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カミングアウト
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午前9時12分
定刻通りに電車が到着し、沢山の人が中央改札から出てきた。
智はすぐに姉の姿を視認し、その方向へ歩いていった。
途中で視線が合ったが、向こうは全く気付かず
すぐに視線を外し、弟の姿をキョロキョロと探し始めた。
智は一瞬、どうしようかと考えたが、姉の正面近くまで行き、声をかけた
「お姉ちゃん」
と
美智香は見知らぬ女から「お姉ちゃん」と声をかけられたことに意味がわからず
きょとんとした顔で智を見つめた。
智は埒が開かないと思い、単刀直入に
「お姉ちゃん
俺だよ、智
訳あってニューハーフになりました」
と、今度は男声で告げた。
「えっ?」
それでも、状況が飲み込めない美智香は智の顔をじっと見つめていた
その時間は数秒だったが、智には一時間くらいに感じた。
「えっ、ええっ?
智?」
「驚かせてごめん」
智は申し訳なさげに頭をぺこりと下げた。
二人は場所を智が宿泊しているホテルのロビーに移し、話の続きを始めた。
智は去年の墓参りのときには既に女性ホルモンの投与を開始していたことや、仕事を辞めてから今に至るまでの話を、なるべく詳しく、そして丁寧に話した。
美智香は心療内科でカウンセラーの仕事をしており、智のような人の例を何度か見て理解はしていた。
しかし、まさか自分の弟がそんな風になるとは思ったこともなく、驚くばかりだった。
「じゃあ、ずっと自分の性に違和感を感じてたってことなの?」
「うーん
そう言われると自信ないけど
でも、自分は男として何かが足りないとは漠然と思ってて、結婚後は特に顕著になった。
で、離婚するとき、奈々にその事を指摘されて、はっきり気付かされた感じ。」
「そうなんだ」
「で、その後に女装にハマったり、色々あって」
「化粧して、女性物の服着てるのもあるけど
一年会わない間に全然変わってんじゃないの
雰囲気とか」
「女性ホルモンの投与を欠かさずしてるから
筋肉落ちて皮下脂肪で体が丸みを帯びたり、胸が膨らんだりして、自分でもかなり変化したと思うよ。」
「そう
それで、今の仕事どうするの?」
「うん。
さすがにここまで変化するとは自分でも思ってなくて、周りも薄々勘付いてる人もいるみたいだから、年内で辞めようと思ってるの。
この姿でも雇ってもらえるところがあればいいんだけど。」
「なかなか難しいんじゃないかなあ
不況だし、いくらスキルがあったって、採用には二の足を踏むと思うよ。」
「かもね
そのときはまた考えるわ。
ワタシ、雇ってもらえるならどんなお仕事でもするつもりだし」
「ワタシか
わかったわ、智の生き方は尊重するよ。」
美智香は結局、智に対して説教などせず、ある意味
すんなりと受け入れた。
「ありがとう、お姉ちゃん
迷惑かけてごめんね」
智は顔を押さえて涙を流した。
「ちょっと、泣く事ないじゃない!」
「ううん
女性ホルモンの影響で、ちょっとしたことで泣いちゃうの」
姉への報告も無事に済み、智の心はすっかり楽になった。
その後、駅前でレンタカーを借りた二人は
美智香の運転で、父母の墓がある霊園に向かった。
去年までは智が運転していたのだが、今や智の姿は免許証の写真とは似ても似つかないものになっており、それを受付で説明するのが面倒だったからだ。
定刻通りに電車が到着し、沢山の人が中央改札から出てきた。
智はすぐに姉の姿を視認し、その方向へ歩いていった。
途中で視線が合ったが、向こうは全く気付かず
すぐに視線を外し、弟の姿をキョロキョロと探し始めた。
智は一瞬、どうしようかと考えたが、姉の正面近くまで行き、声をかけた
「お姉ちゃん」
と
美智香は見知らぬ女から「お姉ちゃん」と声をかけられたことに意味がわからず
きょとんとした顔で智を見つめた。
智は埒が開かないと思い、単刀直入に
「お姉ちゃん
俺だよ、智
訳あってニューハーフになりました」
と、今度は男声で告げた。
「えっ?」
それでも、状況が飲み込めない美智香は智の顔をじっと見つめていた
その時間は数秒だったが、智には一時間くらいに感じた。
「えっ、ええっ?
智?」
「驚かせてごめん」
智は申し訳なさげに頭をぺこりと下げた。
二人は場所を智が宿泊しているホテルのロビーに移し、話の続きを始めた。
智は去年の墓参りのときには既に女性ホルモンの投与を開始していたことや、仕事を辞めてから今に至るまでの話を、なるべく詳しく、そして丁寧に話した。
美智香は心療内科でカウンセラーの仕事をしており、智のような人の例を何度か見て理解はしていた。
しかし、まさか自分の弟がそんな風になるとは思ったこともなく、驚くばかりだった。
「じゃあ、ずっと自分の性に違和感を感じてたってことなの?」
「うーん
そう言われると自信ないけど
でも、自分は男として何かが足りないとは漠然と思ってて、結婚後は特に顕著になった。
で、離婚するとき、奈々にその事を指摘されて、はっきり気付かされた感じ。」
「そうなんだ」
「で、その後に女装にハマったり、色々あって」
「化粧して、女性物の服着てるのもあるけど
一年会わない間に全然変わってんじゃないの
雰囲気とか」
「女性ホルモンの投与を欠かさずしてるから
筋肉落ちて皮下脂肪で体が丸みを帯びたり、胸が膨らんだりして、自分でもかなり変化したと思うよ。」
「そう
それで、今の仕事どうするの?」
「うん。
さすがにここまで変化するとは自分でも思ってなくて、周りも薄々勘付いてる人もいるみたいだから、年内で辞めようと思ってるの。
この姿でも雇ってもらえるところがあればいいんだけど。」
「なかなか難しいんじゃないかなあ
不況だし、いくらスキルがあったって、採用には二の足を踏むと思うよ。」
「かもね
そのときはまた考えるわ。
ワタシ、雇ってもらえるならどんなお仕事でもするつもりだし」
「ワタシか
わかったわ、智の生き方は尊重するよ。」
美智香は結局、智に対して説教などせず、ある意味
すんなりと受け入れた。
「ありがとう、お姉ちゃん
迷惑かけてごめんね」
智は顔を押さえて涙を流した。
「ちょっと、泣く事ないじゃない!」
「ううん
女性ホルモンの影響で、ちょっとしたことで泣いちゃうの」
姉への報告も無事に済み、智の心はすっかり楽になった。
その後、駅前でレンタカーを借りた二人は
美智香の運転で、父母の墓がある霊園に向かった。
去年までは智が運転していたのだが、今や智の姿は免許証の写真とは似ても似つかないものになっており、それを受付で説明するのが面倒だったからだ。
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