121 / 615
気持ちのベクトル
しおりを挟む
竹井の話は、智のようなニューハーフにとって切実な問題だった。
いくら可愛いだのキレイだの言われても、所詮自分は女ではなく、ただの外見だけを取り繕った贋作にすぎない。
心から愛していても、戸籍が男性のままでは正式に結婚する事すら出来ず、また、たとえ出来たとしても、子供を授かる事は不可能である。
生まれながらの女性でも、結婚、出産をする事なく人生を終える人は沢山いる。
そして、子供が欲しいと願ってもそれが叶わない夫婦も少なくない。
そんな事は頭ではわかっている。結婚や子供が全てではないという事も。
だが、周囲はそのような事情を考慮はしてくれない。
竹井の両親のように、死ぬ前に孫の顔を拝ませて欲しいと懇願されれば、何とか応えなければと思うのが人情というもので‥
「竹井さん、お話していただいてありがとうございます。
ワタシが竹井さんの立場だったとしても、同じような選択をしていると思います。
絶対幸せになって下さいね。」
「‥」
智は笑顔で竹井に言い、店を出た。
竹井自身が奥手で、智との間に何もなかったから、このような別れが可能だったといえる。
もし、既に一線を越えた関係であれば、竹井の気持ちが、智の気持ちが、また違うものになっていたかもしれない。
智が自宅に戻ったのは午前7時を回ってからだった。
その間にまた和俊からLINEが来ていたので、返信し、シャワーの準備をした。
和俊と再会してから、智自身の気持ちも、竹井より和俊に大きく傾き始めていたが、たとえ、この先、和俊と上手く付き合っていく事が出来たとして、果たして、どのような結果になるのだろうか。
先のない付き合いは、自分自身は元より、和俊にとっても、ただの無駄な時間浪費をさせるだけなのではないか。
智は離婚し、性転換する事によって、所謂平凡な家庭生活と、それに伴う幸せを放棄した。
それは、自分で十分に納得した上でだ。
だが、奈々の優しさと愛情により、望んだ性ではなかったが、夫婦生活を再び送る事が出来、莉愛という血を分けた娘まで授かる事が出来た。
だが、これから、女性としての幸せを求めたところで、何も得る事が出来ないであろう。
それでも、好きという感情だけで、和俊の気持ちを受け入れてもいいのだろうか。
シャワーを浴びながら、智は正解のない問題を解くような心境に陥り、ため息をついた。
いくら可愛いだのキレイだの言われても、所詮自分は女ではなく、ただの外見だけを取り繕った贋作にすぎない。
心から愛していても、戸籍が男性のままでは正式に結婚する事すら出来ず、また、たとえ出来たとしても、子供を授かる事は不可能である。
生まれながらの女性でも、結婚、出産をする事なく人生を終える人は沢山いる。
そして、子供が欲しいと願ってもそれが叶わない夫婦も少なくない。
そんな事は頭ではわかっている。結婚や子供が全てではないという事も。
だが、周囲はそのような事情を考慮はしてくれない。
竹井の両親のように、死ぬ前に孫の顔を拝ませて欲しいと懇願されれば、何とか応えなければと思うのが人情というもので‥
「竹井さん、お話していただいてありがとうございます。
ワタシが竹井さんの立場だったとしても、同じような選択をしていると思います。
絶対幸せになって下さいね。」
「‥」
智は笑顔で竹井に言い、店を出た。
竹井自身が奥手で、智との間に何もなかったから、このような別れが可能だったといえる。
もし、既に一線を越えた関係であれば、竹井の気持ちが、智の気持ちが、また違うものになっていたかもしれない。
智が自宅に戻ったのは午前7時を回ってからだった。
その間にまた和俊からLINEが来ていたので、返信し、シャワーの準備をした。
和俊と再会してから、智自身の気持ちも、竹井より和俊に大きく傾き始めていたが、たとえ、この先、和俊と上手く付き合っていく事が出来たとして、果たして、どのような結果になるのだろうか。
先のない付き合いは、自分自身は元より、和俊にとっても、ただの無駄な時間浪費をさせるだけなのではないか。
智は離婚し、性転換する事によって、所謂平凡な家庭生活と、それに伴う幸せを放棄した。
それは、自分で十分に納得した上でだ。
だが、奈々の優しさと愛情により、望んだ性ではなかったが、夫婦生活を再び送る事が出来、莉愛という血を分けた娘まで授かる事が出来た。
だが、これから、女性としての幸せを求めたところで、何も得る事が出来ないであろう。
それでも、好きという感情だけで、和俊の気持ちを受け入れてもいいのだろうか。
シャワーを浴びながら、智は正解のない問題を解くような心境に陥り、ため息をついた。
1
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる