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不退転
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マンション前での悪夢のような時間に二人は固まったが、やがて智が口を開いた。
「奈々、これはいい機会だよ。
いつまでも怯えながら逃げ惑う生活はしたくないし、する必要もないよ。ちゃんと話をつけよう。」
智がそう言うと、男は笑った。
「さすが、美人さんでもやっぱり男の子だね。性根がすわってる。」
家も素性もバレてしまい、もはや何も隠す必要がなくなったため、智は男を自宅に上げた。
「先ずは自己紹介させてもらいますよ。
私は籍こそ入れてないですが、奈々の現在の夫の桐山守と申します。」
「吉岡智です。
私の事をご存知のようですので、敢えて自分からも言いますが、ここにいる奈々さんの元夫です。」
「それにしても信じられないなあ。
こんな超美人が男だなんて。」
「ちょっと、何しに来たのよ!
もう、あなたとは一切関係ないんだから!」
奈々は怒りに満ちた表情で声を上げた。
「吉岡さん、単刀直入に申します。奈々を連れ帰らせて下さい。」
桐山は奈々の方に目を向けず、智に向かって落ち着いた口調で言った。
「桐山さん。本来なら私は一度奈々さんと別れた身です。その後性転換をし女性として暮らしていますので、あなた達の関係について何も言う権利はありません。
ですが、あなたは奈々さんに暴力を振るい、一切の自由を与えなかった。
そして、奈々さんは私に助けを求めてきた。
とてもではないが、看過できるもではありません。」
智は冷静ではあるが、強い口調で桐山に言った。
「確かに、あの時の私は仕事面で上手くいかず、奈々に辛く当たったことは認めますよ。でも、今は仕事も再び軌道に乗り、二度と悲しい思いはさせませんよ。
よく考えてみて下さいよ。あなたのような風体をした人と暮らすのがいいか、私と暮らすのが幸せか。
答えは自ずと出てくるでしょう。
吉岡さんもせっかく女性として暮らしてるんだ。同情心で無理矢理奈々と暮らすより、彼氏と楽しく余生を送ればどうですか。」
桐山も負けていなかった。
「桐山さんの言う通り、私はもう男ではありません。
ですが奈々を愛しています。奈々も応えてくれました。この気持ちに偽りはないです。
どうかお引き取り下さい。」
最初は奈々の事を「さん」付けで話していた智だったが、この辺りから少し感情的になり、呼び捨てになった。
「吉岡さん、私は常識ある人間だということをわかっていただきたいから、今日のところはご挨拶だけして帰らせていただきますよ。
ですが、私は聞き分けのない性格をしてましてね。
すんなり引き下がるつもりはございませんので、そこのところはよく理解していただきたいもんです。」
桐山は捨て台詞を吐いて帰っていった。
その後、何も知らない莉愛だけがはしゃぎ、智と奈々はしばらく何も声を発せなかった。
「智、ごめんなさい。こんな事にあなたを巻き込んでしまって」
ようやく言葉を発した奈々は涙を流しながら項垂れた。
「大丈夫。今はこういう問題は警察もちゃんと対応してくれるし、一度相談に行こう。」
智は奈々の肩に手を置き、優しい口調で言った。
しかし、智自身、この問題は自分がケリをつけなければいけないと密かに心に誓うのだった。
「奈々、これはいい機会だよ。
いつまでも怯えながら逃げ惑う生活はしたくないし、する必要もないよ。ちゃんと話をつけよう。」
智がそう言うと、男は笑った。
「さすが、美人さんでもやっぱり男の子だね。性根がすわってる。」
家も素性もバレてしまい、もはや何も隠す必要がなくなったため、智は男を自宅に上げた。
「先ずは自己紹介させてもらいますよ。
私は籍こそ入れてないですが、奈々の現在の夫の桐山守と申します。」
「吉岡智です。
私の事をご存知のようですので、敢えて自分からも言いますが、ここにいる奈々さんの元夫です。」
「それにしても信じられないなあ。
こんな超美人が男だなんて。」
「ちょっと、何しに来たのよ!
もう、あなたとは一切関係ないんだから!」
奈々は怒りに満ちた表情で声を上げた。
「吉岡さん、単刀直入に申します。奈々を連れ帰らせて下さい。」
桐山は奈々の方に目を向けず、智に向かって落ち着いた口調で言った。
「桐山さん。本来なら私は一度奈々さんと別れた身です。その後性転換をし女性として暮らしていますので、あなた達の関係について何も言う権利はありません。
ですが、あなたは奈々さんに暴力を振るい、一切の自由を与えなかった。
そして、奈々さんは私に助けを求めてきた。
とてもではないが、看過できるもではありません。」
智は冷静ではあるが、強い口調で桐山に言った。
「確かに、あの時の私は仕事面で上手くいかず、奈々に辛く当たったことは認めますよ。でも、今は仕事も再び軌道に乗り、二度と悲しい思いはさせませんよ。
よく考えてみて下さいよ。あなたのような風体をした人と暮らすのがいいか、私と暮らすのが幸せか。
答えは自ずと出てくるでしょう。
吉岡さんもせっかく女性として暮らしてるんだ。同情心で無理矢理奈々と暮らすより、彼氏と楽しく余生を送ればどうですか。」
桐山も負けていなかった。
「桐山さんの言う通り、私はもう男ではありません。
ですが奈々を愛しています。奈々も応えてくれました。この気持ちに偽りはないです。
どうかお引き取り下さい。」
最初は奈々の事を「さん」付けで話していた智だったが、この辺りから少し感情的になり、呼び捨てになった。
「吉岡さん、私は常識ある人間だということをわかっていただきたいから、今日のところはご挨拶だけして帰らせていただきますよ。
ですが、私は聞き分けのない性格をしてましてね。
すんなり引き下がるつもりはございませんので、そこのところはよく理解していただきたいもんです。」
桐山は捨て台詞を吐いて帰っていった。
その後、何も知らない莉愛だけがはしゃぎ、智と奈々はしばらく何も声を発せなかった。
「智、ごめんなさい。こんな事にあなたを巻き込んでしまって」
ようやく言葉を発した奈々は涙を流しながら項垂れた。
「大丈夫。今はこういう問題は警察もちゃんと対応してくれるし、一度相談に行こう。」
智は奈々の肩に手を置き、優しい口調で言った。
しかし、智自身、この問題は自分がケリをつけなければいけないと密かに心に誓うのだった。
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