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暗転

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仕事も低賃金ながら順調、奈々と莉愛との三人での生活も充実したものとなり、智は毎日を楽しく過ごすことが出来た。
勿論、女性として生きる事を認めてくれて、それどころか、自分ともう一度人生を共にすると言ってくれた奈々の心の寛容さがあっての事だ。

再入籍に向けて二人は色んな計画をした。

1.結婚式はしないが、写真スタジオに行き、3人で記念の写真を撮る。
2.国内旅行に行く。
3.莉愛のために、もう少し広めの家に引越す
など

1に関しては二人で長い時間話し合った。

「いいんだよ、智。
ウエディングドレス着てよ。そういう写真もステキじゃない。」

「ううん。せめて写真くらいは男モードで撮らせて。莉愛の為にも‥
ただの見せかけでも残しておきたいの。」

「でも、メイクなしでも女の子みたいな顔になってるし、体のラインも丸みを帯びてて服着ても隠しきれないよ。」

奈々の意見はもっともだったが、そこだけは智が譲らなかった。

それはそれで二人にとって、あれやこれやと意見を出し合うのが楽しくて、近くのスーパーで買い物をし、家に帰りながらもその事について語り合った。

奈々は莉愛を乗せたベビーカーを押し、智は両手にスーパーの袋を持ちながら。

「じゃあ、今日はワタシがご飯作るわね。」

「オッケー、私は帰ったら洗濯物取り込むわ。」

家事完全分担制の二人はそんな感じで役割を決めていた。

「あ、智、明日さあ、莉愛の‥」

奈々が急に喋るのをやめた。自分達のマンションのエントランス方向を見ながら。

「奈々、どうしたの?」

智は奈々の異変に気付き、その視線の方向に目をやった。
男が立っていた。
色黒でガッチリした体格、大きな目と鼻筋が通ったいわゆる男前、年齢は30歳くらいか。

「奈々、まさか!」

「うん、アイツよ‥DV男」

奈々は険しい表情で答えた。

男はこちらの姿を視認出来たようで、ゆっくりと近付いてきた。
そして、目の前まで来ると、笑いながら言葉を発した。

「奈々、久しぶり。迎えに来たよ。」
と‥

「ふざけないで!もうあなたと私は何の関係もないのよ!」

奈々がイラついた口調でそう言うと、男は返事をせず、智に視線を向けた。

「こんにちは、奈々の元旦那さんですね。ウチのがお世話になってます。」

その言葉に智と奈々は愕然とした。今の智の姿に男だった痕跡は全くない。
それなのに、旦那という言葉が出てきた。

そこまで調べた上でやってきたのだ。
男の執念を垣間見て、智は背筋が凍る思いになった。

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