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巣立ち

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駅まで車で送ってもらう事を、智は敦には頼まず、吉川に願い出た。

吉川は二つ返事で了承し、車に智を乗せて駅に向かっていた。


「ごめんね、良ちゃん
昨日最後の別れって言って、ハグしてお別れしたのに、車で送ってもらっちゃって。」

「いや、そんな事は気にせんでええ。

しかし、今日でお別れってなってしまうと、とてつもない寂しさが襲ってくるのう…」


「そうだね。

良ちゃんとの付き合いも、もう八年近くになるもんね」


「しばらく立ち直れんかもしれん」    


「もう、大げさなんだから。

会いたくなったら連絡してよ
良ちゃんだったら歓迎するわよ」


「おー、ホントか!」


「うん。
なんだかんだ言って、ワタシらってカラダの相性が異常なくらい良かったからね。」


「うんうん。
トモは最高じゃったよ
こんなええ女をいっぱい抱けて、ワシの晩年が輝かしいものになった。」


「またまた大げさな」

智は噴き出した。


「トモ…

お前が言うてた件、本当にええんか」


「ワタシの離婚原因のこと?

うん、勿論よ

皆んなへの説明をよろしくね」


「何だかなあ…

お前さんを悪者にするのが…」


「大丈夫よ。
もうこの村には戻ってくる事はないし、これからずっと住む由香里さんを守らないと。」


「ああ、そうじゃったな


さあ、着いたぞ」


車が駅に着き、吉川はサイドブレーキを引いて運転席を降り、トランクから智とボストンバッグとキャリーケースを取り出した。


智はそれらを受け取り、吉川に頭を下げた。

「良ちゃん

今まで本当にありがとうございました。
どうか、お体にだけは気をつけて、いつまでも元気でいてね。」


「トモ、こちらこそありがとうな。
お前さんは、俺がこれまで見た中で、一番ええ女じゃった。

東京での活躍を祈ってるぞ」

吉川は最後くらいは紳士的に振る舞う事を考えたのか、右手を差し出し握手しようとした。

しかし、智は握手しようとはせず、代わりに吉川に飛びついてキスをした。
それも激しいディープキスを。

かなり長い時間、唇を合わせ、舌を絡ませていたが、一分ほど経過して、ようやく離れた。


「おいおい、勃っちまったじゃねえか」


「フフッ、勃たせようと思ってやったのよ」

智は悪戯っぽい笑みを浮かべて吉川に言った。


「良ちゃん、

それじゃあ…行くね」

智は手を振って駅舎の中に消えていった。

吉川も智が見えなくなるまで手を振って見送った。
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