カジュアルセックスチェンジ

予定調和

プロポーズへの答えを出さないまま、日にちだけが過ぎていった。

昼前に、智が目を覚ますと、和俊からのLINEメールが入っていた。

内容は、以前から言っていた通り、パリ店出店の為に、向こうに赴任するメンバーに選ばれたという事を知らせるものだった。

智は、この前、ここで和俊からこの話と、さらに結婚の申し込みまでされ、ずっと考える日々が続いていた。

勿論、和俊の申し出を受け、妻としてフランスに付いていくという覚悟があるのか、という事と、最初のハードルとして、和俊の両親に結婚を許してもらえるのか、という二点に対してだ。

そして、ゆくゆくは戸籍の性別を変更するために、性適合手術、所謂性転換手術も視野に入れていかなければならないという事。

問題は山積していた。

だが、智の心の中で、大きなウエイトを占めていたのは、それらの事ではない。

和俊から言われた、もう一度自分のスキルを活かした仕事をした方がいいという言葉であった。

ニューハーフとして生きる事と引き換えに、完全に捨てた自分のキャリアを、復活させられる可能性があるのではないか

エリート街道を進み続けていた七年前の、あのときの自分に戻れるのではないか
それも、女性の姿で‥

そう考えると、どこからともなく力が湧いてきて、心が高揚していった。

そして、傷つくのを恐れ、和俊の気持ちをまだ受け入れていなかったが、ようやく答えが出た。

彼を信じて付いていこう。

智は和俊から来たメールを見ながら、小さく一度頷いたのだった。