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掘り返し
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昼過ぎ、智は四時間ほどの眠りから覚め、家事を始めた。
食事の準備、炊事、洗濯、掃除、買物、晩御飯の準備と、出勤時間までにやる事は多い。
それでも、それらのルーティンは、智にとってもすっかり当たり前となっており、特段サボったりする事もない。
食材の買い出しは、和俊が働くスーパーで調達することが多く、その日も、少し顔でも見てやろうというくらいの心境で、出かける準備を始めた。
メイクをバッチリ施し、髪型を整えると、智はエコバッグを持ち、玄関で靴を履いた。
そのときである。
家のインターホンから、呼び出し音がしたのは。
(ネットで何か注文してたっけ‥)
智は、頭の中で考えながら、モニターを覗き込むと、二人の男が立っていた。
「はい‥」
智が通話ボタンを押し、そう言うと
「すいません、北署の者です。」
と、前に立っていた方の男が、警察手帳をモニターの画面に向け、提示しながら言った。
「なんですか?」
「吉岡さん、少しお話をお聞かせ願いたく、お邪魔致しました。」
「‥
お待ち下さい。」
智は、身に覚えの無い中での招かれざる客の訪問に、拒否する事はマイナスになると考え、素直に招き入れた。
私服姿で、柔和な顔をした、今どきの刑事と思しき三十代くらいの二人の男は、丁寧に挨拶をした後、玄関先は狭いからと、智に部屋に招き入れられ、恐縮しながら入ってきた。
「あの、ワタシに何か‥」
智が早速質問すると、最初にインターホンで話しかけてきた方の刑事が頷き、話を始めた。
「吉岡さん、以前、あなたも被害に遭われた、桐山という男ですが、二日前にまた薬物所持の罪で現行犯逮捕され、取調べで覚醒剤反応も出た為、使用の罪でも逮捕致しました。」
「えっ、そうなんですか‥」
「吉岡さん、最近桐山と会われたことは?」
「ありません。」
「では、最後に会われたのはいつ頃でしょうか。」
「えっと、勿論自分からは会ったり、向こうから連絡された事も、あれから一度もありませんが‥
ワタシが風俗の仕事をしてる時に、一度客として来店してきた事があります。」
「それはいつ頃の事でしょうか?」
「三年半くらい前です。」
「わかりました。その時桐山が話していた事など、些細な事でもかまいません。
もし、何か思い出した事があれば、警察までご一報いただけますか。」
「はい。
刑事さん、桐山という男はワタシの亡くなった妻に執着し、その後、ワタシにもその矛先を向けてきました。
すごく怖い目にも遭いましたし、今も許す事は出来ません。
今度は一日でも多く刑務所に入れておいて欲しいです。」
「桐山は再犯ですし、前回あなたにした悪質な犯罪の事もありますから、間違いなく執行猶予の付かない実刑判決が予想されます。
まあ、一生服役させるわけにもいきませんが、あなたにまた被害が及ばない様、警察として、今後も注視していきます。
お忙しいところ、お邪魔をして申し訳ありませんでした。」
刑事達はまた、丁寧な挨拶をして、頭を下げると、足早に去っていった。
智はあのときの事を思い出していた。
桐山に覚醒剤を盛られ、薬物でキメた状態でのセックスを。
途中で、桐山が警察に捕まった為、薬物を使われた回数は6回か7回ほどだったが、その体験はあまりにも強烈で、その後の智の人生に大きな影響をもたらした。
今のこの淫乱で性欲が旺盛な状態も、あれが引き金になっている。
定かではないが、女性ホルモンを打ち続けたり、去勢して体の内分泌のバランスを崩してしまうと、論理的な思考が出来なくなったり、鬱に代表される精神的な疾患を患いやすくなるといわれることがある。
智は、覚醒剤とこの女性ホルモンの使用により、脳がやられてしまっているという自覚があり、かなり頭が悪くなったような気がしていた。
刑事の来訪により、再び憂鬱な感覚が、智の頭の中を黒く覆った。
食事の準備、炊事、洗濯、掃除、買物、晩御飯の準備と、出勤時間までにやる事は多い。
それでも、それらのルーティンは、智にとってもすっかり当たり前となっており、特段サボったりする事もない。
食材の買い出しは、和俊が働くスーパーで調達することが多く、その日も、少し顔でも見てやろうというくらいの心境で、出かける準備を始めた。
メイクをバッチリ施し、髪型を整えると、智はエコバッグを持ち、玄関で靴を履いた。
そのときである。
家のインターホンから、呼び出し音がしたのは。
(ネットで何か注文してたっけ‥)
智は、頭の中で考えながら、モニターを覗き込むと、二人の男が立っていた。
「はい‥」
智が通話ボタンを押し、そう言うと
「すいません、北署の者です。」
と、前に立っていた方の男が、警察手帳をモニターの画面に向け、提示しながら言った。
「なんですか?」
「吉岡さん、少しお話をお聞かせ願いたく、お邪魔致しました。」
「‥
お待ち下さい。」
智は、身に覚えの無い中での招かれざる客の訪問に、拒否する事はマイナスになると考え、素直に招き入れた。
私服姿で、柔和な顔をした、今どきの刑事と思しき三十代くらいの二人の男は、丁寧に挨拶をした後、玄関先は狭いからと、智に部屋に招き入れられ、恐縮しながら入ってきた。
「あの、ワタシに何か‥」
智が早速質問すると、最初にインターホンで話しかけてきた方の刑事が頷き、話を始めた。
「吉岡さん、以前、あなたも被害に遭われた、桐山という男ですが、二日前にまた薬物所持の罪で現行犯逮捕され、取調べで覚醒剤反応も出た為、使用の罪でも逮捕致しました。」
「えっ、そうなんですか‥」
「吉岡さん、最近桐山と会われたことは?」
「ありません。」
「では、最後に会われたのはいつ頃でしょうか。」
「えっと、勿論自分からは会ったり、向こうから連絡された事も、あれから一度もありませんが‥
ワタシが風俗の仕事をしてる時に、一度客として来店してきた事があります。」
「それはいつ頃の事でしょうか?」
「三年半くらい前です。」
「わかりました。その時桐山が話していた事など、些細な事でもかまいません。
もし、何か思い出した事があれば、警察までご一報いただけますか。」
「はい。
刑事さん、桐山という男はワタシの亡くなった妻に執着し、その後、ワタシにもその矛先を向けてきました。
すごく怖い目にも遭いましたし、今も許す事は出来ません。
今度は一日でも多く刑務所に入れておいて欲しいです。」
「桐山は再犯ですし、前回あなたにした悪質な犯罪の事もありますから、間違いなく執行猶予の付かない実刑判決が予想されます。
まあ、一生服役させるわけにもいきませんが、あなたにまた被害が及ばない様、警察として、今後も注視していきます。
お忙しいところ、お邪魔をして申し訳ありませんでした。」
刑事達はまた、丁寧な挨拶をして、頭を下げると、足早に去っていった。
智はあのときの事を思い出していた。
桐山に覚醒剤を盛られ、薬物でキメた状態でのセックスを。
途中で、桐山が警察に捕まった為、薬物を使われた回数は6回か7回ほどだったが、その体験はあまりにも強烈で、その後の智の人生に大きな影響をもたらした。
今のこの淫乱で性欲が旺盛な状態も、あれが引き金になっている。
定かではないが、女性ホルモンを打ち続けたり、去勢して体の内分泌のバランスを崩してしまうと、論理的な思考が出来なくなったり、鬱に代表される精神的な疾患を患いやすくなるといわれることがある。
智は、覚醒剤とこの女性ホルモンの使用により、脳がやられてしまっているという自覚があり、かなり頭が悪くなったような気がしていた。
刑事の来訪により、再び憂鬱な感覚が、智の頭の中を黒く覆った。
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