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第二章
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「何!? だったらお前に付いていくぞ!」
「はぁ? 邪魔をするならまだしも、どうして付いてくるんだよ。残された雷晶は後半分しかないのに、同時に見つけたらまたそこで取り合いになるじゃないか」
「それが目的だろ!」
ははぁ、時雨は素直なんだな。
人の労力を使って、ようやく見つけ出した宝石を目の前で奪おうと言う訳か。
「僕は一人で生きていきたいんだ。だから、何が言いたいかは分かるよね? あんまり露骨に付いてくるな、鬱陶しいなんて言うと君が傷付くかもしれないしね」
「お前って顔に似合わずはっきり言う性格なんだな……。そんなに俺を拒否するなら、魔法で吹っ飛ばしてしまえばいいのに」
下らない提案に、ちらりと相手の青い目を盗み見て、またもや溜息をついてしまう。長く長く漏れる吐息。
すっかり呆れ返ってしまったのに、この反応を彼は『吹っ飛ばさない』のではなく、『吹っ飛ばせない』と捉えたみたい。
「それにしても、六耀はあの妖華の弟子なのに、大したことのない魔力だよなぁ。使うのは初級のエンファーレアばっかりだし」
「……エン……?」
「えっ!? まさかお前、自分の使ってる呪文名すら知らないのか? 嘘だろ、ここまで無力だったとは!」
完全に馬鹿にした台詞を次々と唱えながら、嘲笑って人の肩をばしばしと叩いてくる。
元々不安定になりかけていた心は真っ赤に染まり、同時に何かがブチリと音を立てて切れた。
「言っておくけれど! 火系初級呪文しか使わないのは、最高位呪文に頼りきって初級魔力を感じられなくなってる君相手だったら、それくらいの魔法で充分倒せるだろうと判断したからだよ!? それと呪文名を知らないのは『名称を知らなくても、そのものをきちんと生み出せればいい』と言うのが妖華の教えだったんだ!」
声を大にして叫びながら、燃え上がる炎を左の拳から肘にかけて纏う。
まさか僕が、エン何とかと呼ばれる魔法の最高位を扱えるとは思わなかったんだろう。
「あ……、あぁ! まぁ、そう言う見解もあるよな。うんうん」
変な作り笑いを浮かべながら両手を挙げて降伏した白髪を確認したので、集中させていた魔力を分散させる。
その手で赤茶色の前髪を無意味にくしゃりと梳き、未だに冷や汗を垂らしている彼の視線から逃れよう。
思い切り怒鳴ったつもりなのに、何故か声は震えていたんだ。
睨み付けたはずなのに、何故か視界は滲んでいるんだ。
くそ……! 今、胸をもやもやさせている感情が怒りのみだったら、発散のしようはいくらでもあるのに。
目に見えない苦い鉛を飲み込んでから、さっさと歩き出す。
これに懲りて付いてくるのをやめるかと思っていたのに、困惑しつつも後ろを陣取ってくるとは。
「悪かった! お詫びにこう言うのはどうだ? 一緒に雷晶探しの旅に出ると、宿屋代や食事代諸々の経費は俺が持つんだ」
「いらない。君が今すぐに、僕の視界から立ち退いてくれればそれでいいから」
見かけによらず百面相な時雨をあしらいながら闇雲に進む内に、小さな街に近付いているようだ。
足音が土を踏むものから整備された道を歩く音に変わった頃、前から十歳くらいの少年と少女が仲良さそうに歩いて来た。
あぁ、あれくらいの時が一番楽しかったよなぁ。もしも運命の針が戻るとしたら……。
「そうは言っても、どうせ無一文のまま城を飛び出てきたんだろ?」
子供達とすれ違う直前、この男はそんな無神経な発言をする。
「誰のせいでそうなったと……!」
振り向いて抗議しようとした台詞は、ばしゃっと降りかかった液体の衝撃によって掻き消された。
ぽたり、ぽたり、と髪から伝い落ちる雫。
服の内部まで染みてきて、顔はもちろん胸からお腹までも冷たい。
「ご、ご、ごめんなさいっ! 躓いちゃったんです……!」
声に反応して下を見ると、先ほどの少年が青ざめた顔で謝罪している。その手には空っぽになった紙コップが。
「……前言撤回するよ。時雨、一緒に宿屋に泊めさせてもらえないかな?」
頭からオレンジジュースを浴びせられてしまったんじゃ、とやかく言い合いする気力もなくなってしまった訳。
「はぁ? 邪魔をするならまだしも、どうして付いてくるんだよ。残された雷晶は後半分しかないのに、同時に見つけたらまたそこで取り合いになるじゃないか」
「それが目的だろ!」
ははぁ、時雨は素直なんだな。
人の労力を使って、ようやく見つけ出した宝石を目の前で奪おうと言う訳か。
「僕は一人で生きていきたいんだ。だから、何が言いたいかは分かるよね? あんまり露骨に付いてくるな、鬱陶しいなんて言うと君が傷付くかもしれないしね」
「お前って顔に似合わずはっきり言う性格なんだな……。そんなに俺を拒否するなら、魔法で吹っ飛ばしてしまえばいいのに」
下らない提案に、ちらりと相手の青い目を盗み見て、またもや溜息をついてしまう。長く長く漏れる吐息。
すっかり呆れ返ってしまったのに、この反応を彼は『吹っ飛ばさない』のではなく、『吹っ飛ばせない』と捉えたみたい。
「それにしても、六耀はあの妖華の弟子なのに、大したことのない魔力だよなぁ。使うのは初級のエンファーレアばっかりだし」
「……エン……?」
「えっ!? まさかお前、自分の使ってる呪文名すら知らないのか? 嘘だろ、ここまで無力だったとは!」
完全に馬鹿にした台詞を次々と唱えながら、嘲笑って人の肩をばしばしと叩いてくる。
元々不安定になりかけていた心は真っ赤に染まり、同時に何かがブチリと音を立てて切れた。
「言っておくけれど! 火系初級呪文しか使わないのは、最高位呪文に頼りきって初級魔力を感じられなくなってる君相手だったら、それくらいの魔法で充分倒せるだろうと判断したからだよ!? それと呪文名を知らないのは『名称を知らなくても、そのものをきちんと生み出せればいい』と言うのが妖華の教えだったんだ!」
声を大にして叫びながら、燃え上がる炎を左の拳から肘にかけて纏う。
まさか僕が、エン何とかと呼ばれる魔法の最高位を扱えるとは思わなかったんだろう。
「あ……、あぁ! まぁ、そう言う見解もあるよな。うんうん」
変な作り笑いを浮かべながら両手を挙げて降伏した白髪を確認したので、集中させていた魔力を分散させる。
その手で赤茶色の前髪を無意味にくしゃりと梳き、未だに冷や汗を垂らしている彼の視線から逃れよう。
思い切り怒鳴ったつもりなのに、何故か声は震えていたんだ。
睨み付けたはずなのに、何故か視界は滲んでいるんだ。
くそ……! 今、胸をもやもやさせている感情が怒りのみだったら、発散のしようはいくらでもあるのに。
目に見えない苦い鉛を飲み込んでから、さっさと歩き出す。
これに懲りて付いてくるのをやめるかと思っていたのに、困惑しつつも後ろを陣取ってくるとは。
「悪かった! お詫びにこう言うのはどうだ? 一緒に雷晶探しの旅に出ると、宿屋代や食事代諸々の経費は俺が持つんだ」
「いらない。君が今すぐに、僕の視界から立ち退いてくれればそれでいいから」
見かけによらず百面相な時雨をあしらいながら闇雲に進む内に、小さな街に近付いているようだ。
足音が土を踏むものから整備された道を歩く音に変わった頃、前から十歳くらいの少年と少女が仲良さそうに歩いて来た。
あぁ、あれくらいの時が一番楽しかったよなぁ。もしも運命の針が戻るとしたら……。
「そうは言っても、どうせ無一文のまま城を飛び出てきたんだろ?」
子供達とすれ違う直前、この男はそんな無神経な発言をする。
「誰のせいでそうなったと……!」
振り向いて抗議しようとした台詞は、ばしゃっと降りかかった液体の衝撃によって掻き消された。
ぽたり、ぽたり、と髪から伝い落ちる雫。
服の内部まで染みてきて、顔はもちろん胸からお腹までも冷たい。
「ご、ご、ごめんなさいっ! 躓いちゃったんです……!」
声に反応して下を見ると、先ほどの少年が青ざめた顔で謝罪している。その手には空っぽになった紙コップが。
「……前言撤回するよ。時雨、一緒に宿屋に泊めさせてもらえないかな?」
頭からオレンジジュースを浴びせられてしまったんじゃ、とやかく言い合いする気力もなくなってしまった訳。
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