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胎動
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美智香は尿検査を行なった後に、診察室に入り、内診を受けた。
内診では、医師は膣鏡による視診と併せて超音波検査も行い、膣の内部にプローブ(触子)を入れ、胎嚢という袋があるかの確認を行った。
「妊娠されていますね。
妊娠九週目です。」
担当の女性医師は淡々とした口調で、美智香に懐妊の事実を伝えた。
「あの、何かの間違いでは?
私は不妊の筈で…」
「不妊?
そう診断されたんですか?過去に」
「いえ」
「だったら、妊娠されても何もおかしくないですよ。」
「えっと…私、四十二歳で、子供が産まれるときには四十三になっています。
てっきり不妊だと思い込んでたので、避妊もしてこなかったんですが…
その高齢出産に対する心の準備も出来てなくて…」
「そうですね、確かにあなたの年齢での初産にはリスクもありますし、ご心配される気持ちもわかります。
でも、日本では年々初産の年齢が上がっていき、今、平均何歳だと思います?
令和三年の統計で、三十歳を超えて、もう久しいのです。
これは平均値ですから、十代で産む方もおられれば、あなたのように四十代の初産も珍しい時代ではなくなっているんですよ。」
「そうなんですか…」
「勿論、医師として安易に言うわけにはいきませんので、リスク面も申しておきますと、妊娠高血圧症候群や、妊娠糖尿病なども、高齢出産ではそのリスクが高くなる傾向にあります。
早産、流産。難産の確率も高くなりますし、染色体異常症や、いわゆる産後の回復も遅い傾向が見られます」
「…」
「別に佐々木さんを脅すつもりはないんですが、あくまでも一般的にそういう傾向があるとだけお伝えしました。」
「わかりました。
主人ともよく相談したいと思います。
でも、先生、私…赤ちゃんが欲しいです。」
美智香はさっきとは打って変わって、力強い言葉で医師を見据えて言った。
支払いを済ませて、来た道をトボトボ歩いて帰る美智香だったが、真弥にどう言おうか、悩まざるを得なかった。
これは奇跡である。
もう10年以上前に諦めた妊娠が、四十二になった今、突然に叶ってしまった。
これって奇跡ではあるが、果たして幸せに繋がる事なんだろうか。
たしかに真弥は自分の事を愛してくれている。
それは疑いようのない事実だ。
しかし、子供が出来た…と、なると、果たして喜んでくれるだろうか
いくら愛し合っている二人だとはいえ、子供が出来ればどうしても子供中心の物の考えになるのは、母親として致し方ないところ。
それを若い、いや、若すぎる真弥は許してくれるだろうか。
今は許すと言ってくれても、この先実際にそういう場面に陥ったとき、何て思うだろうか…
いや、それよりも無事に産めるのだろうか
最悪の場合、母子ともに健康な生活が送れなくなる可能性もある。
考えれば考えるほど憂鬱になった。
内診では、医師は膣鏡による視診と併せて超音波検査も行い、膣の内部にプローブ(触子)を入れ、胎嚢という袋があるかの確認を行った。
「妊娠されていますね。
妊娠九週目です。」
担当の女性医師は淡々とした口調で、美智香に懐妊の事実を伝えた。
「あの、何かの間違いでは?
私は不妊の筈で…」
「不妊?
そう診断されたんですか?過去に」
「いえ」
「だったら、妊娠されても何もおかしくないですよ。」
「えっと…私、四十二歳で、子供が産まれるときには四十三になっています。
てっきり不妊だと思い込んでたので、避妊もしてこなかったんですが…
その高齢出産に対する心の準備も出来てなくて…」
「そうですね、確かにあなたの年齢での初産にはリスクもありますし、ご心配される気持ちもわかります。
でも、日本では年々初産の年齢が上がっていき、今、平均何歳だと思います?
令和三年の統計で、三十歳を超えて、もう久しいのです。
これは平均値ですから、十代で産む方もおられれば、あなたのように四十代の初産も珍しい時代ではなくなっているんですよ。」
「そうなんですか…」
「勿論、医師として安易に言うわけにはいきませんので、リスク面も申しておきますと、妊娠高血圧症候群や、妊娠糖尿病なども、高齢出産ではそのリスクが高くなる傾向にあります。
早産、流産。難産の確率も高くなりますし、染色体異常症や、いわゆる産後の回復も遅い傾向が見られます」
「…」
「別に佐々木さんを脅すつもりはないんですが、あくまでも一般的にそういう傾向があるとだけお伝えしました。」
「わかりました。
主人ともよく相談したいと思います。
でも、先生、私…赤ちゃんが欲しいです。」
美智香はさっきとは打って変わって、力強い言葉で医師を見据えて言った。
支払いを済ませて、来た道をトボトボ歩いて帰る美智香だったが、真弥にどう言おうか、悩まざるを得なかった。
これは奇跡である。
もう10年以上前に諦めた妊娠が、四十二になった今、突然に叶ってしまった。
これって奇跡ではあるが、果たして幸せに繋がる事なんだろうか。
たしかに真弥は自分の事を愛してくれている。
それは疑いようのない事実だ。
しかし、子供が出来た…と、なると、果たして喜んでくれるだろうか
いくら愛し合っている二人だとはいえ、子供が出来ればどうしても子供中心の物の考えになるのは、母親として致し方ないところ。
それを若い、いや、若すぎる真弥は許してくれるだろうか。
今は許すと言ってくれても、この先実際にそういう場面に陥ったとき、何て思うだろうか…
いや、それよりも無事に産めるのだろうか
最悪の場合、母子ともに健康な生活が送れなくなる可能性もある。
考えれば考えるほど憂鬱になった。
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