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許嫁

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「お帰りなさい」

最近は食事の用意をする事が増えてきた由香里が、敦を出迎えた。


「ただいまー」


「あれ?

智さんは…」


「ああ、良二おじさん…

いや、組合長のところに行っててね。」


「だったら敦さん、先にご飯食べますか?」


「えっと、じゃあ頂こうかな

恵ちゃんと莉愛は?」


「お腹が空いてないらしくて、二人で部屋にいます」


「そうなんだ」


敦はテーブルに座り、食事を先に摂ることにした。


由香里はエビや野菜の天ぷらを揚げており、敦に出した。


「いただきます」


敦はかぼちゃの天ぷらを塩で一口食べると、由香里を見つめて頷いた。

「あ、すごく美味しい」


「よかった。
お口に合って」


「由香里さんは、本当に料理が上手なんですねえ」


「そんな事ないですよ。
でも、料理を作るのは大好きなんです。」


「へえ、いい趣味だ」


敦がそう言って笑うと、由香里も嬉しそうに笑った。

だが、由香里はすぐに真顔になり、小さめの声で敦に言った。


「あの、敦さん…」


「ん?
なんですか」


「智さんから提案された話の事なんですけど…」


「‥はい」


「本当にお受けしていただけるんでしょうか。」



「…その、僕と由香里さんが一緒になるっていう話ですか?」


「ええ。そうです」


「由香里さんさえ受けていただけるのなら…」


「敦さん…本当に智さんには申し訳なく思っているのですが、あなたを最初に見たときに、漠然といいなあって思い、事あるごとにその思いは強まっていきました。
そして、あの日…

私にとって、あなたの事がとても大切な存在になっている事に気付いたんです。」


「それは、僕もです…」


「近々、一旦自宅に帰り、離婚の協議を夫とするつもりです。」


「ご主人、びっくりされたんじゃないですか?」


「いえ、元々関係は破綻してましたし、夫もずっと浮気をしていて、外に女がいます
だから、私からの申し出には内心喜んでると思います。

それが証拠に私がメールをしたら、普段は一切返信なんてしてこないのに、すぐに返ってきました。

話し合う用意があるって。」


「そうなんですか…」


「ええ。ですから、私の方については何の障害も残っていません。

ですが、敦さんは…
智さんと夫婦仲が悪かったわけではありませんし、私がここに現れたがために、このような形になってしまったわけで‥」


由香里は真剣な眼差しで敦を見つめて言った。


「由香里さん…」


敦は一瞬、躊躇した様子だったが、堰を切ったように自身の思いを話し始めた。
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