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「そうか。
君の意思が固いのなら、俺がとやかく言うことはない。
こういう事態を招いたのは自身の不徳の致すところだからね。」


隆之も、願ったり叶ったりだったのか、冷静に話を進めようとした。

「ええ。今日は離婚についての具体的な話をしたくて、あなたにメールをしたんです。」


「ああ。
離婚する事についてはお互い異論はないわけだ。

あとは離婚にあたっての慰謝料、財産分与についてだが、その辺の話は弁護士入れてもいいし、家裁で調停に持っていってもいい。」


「いえ、その必要はないわ。

こちらからの条件は、恵太の親権は私が持つ。

慰謝料と恵太への養育費は辞退するわ。」


「いいのか?
そんな条件を出しても」


「あと、このマンションの事だけど、ローンも払い終わってるし、売って現金化して半分を私と恵太がもらう。」


「それは勿論構わないが」


「ええ。
出来るだけ早くケリをつけたいのよ。」


「なるほど。
毎月の慰謝料や養育費だと、ずっと俺に関わらなきゃならないから、辞退するってわけか。

俺も嫌われたものだな」


隆之は苦笑いを浮かべた。


「いえ、早く私も恵太も新しい人生を歩み出したいのよ。」

対する由香里は表情ひとつ変えず、毅然とした態度で言い切った。


「わかった。
キミの要求に対し、断る理由なんてないからな。
この家の処分は早めに済ませるよ。

ところで、離婚して家もない状態で、何処へ行くつもりなんだ?

今世話になってる農家に引き続き身を寄せるのか?」


「あなたには関係ないことよ。」


あくまでも冷静に、淡々と答える由香里であった。


「まあ、そうだな。
俺には関係ない事だな。

キミの言う通りにさせてもらうよ
なるべく早く。」

わかりきっていた事とはいえ、二十年近くの結婚生活がこうもあっさり終わりを迎えるのは、由香里にとって、あまりにも寂しいことであった。

もし、敦という存在がなければ、離婚した後、由香里は生きる目的を失っていたかもしれない。

だが、自分には帰る場所がある…

由香里は、離婚届に判をつきながら、自分をあたたかく迎え入れてくれた伊東家の面々に感謝せずにはいられなかった。
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