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悪魔の囁き
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本部の商談ブースで、和俊は固まってしまった。
そこに佐藤達也がいたからだ。
どうしようかと考えていたが、達也の方が気付いて声をかけてきた。
「後藤さん」
「あ、どうも」
和俊は少し動揺した雰囲気を出してしまった。
「しかし、まだまだ暑いですねえ」
「そうですね。
今日は商談ですか?」
「そんなのしてくれるわけないじゃないですか。
後藤さんから片上バイヤーに話通して下さいよ。
全然アポ取らしてくんないんだもん」
「いや、僕は部外の人間ですし、あまり話した事もないんで。」
「そうですか、それは残念だなぁ。
ところで、奥さんは元気ですか?」
「元気にしてますよ。
また本人は本部で衣料の仕事をしたいって言ってますが、こればかりは人事の話なのでどうなるかわかりません。」
「そっか。
理沙さんが本部にいる時は良かったよなあ。
あの人、思いっきりが良くて。
決断力があるっていうか、勝負師ですよね。」
「勢いに乗ったら良いけど、失敗するときは被害がめちゃ出ますけど。」
「まあ、ウチも迷惑かけちゃったし、お詫びの印も込めて、また良い話を持って行くってお伝えください。」
「はい、是非そのときは。
それでは、また」
和俊は頭を下げてその場から去ろうとしたが、達也は
「あ、そうそう
後藤さんはウチの元嫁と知り合いなんですね」
と、すました顔で言ってのけた。
「えっ、なんですか?」
上手く返事が出来なかった和俊は、少し早口になってしまった。
「いや、お恥ずかしい話なんですが、私の粗相が原因で二年半くらい前に離婚しましてね。
そのせいで妻は共同経営していた会社も辞めるハメになったんですよ。私が悪いにもかかわらずね。
仕事が大好きなキャリアウーマンの妻の生き甲斐を奪ってしまったという罪の呵責から、私は今更ながらに妻に仕事のパートナーだけでも復活してもらおうとしたんですよ。
ところが、住んでた家も売り払って引っ越してしまって連絡の付けようがなくて。」
「それで、お探しに?」
「ええ。こんなやり方はしたくなかったんですが、興信所を使いましてね。
まあ、なかなか見つけられなかったんですが、先日、ようやく居場所がわかりましてね。」
「そ、そうだったんですか」
「興信所から渡された写真に、後藤さん夫妻と妻が一緒にいるのがありましてね。
となりの学生みたいなのは、聞いてビックリしたんですが、美智香の今の旦那みたいですね」
「…」
「もう、後藤さん水くさいなあ
美智香と知り合いだったんなら教えて下さいよ。
そしたら金かけて探す必要もなかったんだから。
最近会社も儲かってなくてキツイんすから。」
「いや、僕はたまたま妹、いや、弟さんと同級生で
それで知っていただけです。
会ったのも偶然だったんです」
「ほう、智君の同級生なんですか。
彼もニューハーフになって、ホント美人になりましたよね。
男の時から可愛い顔してたけど」
「ハハっ
そうですね…」
「あ、お仕事中に引き留めてすいませんね。
私も名古屋の会社を引き払って、先日から東京に事務所を構えてるんですよ。
やっぱり、勝負するなら東京ですよね。
これからは本部にお邪魔しやすい環境になりましたので、機会があれば一杯やりましょうよ。
それじゃあまた」
達也は笑ってその場からゆっくりと去っていった。
和俊は茫然として、その後ろ姿を見つめることしか出来なかった。
そこに佐藤達也がいたからだ。
どうしようかと考えていたが、達也の方が気付いて声をかけてきた。
「後藤さん」
「あ、どうも」
和俊は少し動揺した雰囲気を出してしまった。
「しかし、まだまだ暑いですねえ」
「そうですね。
今日は商談ですか?」
「そんなのしてくれるわけないじゃないですか。
後藤さんから片上バイヤーに話通して下さいよ。
全然アポ取らしてくんないんだもん」
「いや、僕は部外の人間ですし、あまり話した事もないんで。」
「そうですか、それは残念だなぁ。
ところで、奥さんは元気ですか?」
「元気にしてますよ。
また本人は本部で衣料の仕事をしたいって言ってますが、こればかりは人事の話なのでどうなるかわかりません。」
「そっか。
理沙さんが本部にいる時は良かったよなあ。
あの人、思いっきりが良くて。
決断力があるっていうか、勝負師ですよね。」
「勢いに乗ったら良いけど、失敗するときは被害がめちゃ出ますけど。」
「まあ、ウチも迷惑かけちゃったし、お詫びの印も込めて、また良い話を持って行くってお伝えください。」
「はい、是非そのときは。
それでは、また」
和俊は頭を下げてその場から去ろうとしたが、達也は
「あ、そうそう
後藤さんはウチの元嫁と知り合いなんですね」
と、すました顔で言ってのけた。
「えっ、なんですか?」
上手く返事が出来なかった和俊は、少し早口になってしまった。
「いや、お恥ずかしい話なんですが、私の粗相が原因で二年半くらい前に離婚しましてね。
そのせいで妻は共同経営していた会社も辞めるハメになったんですよ。私が悪いにもかかわらずね。
仕事が大好きなキャリアウーマンの妻の生き甲斐を奪ってしまったという罪の呵責から、私は今更ながらに妻に仕事のパートナーだけでも復活してもらおうとしたんですよ。
ところが、住んでた家も売り払って引っ越してしまって連絡の付けようがなくて。」
「それで、お探しに?」
「ええ。こんなやり方はしたくなかったんですが、興信所を使いましてね。
まあ、なかなか見つけられなかったんですが、先日、ようやく居場所がわかりましてね。」
「そ、そうだったんですか」
「興信所から渡された写真に、後藤さん夫妻と妻が一緒にいるのがありましてね。
となりの学生みたいなのは、聞いてビックリしたんですが、美智香の今の旦那みたいですね」
「…」
「もう、後藤さん水くさいなあ
美智香と知り合いだったんなら教えて下さいよ。
そしたら金かけて探す必要もなかったんだから。
最近会社も儲かってなくてキツイんすから。」
「いや、僕はたまたま妹、いや、弟さんと同級生で
それで知っていただけです。
会ったのも偶然だったんです」
「ほう、智君の同級生なんですか。
彼もニューハーフになって、ホント美人になりましたよね。
男の時から可愛い顔してたけど」
「ハハっ
そうですね…」
「あ、お仕事中に引き留めてすいませんね。
私も名古屋の会社を引き払って、先日から東京に事務所を構えてるんですよ。
やっぱり、勝負するなら東京ですよね。
これからは本部にお邪魔しやすい環境になりましたので、機会があれば一杯やりましょうよ。
それじゃあまた」
達也は笑ってその場からゆっくりと去っていった。
和俊は茫然として、その後ろ姿を見つめることしか出来なかった。
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