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疑問

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「豊胸なんてしてないわよ。

女性ホルモンの投与を定期的に受けてるとこうやって多少は胸が膨らんでくるのよ。」


「女性ホルモン?」


「あなた、ホントにこの世界初めてなのね。

よく、ニューハーフとかでおっぱいある人をテレビで見ることがあるでしょ?

ああいう人達は勿論豊胸してる人もいるけど、ほとんどが病院で女性ホルモンの注射を打ってるのよ。」


聞くこと聞くことが全て新鮮で、智にとって驚きと感心の連続だった。


「じゃあ、ワタシも胸が出てきたりするんですか?

それを打てば。」


智の質問にケイコは首を横に振った。


「トモちゃん、ホルモンなんて素人が手を出すもんじゃないわ。」


「えっ?」



「女性ホルモンの薬って、一言で言うと、毒と同じよ。」



「毒・・

ですか?」



「ええ。

つまり正常に機能している男性の内分泌を人工的に女性ホルモンを体内に入れる事でかき乱し、その副作用の一つとして胸が出てきたりするの。

怖いのはそれによって、血栓が出来やすくなったり肝機能に障害をもたらしたりと
副作用を挙げるだけでもきりがないわ。」


「そんなに、恐ろしいものなんですか・・」



「まだまだあるわよ。

一定期間打ち続けると、男性としての機能が損なわれ性欲減退、勃起不全、さらに精子が無くなって永久不妊になるの。


そうなってしまった体は自力で内分泌を正常に保つことが出来なくなり、一生この女性ホルモンの投与を続けなければならないの。」


「・・」


「そうなったら、家庭は崩壊、職場にもいられなくなり、何もかも失う事になるわ。


かくいうワタシもそんな人間の端くれなのよ。

結婚してたにもかかわらず、女装だけでは飽き足らず、ついにはホルモンに手を出して
離婚したわ。

親からは絶縁され、淋しい人生を送ってるわ。

幸い仕事は自営なんで、今でも続けていられるけど。」


ケイコの告白は智を恐怖に陥れるには充分効果があった。


「ケイコさんは今の自分に後悔してるんですか?」



「それはどうかな。

失うものも多かったけど、得るものも多少はあったから。

なにより自分の欲求を満たすことが出来たのは大きいわね。」



「なるほど・・」



「差し出がましいことばかり言ってごめんね。

あなたの人生にワタシが口出しすることもないし、それぞれが自己責任で生きてるんだもんね。

ただ、経験者としてこれだけは言っておきたかったから。」



「ありがとうございます。

ケイコさん、すごく勉強になりました。」


家庭崩壊…


智はケイコの言葉に三ヶ月前の出来事を思い浮かべていた。

妻の奈々の浮気が発覚し
離婚することが決定的となったあの日の出来事を…
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