをし、一番最後にお風呂に入った由香里は、夜遅くになって、ようやく敦の待つ寝室に姿を現した。
「お疲れ様、由香里ちゃん」
「あれ、まだ寝てなかったの?」
「いつものマッサージでもしようかなって思ってね。」
「そんな事したら、明日に響くよ。
あっちゃん、気にせずに寝てよ。」
「まあ、いいからいいから
うつ伏せに寝てよ。」
敦に促されて、由香里が恐縮しながらうつ伏せになると、敦は跨って、肩を優しくマッサージした。
「あっ、すごく気持ちいいっ…」
由香里は遠慮する気持ちは常に持っていたが、敦のマッサージがあまりにも上手で、本心では毎夜の楽しみになっていた。
「あ、そうだ
由香里ちゃん」
「ん?どうしたの…」
「今度の土曜日なんだけど、組合の人たちが由香里ちゃんの歓迎会をしてくれるって言うんだけど、どうする?」
「えっ、歓迎会…
ひょっとして、村の古くからの風習がどうとかっていう?」
「あー、アレね…
全部ウソだったんだって」
「ウソ?
でも、トモちゃんが…」
「組合長が智を気に入ったらしくて、出鱈目を言ってまんまと騙したんだよ。
てか、こっちが騙されてしまったんだ。」
「えーっ、酷い」
「組合長が僕に謝罪してきたよ。
もう、二度としないから、由香里さんには安心して来てほしいと伝えてくれと。」
「私が行った方がいいなら、全然行かせてもらうんだけど…
私があっちゃんを奪ってトモちゃんを追い出したようなカタチになってるし…実際にそうなんだけど。
そんな人間が行ってもいいのかなあ」
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「えっ、そんなこと…」
「もう、ここへは帰ってこないし、そうする事で由香里さんの立場が良くなるならば、逆に嬉しいって。」
「…」
由香里はうつ伏せになったまま肩を震わせた。
「せっかく、智が色々考えて手を打ってくれたんだし、僕らはそれをありがたく受け取るのが一番だと思うんだ。」
「でも…」
由香里は涙が止まらなくなってしまった。
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