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forgery
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「何か食べる?」
「いえ、大丈夫です。
ワタシ、コーヒーにします。」
「うん。」
竹井はコーヒーを二つ注文した。
「あの、トモちゃん‥」
「はい?」
「こっちの方から誘っときながら、長いこと連絡もしなくて、ホントにごめん。」
「あ、それは、さっきも言いましたけど、全然気にしてないですから、大丈夫ですよ。」
「うん‥」
「何かあったんですか?」
智が聞くと、竹井は俯いたまま、運ばれてきたコーヒーにスプーンを落とした。
「俺、前からトモちゃんの事が好きで、思い切って声をかけさせてもらったんだけど‥」
「って仰って下さいましたよね。」
「それなのに、ここのところ連絡しなくて本当にごめんなさい。」
「よかったらお話を聞かせてください。」
あれだけ自分にご執心だった竹井が、急に熱が冷めてしまった事を、智も不思議に思っていた。
竹井の口から真相を聞きたかったのだ。
「俺、一人っ子なんだ‥」
「そうなんですか。」
「うん。田舎に両親が住んでるんだけど、まあまあ歳いってから出来た子で、父も母ももう八十近いんだ。」
「‥」
「ここのところ、俺に、早く結婚しろって、うるさく言ってきてて‥」
「それはわかります。
ご両親としては心配ですもんね。」
「そんなのは俺も気にしてはいなかったんだけど、このまま独身のまま人生を終えてしまったら、竹井家の系譜はそこで途絶えてしまうんだ。」
「親戚もいらっしゃらないんですね。
ウチと同じですね。」
「竹井家といっても、別に大したもんじゃないんだけど‥
親が死ぬまでに、お嫁さんと孫を見たいとしつこく言ってきてて‥
何の努力もしないまま、独身のままでいる事が、果たしていいのか悪いのか‥
俺はどうしていいか、わからなくなってしまったんだ。」
野生的な風貌をした竹井が、肩を落としたまま話を続けた。
「でも、トモちゃんに会ったら、こんな事なんてどうでもよくなってしまうと思うし、かと言って、親の願いも無視する事が出来ず‥
色々考えてたら、トモちゃんに連絡する事が出来ないまま、時間だけが経っていって‥
そんなとき、会社の事務をしている人から告白されて‥
人生で初めてだった‥告白されたのは。
このタイミングで告白されるのも、やはり何かあるんじゃないかって思ったのと同時に、依然としてトモちゃんへの想いが強くて、ズルいやり方だけど、その女性との交際を始めながら、トモちゃんとの関係も続けていこうと考えてしまった。」
「‥」
「でも、それって、トモちゃんにもその女性にも大変失礼な話で‥
そう考えてたら、俺、トモちゃんに連絡するのが怖くなってきて‥
気が付いたら何ヶ月も経ってしまったんだ。」
「そうだったんですね。」
「でも、何も言わずに放置するのが、一番失礼な話であって、いつかちゃんと話をしなくちゃって考えてたら、ズルズルとここまで‥」
「竹井さん、よくわかりました。
ご両親のお気持ちも‥
話してませんでしたが、ワタシにも娘がいて、今は会わせてもらえない状況にあります。
でも、やっぱり血を分けた肉親の存在って、何があっても切り離せない何かがあるんです。
ワタシはニューハーフ、っていうか男ですし、どれだけ頑張っても子どもを産む事が出来ません。
それってとても大きな事です。
いくら本人同士が好きっていう気持ちが強くても、周りの状況や反応に左右されてしまうのが現実なんです。
ワタシとして言える事は、竹井さんご本人は勿論ですけど、その事務の女性と幸せになって、ご両親にお孫さんの顔を見せてあげて欲しいなって。」
「いえ、大丈夫です。
ワタシ、コーヒーにします。」
「うん。」
竹井はコーヒーを二つ注文した。
「あの、トモちゃん‥」
「はい?」
「こっちの方から誘っときながら、長いこと連絡もしなくて、ホントにごめん。」
「あ、それは、さっきも言いましたけど、全然気にしてないですから、大丈夫ですよ。」
「うん‥」
「何かあったんですか?」
智が聞くと、竹井は俯いたまま、運ばれてきたコーヒーにスプーンを落とした。
「俺、前からトモちゃんの事が好きで、思い切って声をかけさせてもらったんだけど‥」
「って仰って下さいましたよね。」
「それなのに、ここのところ連絡しなくて本当にごめんなさい。」
「よかったらお話を聞かせてください。」
あれだけ自分にご執心だった竹井が、急に熱が冷めてしまった事を、智も不思議に思っていた。
竹井の口から真相を聞きたかったのだ。
「俺、一人っ子なんだ‥」
「そうなんですか。」
「うん。田舎に両親が住んでるんだけど、まあまあ歳いってから出来た子で、父も母ももう八十近いんだ。」
「‥」
「ここのところ、俺に、早く結婚しろって、うるさく言ってきてて‥」
「それはわかります。
ご両親としては心配ですもんね。」
「そんなのは俺も気にしてはいなかったんだけど、このまま独身のまま人生を終えてしまったら、竹井家の系譜はそこで途絶えてしまうんだ。」
「親戚もいらっしゃらないんですね。
ウチと同じですね。」
「竹井家といっても、別に大したもんじゃないんだけど‥
親が死ぬまでに、お嫁さんと孫を見たいとしつこく言ってきてて‥
何の努力もしないまま、独身のままでいる事が、果たしていいのか悪いのか‥
俺はどうしていいか、わからなくなってしまったんだ。」
野生的な風貌をした竹井が、肩を落としたまま話を続けた。
「でも、トモちゃんに会ったら、こんな事なんてどうでもよくなってしまうと思うし、かと言って、親の願いも無視する事が出来ず‥
色々考えてたら、トモちゃんに連絡する事が出来ないまま、時間だけが経っていって‥
そんなとき、会社の事務をしている人から告白されて‥
人生で初めてだった‥告白されたのは。
このタイミングで告白されるのも、やはり何かあるんじゃないかって思ったのと同時に、依然としてトモちゃんへの想いが強くて、ズルいやり方だけど、その女性との交際を始めながら、トモちゃんとの関係も続けていこうと考えてしまった。」
「‥」
「でも、それって、トモちゃんにもその女性にも大変失礼な話で‥
そう考えてたら、俺、トモちゃんに連絡するのが怖くなってきて‥
気が付いたら何ヶ月も経ってしまったんだ。」
「そうだったんですね。」
「でも、何も言わずに放置するのが、一番失礼な話であって、いつかちゃんと話をしなくちゃって考えてたら、ズルズルとここまで‥」
「竹井さん、よくわかりました。
ご両親のお気持ちも‥
話してませんでしたが、ワタシにも娘がいて、今は会わせてもらえない状況にあります。
でも、やっぱり血を分けた肉親の存在って、何があっても切り離せない何かがあるんです。
ワタシはニューハーフ、っていうか男ですし、どれだけ頑張っても子どもを産む事が出来ません。
それってとても大きな事です。
いくら本人同士が好きっていう気持ちが強くても、周りの状況や反応に左右されてしまうのが現実なんです。
ワタシとして言える事は、竹井さんご本人は勿論ですけど、その事務の女性と幸せになって、ご両親にお孫さんの顔を見せてあげて欲しいなって。」
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