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たった一人の‥

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風俗に復帰してから六連勤と、フル稼働の智だったが、若い頃と違い、やはり体がキツくなってきたので、翌日は休みを取る事にした。

ただ、寮にいても疲れが取れないので、午前中に外出し、カフェでランチする事にし、のんびりとした時間を過ごしていた。


東京に来て、会いたかった人にはほぼ会うことができて、あと会えていないのは、一時男として働いていた時に、慰安旅行で関係を持ってしまった貴島くらいだったが、さすがに男に会うわけにもいかず、そこは自重した。



「あっ」


智は一人でいたにもかかわらず、思わず声を出してしまった。

一番大事な人を忘れていた‥

そう、姉の美智香の事を‥

この世で娘の莉愛と美智香の二人しかいない、血の繋がっている身内だ。


智がニューハーフになってから、いや、大学に行っていた頃から疎遠となり、会うのは両親の墓参りだけだった。

しかし、智の人生があまりにも慌ただしく変化したため、もう十年ほど会えていない。

たまにLINEや電話で話すこともあったが、それすらも、もう何年もしていなかった。



智はせっかく東京に出てきているのだからと、美智香に電話をかけてみた。


三回ほどのコールで、美智香が電話に出てきた。


「もしもし、あ、お姉ちゃん

久しぶり…」


「もしもし、智?」


「うん。ご無沙汰してます」


「ご無沙汰じゃないわよ。

アンタ何で連絡してこないのよ!」


「色々忙しくて、ごめんね。
でも、それならお姉ちゃんが電話かけてくれたらよかったのに」


「バカ言わないで。

アンタ、電話番号変えたでしょ!

その番号を私、知らないよ」


「あ、ごめんなさいっ!

あの時は週刊誌に追いかけられたり、精神的にマイっててて、電話番号を変えたの。」


「フツーは身内には真っ先に教えるでしょ」 
 

「本当にごめんなさい」

 
「まあ、元気そうで安心したわ。

今何処に住んでるのよ?」


「ずっと田舎で旦那の実家の農業を手伝ってたんだけど、
ちょっとワケあって、今は一人で東京にいるのよ。」


「あ、そうなんだ。
私も今、こっちなんだよ。」


「えっ、そうなの?

お姉ちゃんに会いたいな」


「そうね。

さすがに十年も会ってないと、顔も見たいし話もしたいわ。」


智は美智香と待ち合わせをし、久々の対面を果たしたのだった。
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