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静寂のとき
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莉愛も学校を嫌がらずに毎日通い、智も風俗の仕事を淡々とこなす日々が続いていた。
ニューハーフに転身してから十年近くが経過し、ずっと波瀾万丈な日々が続いていたが、ここにきてようやく生活に落ち着きが出てきた。
刺激こそ無いが、最愛の娘と二人での生活は何にも代え難く、さらに、娘は自分のことをママと呼んでくれている。
この幸せだけは何が何でも守らなければいけない。
智はそう心に誓い、日々の生活を送るのだった。
智の一日の生活は、朝五時に起きる事から始まる。
洗顔などを行い、化粧をし、髪型を整える。
洗濯をし、続いて朝食を作る。
六時半頃、莉愛を起こし、着替えや朝の準備は自分でやらせるが、声かけをして、促す事はしなければならない。
莉愛に朝食を食べさせ、学校に送り出し、洗濯物を干す。
掃除機をかけたり、家事全般はこの時間帯にこなし、出勤の準備を始める。
午前十一時過ぎに家を出て、店には遅くとも十二時五分前に入るようにしている
そこから夜の七時に上がるまで、可能な限り、客の相手をするのだ。
前の客と後の客とのインターバルは最低三十分取らなければいけないので、七時間勤務のうち、びっしり予約が入っても全部をこなすわけにはいかず、一日に四人の客を取るのが精一杯だった。
それでも、智は店で断トツの人気嬢で星ランクは5である。
これは単価が高い事を意味し、一番ランクの低い星1の嬢と比べると、一時間の予約で一万円の差がある。
それでも智目当ての客は他の嬢に比べて圧倒的に多く、成績はずっとトップを走っているのである。
いつまでもこの仕事は続けていられないが、莉愛を大学まで行かせられる目処がつくまでは頑張ろうと心に誓っていた。
勿論、莉愛と一緒にすごす時間は大切にしなければならない事は重々承知する智だったが、収入の事を気にするあまり、土曜日も出勤する事も多々あり、確実に休むのは日曜日のみとなっていた。
その分ベビーシッターへの支払いが嵩んでいくのだが、今はそれ以上に稼げているので、収支のバランスが保てる間は続けようと考えていた。
その日も土曜日で、莉愛が家にいるにもかかわらず、智は出勤してきた。
予約は最後までほとんど埋まっており、出るに値しているから出勤していたのだが…
「おはようございます。」
「トモちゃんおはよう。
来て早々なんだけど、もうお客様が店の前まで来てて、今待ってもらってます。」
「あ、わかりました。
すぐにスタンバイします。」
「407を使って下さい。
お客様のお名前は伊村さまで、二時間コース、オプションは有料無料とも特に指定なしです。」
「はーい」
智はすぐさま四階に上がり、エレベーターの前に立った。
この時点で、スタッフは客にOKを出し、エレベーターで上がる階を伝えるのだ。
智はエレベーターから降りた客を笑顔で出迎え、部屋に案内する。
これが一連の流れである。
いつものようにエレベーターが開き、智は笑顔で
「こんにちは」
と、言った
そこまでは日々のルーティンだったが、エレベーターから出て来た客を見て固まった。
「えっ」
客は智が知る人物…
伊藤であった
そう
莉愛のクラスの担任をしている…あの伊藤であった。
ニューハーフに転身してから十年近くが経過し、ずっと波瀾万丈な日々が続いていたが、ここにきてようやく生活に落ち着きが出てきた。
刺激こそ無いが、最愛の娘と二人での生活は何にも代え難く、さらに、娘は自分のことをママと呼んでくれている。
この幸せだけは何が何でも守らなければいけない。
智はそう心に誓い、日々の生活を送るのだった。
智の一日の生活は、朝五時に起きる事から始まる。
洗顔などを行い、化粧をし、髪型を整える。
洗濯をし、続いて朝食を作る。
六時半頃、莉愛を起こし、着替えや朝の準備は自分でやらせるが、声かけをして、促す事はしなければならない。
莉愛に朝食を食べさせ、学校に送り出し、洗濯物を干す。
掃除機をかけたり、家事全般はこの時間帯にこなし、出勤の準備を始める。
午前十一時過ぎに家を出て、店には遅くとも十二時五分前に入るようにしている
そこから夜の七時に上がるまで、可能な限り、客の相手をするのだ。
前の客と後の客とのインターバルは最低三十分取らなければいけないので、七時間勤務のうち、びっしり予約が入っても全部をこなすわけにはいかず、一日に四人の客を取るのが精一杯だった。
それでも、智は店で断トツの人気嬢で星ランクは5である。
これは単価が高い事を意味し、一番ランクの低い星1の嬢と比べると、一時間の予約で一万円の差がある。
それでも智目当ての客は他の嬢に比べて圧倒的に多く、成績はずっとトップを走っているのである。
いつまでもこの仕事は続けていられないが、莉愛を大学まで行かせられる目処がつくまでは頑張ろうと心に誓っていた。
勿論、莉愛と一緒にすごす時間は大切にしなければならない事は重々承知する智だったが、収入の事を気にするあまり、土曜日も出勤する事も多々あり、確実に休むのは日曜日のみとなっていた。
その分ベビーシッターへの支払いが嵩んでいくのだが、今はそれ以上に稼げているので、収支のバランスが保てる間は続けようと考えていた。
その日も土曜日で、莉愛が家にいるにもかかわらず、智は出勤してきた。
予約は最後までほとんど埋まっており、出るに値しているから出勤していたのだが…
「おはようございます。」
「トモちゃんおはよう。
来て早々なんだけど、もうお客様が店の前まで来てて、今待ってもらってます。」
「あ、わかりました。
すぐにスタンバイします。」
「407を使って下さい。
お客様のお名前は伊村さまで、二時間コース、オプションは有料無料とも特に指定なしです。」
「はーい」
智はすぐさま四階に上がり、エレベーターの前に立った。
この時点で、スタッフは客にOKを出し、エレベーターで上がる階を伝えるのだ。
智はエレベーターから降りた客を笑顔で出迎え、部屋に案内する。
これが一連の流れである。
いつものようにエレベーターが開き、智は笑顔で
「こんにちは」
と、言った
そこまでは日々のルーティンだったが、エレベーターから出て来た客を見て固まった。
「えっ」
客は智が知る人物…
伊藤であった
そう
莉愛のクラスの担任をしている…あの伊藤であった。
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