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恋慕
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夜の七時頃、和俊が智の家を訪ねてきた。
勿論、前もってLINEを入れていたのではあるが‥
「どうしたのよ。昨日泊まって帰ったばっかじゃん。」
「もう、あれから三十時間以上経過してるよ。
つまり、丸一日以上だ。」
「別にいいけど、ワタシ、今日お仕事なのよ。
二時間ほど経ったら出かけなくちゃなんないし。」
「あ、ごめん。
すぐ帰るから‥えっと、コレ。」
和俊は手に持っていた袋を智に渡した。
「えっ、何?」
「牛肉
和牛の良いやつだよ。」
「どうしたの?売場から盗んできたの?」
「そんな事しないよ。ちゃんと買ったよ。
社員価格で。」
「なんだ、買ったんだったら自分で使いなよ。」
「いや、俺料理苦手だし、あと、一昨日食べさせてもらったカレーに感動しちゃって、もう一回食べさせて欲しいなって。」
「そんなの別にいいけど、こんな良いお肉、カレーなんかに使わないよ、フツー。」
「いいのいいの、ここに来る口実を作るためでもあるんだから。」
「ネタバレすんなよー。
わかったわよ、また作るわ。」
「やった
ありがとう、トモ
じゃあ、俺帰るわ。」
「まだ時間あるし、ご飯食べてく?」
「えっ、いいの?」
「お肉だけもらって、ハイ、サヨナラするほど、ワタシも悪人じゃないしね。
それに、一人でご飯食べるのも味気ないし‥」
智は和俊を座らせて、自分で食べようと用意していた鯖の塩焼き他数品を振る舞った。
「やっぱりトモは天才だね。」
この和食についても、和俊は感嘆の声を上げ、満足そうに次々と口に運んだ。
「ごめんね、仕事前に邪魔しちゃって。」
食べ終わると、片付けを始める智に向かって、和俊は申し訳なさそうに声をかけた。
「別にいいのよ。どうせ余らせて冷蔵庫に置いとく分だったしね。
あ、カズ‥」
「ん、どうした?」
「ワタシさあ、引越しを考えてるのよ。」
「引越し?」
「うん。
奥さんが亡くなって、娘も取り上げられてさあ、生きる気力が無くなって、このワンルームに越してきたんだけど‥」
「うん。」
「また、頑張って生きてこうって思い出した途端に、ここの狭さに耐えられなくなってきたのよ。
料理も満足に作れないキッチンに、小さ過ぎる冷蔵庫‥」
「まあ、そうだよね。」
「それに」
「それに?」
「これから、こうやってカズが家に来るかと思うと、この狭さは致命的だって。」
「そうそう、俺めっちゃ来るよ、ここに。」
「調子に乗んなよ。」
「ごめん。」
「そういうわけで、これから休みの日は不動産巡りをするから、ちょっと忙しくなるけど、許してね。」
智がそう言うと、和俊はお茶を一口飲んで頷いた。
「トモさあ、今、思ったんだけど、一緒に住まない?俺と。」
「はっ?」
「俺もさあ、ちょっと通勤に時間がかかってて、店の近くに引っ越そうかなって考えてたんだよ。
もし、一緒に住んだら、より広いとこを借りれるし、家賃も半分で良いし、最高じゃない?」
「ちょっと待った!
あのねえ、昨日ワタシが言った話忘れたの?
アンタは先ず、彼女を探す事。
一緒に住んだら、それこそマズいことばかりで苦労するだけだよ。」
「いや、俺もさあ、トモにそう言われたものの、昨日よくよく考えてみたのよ。
どう考えても、トモより好きな人なんて出来ないし、こんな気持ちで探す気にもならない。
だから、彼女探しの話は無しにする。」
「ダメダメ、童貞くん特有の短絡的な考えよ。
もう少し冷静に考えてみて。」
「冷静に考えた結果だよ。」
「二十歳そこそこならまだわかる気もするけど、ワタシらもう三十だよ。
田舎のご両親もカズの結婚や孫の誕生を楽しみにしてるに違いないわ。
この歳になると、自分だけの気持ちで突っ走る事なんて出来ないのよ。わかるよね?」
「親は、俺が引きこもりから脱しただけでも、大喜びで、結婚やその後の事まで考えちゃいないよ。
それに、親は子供の幸せを一番に考えるものでしょ?
俺がトモと一緒にいる事を幸せに思うなら、親も反対する理由はないんだよ。」
「アンタ、ディベート強そうね。」
智は笑って言った。
「俺、お前と地元で再会して、そして、一昨日また会う事が出来た。
やっぱり、あのときからずっとトモの事が好きなんだって自覚できたし‥
心から愛してる‥」
「ストレートだね」
「トモが俺のことをどう思おうと関係ないよ。俺の気持ちはブレないし。」
「カズ‥
ワタシも好きだよ。
久しぶりに会えて、嬉しかったし、すごく輝いてるカズをまた見る事が出来たし。
でも‥」
智は少し暗い顔になり、和俊を見つめた。
勿論、前もってLINEを入れていたのではあるが‥
「どうしたのよ。昨日泊まって帰ったばっかじゃん。」
「もう、あれから三十時間以上経過してるよ。
つまり、丸一日以上だ。」
「別にいいけど、ワタシ、今日お仕事なのよ。
二時間ほど経ったら出かけなくちゃなんないし。」
「あ、ごめん。
すぐ帰るから‥えっと、コレ。」
和俊は手に持っていた袋を智に渡した。
「えっ、何?」
「牛肉
和牛の良いやつだよ。」
「どうしたの?売場から盗んできたの?」
「そんな事しないよ。ちゃんと買ったよ。
社員価格で。」
「なんだ、買ったんだったら自分で使いなよ。」
「いや、俺料理苦手だし、あと、一昨日食べさせてもらったカレーに感動しちゃって、もう一回食べさせて欲しいなって。」
「そんなの別にいいけど、こんな良いお肉、カレーなんかに使わないよ、フツー。」
「いいのいいの、ここに来る口実を作るためでもあるんだから。」
「ネタバレすんなよー。
わかったわよ、また作るわ。」
「やった
ありがとう、トモ
じゃあ、俺帰るわ。」
「まだ時間あるし、ご飯食べてく?」
「えっ、いいの?」
「お肉だけもらって、ハイ、サヨナラするほど、ワタシも悪人じゃないしね。
それに、一人でご飯食べるのも味気ないし‥」
智は和俊を座らせて、自分で食べようと用意していた鯖の塩焼き他数品を振る舞った。
「やっぱりトモは天才だね。」
この和食についても、和俊は感嘆の声を上げ、満足そうに次々と口に運んだ。
「ごめんね、仕事前に邪魔しちゃって。」
食べ終わると、片付けを始める智に向かって、和俊は申し訳なさそうに声をかけた。
「別にいいのよ。どうせ余らせて冷蔵庫に置いとく分だったしね。
あ、カズ‥」
「ん、どうした?」
「ワタシさあ、引越しを考えてるのよ。」
「引越し?」
「うん。
奥さんが亡くなって、娘も取り上げられてさあ、生きる気力が無くなって、このワンルームに越してきたんだけど‥」
「うん。」
「また、頑張って生きてこうって思い出した途端に、ここの狭さに耐えられなくなってきたのよ。
料理も満足に作れないキッチンに、小さ過ぎる冷蔵庫‥」
「まあ、そうだよね。」
「それに」
「それに?」
「これから、こうやってカズが家に来るかと思うと、この狭さは致命的だって。」
「そうそう、俺めっちゃ来るよ、ここに。」
「調子に乗んなよ。」
「ごめん。」
「そういうわけで、これから休みの日は不動産巡りをするから、ちょっと忙しくなるけど、許してね。」
智がそう言うと、和俊はお茶を一口飲んで頷いた。
「トモさあ、今、思ったんだけど、一緒に住まない?俺と。」
「はっ?」
「俺もさあ、ちょっと通勤に時間がかかってて、店の近くに引っ越そうかなって考えてたんだよ。
もし、一緒に住んだら、より広いとこを借りれるし、家賃も半分で良いし、最高じゃない?」
「ちょっと待った!
あのねえ、昨日ワタシが言った話忘れたの?
アンタは先ず、彼女を探す事。
一緒に住んだら、それこそマズいことばかりで苦労するだけだよ。」
「いや、俺もさあ、トモにそう言われたものの、昨日よくよく考えてみたのよ。
どう考えても、トモより好きな人なんて出来ないし、こんな気持ちで探す気にもならない。
だから、彼女探しの話は無しにする。」
「ダメダメ、童貞くん特有の短絡的な考えよ。
もう少し冷静に考えてみて。」
「冷静に考えた結果だよ。」
「二十歳そこそこならまだわかる気もするけど、ワタシらもう三十だよ。
田舎のご両親もカズの結婚や孫の誕生を楽しみにしてるに違いないわ。
この歳になると、自分だけの気持ちで突っ走る事なんて出来ないのよ。わかるよね?」
「親は、俺が引きこもりから脱しただけでも、大喜びで、結婚やその後の事まで考えちゃいないよ。
それに、親は子供の幸せを一番に考えるものでしょ?
俺がトモと一緒にいる事を幸せに思うなら、親も反対する理由はないんだよ。」
「アンタ、ディベート強そうね。」
智は笑って言った。
「俺、お前と地元で再会して、そして、一昨日また会う事が出来た。
やっぱり、あのときからずっとトモの事が好きなんだって自覚できたし‥
心から愛してる‥」
「ストレートだね」
「トモが俺のことをどう思おうと関係ないよ。俺の気持ちはブレないし。」
「カズ‥
ワタシも好きだよ。
久しぶりに会えて、嬉しかったし、すごく輝いてるカズをまた見る事が出来たし。
でも‥」
智は少し暗い顔になり、和俊を見つめた。
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