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幻影

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その夜、智は恵太を誘って二人でお風呂に入っていた。

恵太も智に謝りたいと思っていたので、二人きりになれた事は好都合な事だった。


「トモちゃん…

ママにも言ったんだけど、ワタシ…
莉愛ちゃんを…」


湯船に並んで入ると、恵太は居ても立っても居られず、即謝罪の言葉を並べた。


「恵ちゃん
大体の事は話を聞かなくてもわかってるわ」


「…」


「二人とももう十六で分別のつく年頃だし、莉愛だってイヤだと思えば、抵抗する事だって拒否する事だって出来たはず。

それをしなかったのは、莉愛も悪いとワタシは思うわ。」


「でも、ワタシの方から…」


「そうね。
一般論としてはそう言ったけど、親としてはまだ子供だと思っていた娘がそういうことになると…
かなりのショックを受けているのも正直なところね…」


「本当にごめんなさい…」


「でも、もう済んでしまった事だし、莉愛を見る限り、本人も納得しているようだから、これについて、もうとやかく言う事はしないわ。」


「…」


「恵ちゃん

そんな話とは別にね、今回の件で、ワタシはあなたについて、少し心配している事があるのよ。

「えっ、どういうことですか…」


「恵ちゃん、あなたって女の子になりたいと思ってるけど、恋愛対象は男の子じゃなくて女の子なんだよね?」 

「はい。そうです」

「自分のおちんちんについて、嫌悪感も持ってない?」


「えっと、好きではないけど、嫌悪感までは…」


「なかなかレアケースだと思うのよね。

ワタシもの場合もかなりのレアケースだったけど。」

「どういうところがですか?」

「自分のペニスに嫌悪感を抱いてないのに性同一性障害で女性になりたいっていうところがね。

多分、あなたは女性に性的欲求が湧いた場合、そのペニスが反応していると思うの。」


「はい、そうです」


「でも、恵ちゃんは今、女性ホルモンを服用してるでしょ。

まだそんなに期間が経ってないから、影響は出てないかもしれないけど、これからどんどん体が女性化していくと、そういう欲求が失せてくると思うのよね。

性倒錯者の人が、ホルモンしたり去勢したり、性転換すると、元々持っていた欲求が失せてしまって、後悔するって話はよく聞くよ。」


「でも、ワタシは…」


「そうね。
恵ちゃんの状況を見てると、その人達とは違うと思うけど、特殊なパターンであることは間違いないよね。

恵ちゃんはまだ十六だし、色んなことにチャレンジ出来ると共に、引き返したりやり直したりする事も可能なの。

だから、自分というものをもう一度冷静に考える必要があると思うわ」

智の話は恵太には今一つ理解できないものだった。
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