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夕方六時を回って、ようやく敦と光江が帰って来た。
「ただいま」
「おかえり、おばあちゃん、パパ」
莉愛がそう言って玄関に現れると、光江の表情が忽ち明るくなった。
「莉愛ちゃん!
帰って来てたの!」
「うん。少し前にね
おばあちゃん、具合悪いっていうから心配してたんだけど、大丈夫?」
「うん。おばあちゃんは全然大丈夫よ
ちょっとねえ、風邪を拗らせちゃっただけ。」
「そうなんだ
あまり、無理したらダメだよ。
農作業はパパとママにやらせとけばいいんだからね」
「それも、そうね」
二人が笑い合う中、敦が靴を脱いで智の方に近づいてきた。
「ただいま。
病院が混んでて、こんな時間になっちゃったよ、」
「あっちゃん、お疲れ様
どうだったの…」
「ああ、後で話すよ」
敦は明るくも暗くもならず、落ち着いたトーンで言った為、智は判断がつきかねた。
智、敦、光江、そして莉愛と、久しぶりに四人が揃った食卓は、賑やかな雰囲気になり、光江にも笑顔が戻った。
智はそんな姿を見て、検査の結果が楽観視出来るものだったと悟り、安堵した。
食事、お風呂が終わり、莉愛と光江がそれぞれ自分の部屋に戻り、敦と智も寝室に入った。
「あなた、今日はお疲れ様でした。」
「ああ。病院てやつは、予約してるっていうのに、平気で待たせるんだから、かなわないよ」
敦はウンザリしたような表現で言った。
「で、お義母さん、検査の結果はどうだったの?」
「うん…
乳癌だったよ」
「乳癌?」
「ああ。
既に肺への遠隔転移が起きてて、風邪のような症状は、それが原因だそうだ。」
「転移…
という事は…」
「ステージⅣという事だった。」
「…」
敦は頭を抱えて、暫し考えている様子だったが、すぐに顔を上げて智を見つめた。
「なあ、トモ…
僕は諦めたくないんだ。
奇跡を信じて、やれるだけの事はやってやりたいと思っているんだ。」
「うん。ワタシもそうするべきだと思う。
世の中にはそこから良くなっていった人だって山ほどいるんだし。」
智は同じようにガンに侵され二十代で亡くなった妻の奈々の事を思い出していた。
「智、せっかく畑の方が上手く行きかけている中でこのような事になったのは、僕としても心苦しいんだけど、母さんを死なせたくないんだ」
「わかってるわ
畑の方はワタシが守るから
あなたはお義母さんに付いていてあげて」
「すまない
君にもまた負担をかけてしまう事を許してほしい」
「何を言ってるの?
夫婦なんだし、そんなの当然でしょ
幸いな事にお金も少しは余裕があるし、入院費用に使ってもらえれば…
足りなければ、姉に貸してもらうから」
「いや、そこまでは…
でも、ありがとう」
敦は智の腕を掴み、肩に顔を押し付けるようにして咽び泣いた。
「ただいま」
「おかえり、おばあちゃん、パパ」
莉愛がそう言って玄関に現れると、光江の表情が忽ち明るくなった。
「莉愛ちゃん!
帰って来てたの!」
「うん。少し前にね
おばあちゃん、具合悪いっていうから心配してたんだけど、大丈夫?」
「うん。おばあちゃんは全然大丈夫よ
ちょっとねえ、風邪を拗らせちゃっただけ。」
「そうなんだ
あまり、無理したらダメだよ。
農作業はパパとママにやらせとけばいいんだからね」
「それも、そうね」
二人が笑い合う中、敦が靴を脱いで智の方に近づいてきた。
「ただいま。
病院が混んでて、こんな時間になっちゃったよ、」
「あっちゃん、お疲れ様
どうだったの…」
「ああ、後で話すよ」
敦は明るくも暗くもならず、落ち着いたトーンで言った為、智は判断がつきかねた。
智、敦、光江、そして莉愛と、久しぶりに四人が揃った食卓は、賑やかな雰囲気になり、光江にも笑顔が戻った。
智はそんな姿を見て、検査の結果が楽観視出来るものだったと悟り、安堵した。
食事、お風呂が終わり、莉愛と光江がそれぞれ自分の部屋に戻り、敦と智も寝室に入った。
「あなた、今日はお疲れ様でした。」
「ああ。病院てやつは、予約してるっていうのに、平気で待たせるんだから、かなわないよ」
敦はウンザリしたような表現で言った。
「で、お義母さん、検査の結果はどうだったの?」
「うん…
乳癌だったよ」
「乳癌?」
「ああ。
既に肺への遠隔転移が起きてて、風邪のような症状は、それが原因だそうだ。」
「転移…
という事は…」
「ステージⅣという事だった。」
「…」
敦は頭を抱えて、暫し考えている様子だったが、すぐに顔を上げて智を見つめた。
「なあ、トモ…
僕は諦めたくないんだ。
奇跡を信じて、やれるだけの事はやってやりたいと思っているんだ。」
「うん。ワタシもそうするべきだと思う。
世の中にはそこから良くなっていった人だって山ほどいるんだし。」
智は同じようにガンに侵され二十代で亡くなった妻の奈々の事を思い出していた。
「智、せっかく畑の方が上手く行きかけている中でこのような事になったのは、僕としても心苦しいんだけど、母さんを死なせたくないんだ」
「わかってるわ
畑の方はワタシが守るから
あなたはお義母さんに付いていてあげて」
「すまない
君にもまた負担をかけてしまう事を許してほしい」
「何を言ってるの?
夫婦なんだし、そんなの当然でしょ
幸いな事にお金も少しは余裕があるし、入院費用に使ってもらえれば…
足りなければ、姉に貸してもらうから」
「いや、そこまでは…
でも、ありがとう」
敦は智の腕を掴み、肩に顔を押し付けるようにして咽び泣いた。
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