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暗澹
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奈々の検査の結果が出るのは翌週で、不安な気持ちで説明を聞きに行く予定にしていたが、予約日の二日前に病院から連絡が入り、家族同伴で来るようにと言われた。
この一本の電話で、二人は、自分たちが最悪の状況にあると、はっきりと自覚し、覚悟こそ全く出来なかったが、どのような事態が待っているかは容易に想像は出来た。
そして、当日、奈々に付き添い、医師の説明を聞いた智は、後になっても、そのときの事を思い出す事ができなかった。
奈々本人がパニックになる可能性があるから、智が同席しているにもかかわらず、である。
智が辛うじて覚えていたことは、病名は膵臓癌であるということ。
既にリンパ節、肝臓への転移が見られ、手術等の外科的治療が出来ないということ。
いわゆるステージⅣということであった。
絶望的なその内容に、智の頭は真っ白になったが、当の奈々は落ち着いた様子で
「自分で思ってたより悪かったわ。
ドラマとかで本人に知らせず、家族に告知してってのがあるけど、実際はちゃんと言ってくれるんだね。
それはそれで助かったけど」
と、言って笑った。
まだ二十代で、癌の中でも5年生存率が短いこの病気に罹ったということで、普通なら気がどうかなりそうになるところを、奈々は気丈に振る舞った。
三人の生活環境はこの事を境に一気に変わり、智が掴み取ろうとしていた平凡で穏やかな幸せは、一瞬にして消え去った。
奈々が入院すると、忽ち家の事が回らなくなり、全てに支障をきたすようになった。
家事全般は智も問題なくこなせたが、莉愛の保育園への送り迎え等、補いきれない部分が噴出した。
だが、奈々の母恵理が、家に泊まり込んでくれた事で、その問題はクリアする事が出来た。
今は奈々にストレスを出来るだけ与えず、気持ちだけはしっかり持ってもらう事が肝要だと、智は思ったが、置かれている状況が厳しい事は変わっておらず、先が見えない、いや、先が無い中で模索する時間が続いた。
この一本の電話で、二人は、自分たちが最悪の状況にあると、はっきりと自覚し、覚悟こそ全く出来なかったが、どのような事態が待っているかは容易に想像は出来た。
そして、当日、奈々に付き添い、医師の説明を聞いた智は、後になっても、そのときの事を思い出す事ができなかった。
奈々本人がパニックになる可能性があるから、智が同席しているにもかかわらず、である。
智が辛うじて覚えていたことは、病名は膵臓癌であるということ。
既にリンパ節、肝臓への転移が見られ、手術等の外科的治療が出来ないということ。
いわゆるステージⅣということであった。
絶望的なその内容に、智の頭は真っ白になったが、当の奈々は落ち着いた様子で
「自分で思ってたより悪かったわ。
ドラマとかで本人に知らせず、家族に告知してってのがあるけど、実際はちゃんと言ってくれるんだね。
それはそれで助かったけど」
と、言って笑った。
まだ二十代で、癌の中でも5年生存率が短いこの病気に罹ったということで、普通なら気がどうかなりそうになるところを、奈々は気丈に振る舞った。
三人の生活環境はこの事を境に一気に変わり、智が掴み取ろうとしていた平凡で穏やかな幸せは、一瞬にして消え去った。
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だが、奈々の母恵理が、家に泊まり込んでくれた事で、その問題はクリアする事が出来た。
今は奈々にストレスを出来るだけ与えず、気持ちだけはしっかり持ってもらう事が肝要だと、智は思ったが、置かれている状況が厳しい事は変わっておらず、先が見えない、いや、先が無い中で模索する時間が続いた。
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