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運命の日

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「16のE、あ、ここだ。」

和俊は自分達の座席を見つけると、窓側の席に智を座らせ、自分は通路側のD席に腰掛けた。

遂に和俊の両親に挨拶をする日を迎え、二人は新幹線の中にいた。

早くも緊張感に包まれた智は、朝から口数も少なく、何度も鏡でメイクを確認した。

「緊張する事ないよ。こんなのただの通過儀礼に過ぎないし、俺らの気持ちがしっかりしていれば、周りに何と言われても関係ないんだから。」

「カズ、アンタはそう言うけど、ワタシの立場からすれば、緊張もするし、後ろめたさも全開よ。」

「なるようになるさ。
あ、車内販売が来たよ。何か要る?」

「何もいらない。」


智が結婚の挨拶をするのは二回目だった。
前回は奈々の両親に、男としての挨拶を行ったが、あのときとは比べものにならないくらい緊張している。

奈々と結婚したのは学生の時だったし、勢いで突っ走った感もあり、怖いものなしだった。

だが、今回は女として赴く。
生まれながらの女性ではない自分が、だ。

否が応でも心がざわつくのは仕方ない事だった。

このまま、永遠に電車の中にいたい心境に陥ったが、こういうときほど、あっという間に着いてしまうものだ。

二人は新幹線から在来線に乗り換え、あっという間に地元の駅までやってきた。

「久しぶりの地元だ。」

和俊は能天気な顔して、改札を抜けたところで、周りを見回しながら、智に話しかけた。

「‥」

「トモ、ほら、見て。
あのコンビニ」

「‥」

「あそこでお前に会わなかったら、俺はまだ引きこもり生活を送ってるよ。

俺はトモの事を心から愛していると共に、本当に感謝してるんだ。

ありがとう。」

「もう、大げさだよ。
それよりも、カズの家って、ここからどれくらいかかるの?」

「あー、近いよ。
歩いて五分」

もう、待ったなしの状況となり、智の緊張感は極限に達した。

二人は懐かしい街並みを歩きながら、確認事項を再チェックした。

「ワタシの事、なんて言ってる?
オカマを連れて帰るって説明してくれてんのよね?」

「そんな事言ってない。
好きな人が出来て、結婚の約束もしたから、お盆に連れて帰るって言っただけ。」   

「コラっ、何をハードル上げてんのよ。
ヤバイよ、それは。」

「そういうことは、ちゃんと顔見て話した方がいいよ。

心配しなくても、俺の口から説明するから。」

「そういうところだけ、しっかりした事言うんだから。」

智は呆れと極度の緊張から、少し笑ってしまった。


「着いたよ。」

和俊は一戸建てで比較的新しい家を指差して言った。

立派な門構えで、表札には後藤という文字も刻まれている。

もう逃げられない。

和俊は、そんな智の心境を慮る事なく、勢いよくインターホンのボタンを押した。

すぐに

「はーい」

という女性の声がスピーカーから聞こえてきた。

「あ、俺」

和俊が短く答えると、十秒ほどして、家のドアが開けられた。

門の外から、智はおそるおそるその方向を見ると、和俊の思しき年配の女性が顔を出していた。

智は慌てて頭を下げた。
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