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水入らず

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その日、智と律子は約束通り、一緒にお風呂に入った。

生まれながらの女性ではない事を気にする自分に対する、律子の最大限の気遣いを感じ、智は躊躇する事なく、全裸になり、股間を隠すこともしなかった。

律子はその美しい肢体を目の当たりにし、感嘆の声を上げた。

「トモ、なんて綺麗な体をしてるの!」

「恥ずかしいです。」

「和俊があなたに夢中になるのもわかるわ。」

「そんな事ないです。
ワタシが和俊さんに夢中になってるんですから。」

「トモ、敬語になってるわよ。

親子で敬語なんておかしいって言ったでしょ。」

「あ、ごめん
気をつけるわ、お母さん。」

「それでいいのよ。」

律子が笑って言うと、智も思わず笑顔になった。

「お母さん、背中流すよ。」

「うん、お願い」

智は律子を椅子に座らせ、自らは両膝をついて背中を流してあげたのだった。

昨日会ったばかりなのに、律子の思惑通り、智は和俊の両親への後ろめたさを払拭することが出来て、一気に溶け込むことが出来た。

「お母さん、ワタシの為に色々気遣ってくれて‥ありがとう‥」

そんな律子の優しさに、智は我慢出来ずに涙を流してしまった。

「トモ、あなたは私達の家族なんだからね。

何があっても私とお父さんはあなたの味方だからね。」

律子はそう言って智の手に自分の手を添えた。

二人はお風呂を出た後も、居間で色んな話をして盛り上がると、博史もテレビを見るのをやめて、会話に入ってきた。

除け者にされた和俊は、智が一向に部屋に戻って来ないのに苛つき、下に降りてきた。

和俊が居間に行くと、すっぴんでパジャマ姿の智が、博史の肩を揉んでいた。

「あーっ、何してんの!」

「ああ、和俊か。

トモちゃんに肩揉んでもらってるんだよ。」

「トモ、やりすぎだよ。
そんな事しなくていいから。」

「ううん。
ワタシがしたいの。
ねっ、お父さん。」

智は博史の斜め後ろから顔を出し、笑って言った。

「こんな可愛い娘が出来て、父さんも母さんも大喜びだよ。」

確かに、肩を揉むくらいの事はどうって事ない話だ。

しかし、和俊が不満に思ったのは、美人とはいえ、すっぴんを親の前に晒してる智の不用心さと、ノーブラで博史の背中を揉む智の胸が揺れ、さらに先端が当たっているのではないかという疑念が生じてのものだった。

僅か一晩一緒に生活しただけで、両親は智の事をいたく気に入り、本当の娘以上の感情を持っている。

それはそれで良い事だが、やはり複雑な心境になる和俊だった。
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