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突破口
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「早速ですが、今日は何故私と会おうとされたんですか。」
智が先に本題に入った。
「ああ、そうだった。
娘が亡くなり、孫の莉愛を私達夫婦が引き取ったことを君は相当恨んでるだろうね。」
「ええ。正直言いまして、恨んでいます。」
「君の立場からすればそうだろう。
だが、あの時の判断は間違ってはいないと、今もそう思っている。」
俊之は小さな声だったが、はっきりとした口調で言い切った。
「‥」
「そんな過去の話はもう関係なかったな。
今日、君を呼び出してまでして話がしたかった事は‥
唐突な事を言って申し訳ないが、孫を君の元に戻そうと思っている。」
「はっ?」
「実は、先日、妻の恵理が亡くなったんだ。」
「えっ‥」
「脳梗塞で、突然にね。
直前まで元気にしていたから、こんな事になるなんて夢にも思わなかった。」
「それは‥大変でしたね。」
「娘が亡くなったときはショックで生きる気力さえ失ってしまったが、正直、今回のことも‥私にはとてもキツかった。」
「‥」
「莉愛の食事を作ったり、身の回りの世話は妻が一人でやってくれていたものだから、亡くなった後、私は何も出来ずに途方に暮れてしまった。
幸い、見るに見かねた近所の人がご飯を作ってきてくれたり、手伝ってくれたので、なんとかなったが、いつまでも頼るわけにはいかない。」
「‥」
「私には頼れる親戚もいなければ、知り合いもいない。
それに、私自身の健康面にも不安があって、いつどうなるかもわからない。
勝手な言い分だと思うだろうが、莉愛を託せるのは、もう君しかいないんだ。」
「それじゃあ‥」
「どうか、莉愛を君の手で育ててやって欲しい。」
俊之はテーブルに額が擦りつかんばかりに深々と頭を下げた。
「お義父さん
頭を上げてください。
私もあなたには言いたい事があります。
でも、そう思っていたのはずっと過去の話です。
もし、私があなたと同じ立場にいたら、きっと似たような事をしたでしょう。」
「‥」
「こんな風体の人間に莉愛を託すのは不安だと思いますが、娘を思う気持ちは誰にも負けないつもりですし、経済的にも不自由な思いをさせることはありません。
食事や家事全般についても、世の母親並みには出来るつもりです。
ですから、その辺の事は心配なさらないでください。
あとは‥
莉愛と離れてかなりの期間が経過しましたし、私の事もハッキリは覚えていないと思います。
そこが心配な点です。」
「その辺の事は心配しなくてもいいと思う。
君と住みたいと言ったのは莉愛だ。」
「そんな‥
年齢的にも莉愛は私の事をハッキリとは憶えていないはず‥」
「たしかに記憶はないかもしれない
だが、奈々の生前の写真は見せていたから母親の事はよく認識出来ている」
「それはそうでしょう
でも、私の写真や映像をあなた方は持ってるはずもないし、持っていても決して見せることはなかったでしょう。
だから、私の事など記憶に残ってるわけないです。」
「勿論その通りだが、これを見て欲しい」
俊之は懐から何やら取り出しながら言った。
智が先に本題に入った。
「ああ、そうだった。
娘が亡くなり、孫の莉愛を私達夫婦が引き取ったことを君は相当恨んでるだろうね。」
「ええ。正直言いまして、恨んでいます。」
「君の立場からすればそうだろう。
だが、あの時の判断は間違ってはいないと、今もそう思っている。」
俊之は小さな声だったが、はっきりとした口調で言い切った。
「‥」
「そんな過去の話はもう関係なかったな。
今日、君を呼び出してまでして話がしたかった事は‥
唐突な事を言って申し訳ないが、孫を君の元に戻そうと思っている。」
「はっ?」
「実は、先日、妻の恵理が亡くなったんだ。」
「えっ‥」
「脳梗塞で、突然にね。
直前まで元気にしていたから、こんな事になるなんて夢にも思わなかった。」
「それは‥大変でしたね。」
「娘が亡くなったときはショックで生きる気力さえ失ってしまったが、正直、今回のことも‥私にはとてもキツかった。」
「‥」
「莉愛の食事を作ったり、身の回りの世話は妻が一人でやってくれていたものだから、亡くなった後、私は何も出来ずに途方に暮れてしまった。
幸い、見るに見かねた近所の人がご飯を作ってきてくれたり、手伝ってくれたので、なんとかなったが、いつまでも頼るわけにはいかない。」
「‥」
「私には頼れる親戚もいなければ、知り合いもいない。
それに、私自身の健康面にも不安があって、いつどうなるかもわからない。
勝手な言い分だと思うだろうが、莉愛を託せるのは、もう君しかいないんだ。」
「それじゃあ‥」
「どうか、莉愛を君の手で育ててやって欲しい。」
俊之はテーブルに額が擦りつかんばかりに深々と頭を下げた。
「お義父さん
頭を上げてください。
私もあなたには言いたい事があります。
でも、そう思っていたのはずっと過去の話です。
もし、私があなたと同じ立場にいたら、きっと似たような事をしたでしょう。」
「‥」
「こんな風体の人間に莉愛を託すのは不安だと思いますが、娘を思う気持ちは誰にも負けないつもりですし、経済的にも不自由な思いをさせることはありません。
食事や家事全般についても、世の母親並みには出来るつもりです。
ですから、その辺の事は心配なさらないでください。
あとは‥
莉愛と離れてかなりの期間が経過しましたし、私の事もハッキリは覚えていないと思います。
そこが心配な点です。」
「その辺の事は心配しなくてもいいと思う。
君と住みたいと言ったのは莉愛だ。」
「そんな‥
年齢的にも莉愛は私の事をハッキリとは憶えていないはず‥」
「たしかに記憶はないかもしれない
だが、奈々の生前の写真は見せていたから母親の事はよく認識出来ている」
「それはそうでしょう
でも、私の写真や映像をあなた方は持ってるはずもないし、持っていても決して見せることはなかったでしょう。
だから、私の事など記憶に残ってるわけないです。」
「勿論その通りだが、これを見て欲しい」
俊之は懐から何やら取り出しながら言った。
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