カジュアルセックスチェンジ

順風

奈々と莉愛は命の危険を感じながら生活する日々から、智との穏やかな暮らしを手にして
心の安定を取り戻した。

智もケイコなど一部の理解者との交流を除いては孤独に包まれた生活を送っていたが、会話のある毎日を送れるようになり、二人に救われた思いでいた。

依然として仕事は見つからなかったが、経済的な面では何の問題もなく、親子三人の生活を満喫したのだった。

食事は智が作る日もあれば、奈々が担当する事もあり、洗濯などの家事全般も協力して行った。

莉愛のオムツを替えたり、散歩に連れて行ったりも、二人でする事もあればどちらかがする事もあり、智の見た目が女性である事以外はごく一般の家族と何ら変わりがなかった。

奈々は元々智の事を好きになり結婚までしたが、智の本質を見抜けず、また気持ちが向いていない事を感じ、智から離れていった。

そして、たまたま知り合った男性と恋に落ちたのだが、その男性もまた智のように頭がキレて、智になかったパッションも持ち合わせていた。
しかし、結局は知り合ってすぐにその男性の元に走ってしまったことは些か軽率であった。

結果として奈々は智の子供を身籠った状態で男性と同棲を始め、早々に破綻する遠因となった。

しかし、今思えばそれでよかったと奈々は感じている。

暴力を振るう男というのは本質が変わることはなく、たとえそのときは思い止まっても何かのきっかけでいつでも豹変するのである。

早い段階でそれがわかっただけでも良しとしなければならないと奈々は自分に言い聞かせた。

また、智については自分が結婚していたときよりも活力があり、性別こそ変わってしまったが、人間としての魅力は遥かに増したのではないかとさえ感じた。

loveなのかlikeなのかは自分でもわからないが、智と娘と自分の三人ですごす空間が気持ちよかったのだ。

やはり自分は智が好きだったのだ。そんな気持ちに応えてくれない智へのあてつけで浮気をして、深く考える事なく家を出た。

戻ってみて、その思いが確かなものだったのだと改めて気付く奈々だった。