虹霞~僕らの命の音~

朱音

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第三章

04

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 一日中、雷晶についての情報を集めて歩き回ると、結構埃っぽくなってしまう。
 時雨のお世話になっているのは癪だとは言え、お風呂に入れるのは素直にありがたいよ。
 下ろした赤茶色の髪を拭きながら部屋に戻ると、少しばかり目を見開いてこちらを凝視してくる白髪。
 何だろう。何があって、そんな顔をするんだろう。
 首を傾げて、声を出さずに「何?」と問うてみるものの、得たかった答えではないものが返って来た。
「……あぁ。俺は酒場に行くけど、六耀はどうする?」
「酒場には行かないけれど、どこかへは出掛けようかな」
 時雨がいないなら、時間潰しをしようかな。そう思っただけで、目的があった言葉では無かったんだ。
 なのにね?
「えっ、どこへ行くんだ。俺も一緒に行く!」
「別に行く宛てはないんだけど。と言うか、一緒には来なくていいよ。だって君は酒場へ行くんだろ?」
「こんなに暗くなってから一人で出歩くなんてだめだ。前にもナンパ野郎共に声を掛けられて、殴られただろ!?」
 青い瞳に少しばかりの怒りに似た感情を宿しながら、力一杯事実を思い出させてくる。
 確かに、二度とあんな目に遭うのは嫌だ。
 それ以上に、謎の必死さを向けてくる時雨には逆らえない。そう思わせる雰囲気を纏っているんだ。
「わ、分かったよ。じゃあ、留守番しておくよ」
「それならいいんだ。しっかり施錠しておけよ。六耀は警戒心が強い割には、隙だらけだからなぁ……」
 鍵を手にして、何やらぼそぼそと呟きながら出て行った。その背中を見送りながら、呆然としてしまう。
 どうしてあんなにも、むきになったんだろう。彼の着火点の理由がいまいち分からなかったり。


 視線を動かす度にゆらり、ふわり。見上げた青い空までも揺らめいているんだから、嫌になる。
 こんなにも揺れ動いて、おかしいのは世界の方だ。……と思い込みたいものの、ちゃんと気付いているよ。
 今朝は、起きた時から少々の眩暈と吐き気があるんだ。慣れない旅に疲れて、風邪でもひいたんだろうか。
「顔色が悪くないか?」
「そんなことはないと思うけど」
 ……あーぁ、時雨にも気付かれてしまった。
 でも、ここで素直に頷くことは出来ない。孤児時代に身に着けた防衛本能が働くからさ。
 弱みを見せるとつけ込まれる。その隙に食べ物を奪われ、鬱憤晴らしの的になってしまう。
 だから、至って平穏な顔をしておくつもりだったのに。
「熱があるじゃないか。今日は早目に宿をとるから、ゆっくり休め。な?」
 額にそっと触れたのは、彼の右手。少し冷たいそれが心地良くて、なのに居心地の悪い胸騒ぎ。
 ……いつもいつも、何なんだよ? どうして優しくするのさ。
「時雨は頭がおかしいよね」
「はっ? どういう意味だよ!?」
 一緒に時間を過ごしていると、意識したくなくても伝わってくる。
 僕の中級呪文は時雨の初級呪文くらいの威力で、魔力に大きな差があるのを実感しているんだ。
 そう言えば、別れる前に妖華も『白髪くんは六耀よりもずっと強大な魔力を持っている』と言っていたっけ。

「君の目の前にいる弱者は、雷晶の欠片を持ってるんだよ? ほら。少しの努力もせずに奪える機会じゃないか」
「はぁ? そんなことしようとも思わねーよ」
 一体、何を言っているんだとばかりに呆れた様子。
 通常なら一安心しなければいけない状況なのかもしれないけれど、体調の悪さも手伝って苛立ってしまう。
「僕を格下だと思っているから、わざわざ弱っている時を狙わなくても構わないと思っているんだね。それならさ、惨めになるような情けは掛けずに、いっそのこと……」
 君にとって僕は邪魔者でしかないはずだろ?
 僕にとって君は迷惑な存在でしかなかった……はずなのに。
「そんな風にしか見てない人と、いつまでも一緒にいたりしないだろ。分かれよな……」
 分かれと言われても、分からない。意味が飲み込めない。
 熱でぼんやりした頭では、時雨の言葉を組み立てて形にすることが出来ない。

 何も考えられない思考を落ち着かせようと瞼を閉じて、開いてから心底驚いたね。
 いつの間にか宿屋のベッドの上にいて、窓の外にあるのは夜空だったんだ。
 見捨てずに寝かしつけてくれたことにも、夜になってしまうくらい眠り込んでしまったことにも目を見開いたけれど。
 それ以上に、ポケットには変わらず雷晶の欠片が存在していたことに驚いた。
 せっかくの好機を自ら逃したり、敵の介抱をしたりして。


 と、まぁ、僕らの雷晶と虹探しの様子はこんな感じなんだ。
 探し物の情報は舞い込まないのに、時雨の理解不能な言動ばかりを発見してしまう。
 うん、彼はどう考えたってかなり変な人だ。……そう。変な人、だ。
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