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大図書館の地下で、セクシーお姉さんと対峙しました。

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 リュインの言葉を聞いて、お姉さんは俺を探るような目で見てくる。
 
 しかし眼前には謎の踊り子お姉さん、その奥には巨大騎士か。よく見ると騎士の周囲を取り囲むように青いラインが引かれている。
 
「ふん……なるほど。たしかにかなりできるようだ。ノグとハイスがやられたというのも、ありえる話だろう」

「で……お姉さんはなにもの? まさかエンブレストが女装しているってことはないよな?」
 
 リリアベルはノグの他にもう一人、剣など刃を扱う者がいると予測を立てていた。おそらくこのお姉さんだろう。
 
 だが肝心のエンブレストはどこだ……と思っていると、巨人の座るどでかい椅子の後ろからそれらしき人物が姿を見せた。

 その男性は青く光る長剣を地面に引きずりながら歩いている。
 
「あいつがエンブレストか……!」
 
 どういう仕掛けかわからないが、青いラインを引いていたのはエンブレスト本人らしい。

 とりあえず危険人物の身柄を確保せねば……と意識がいっていたその時。眼前に5つのナイフが迫ってきていた。
 
「うぉ!?」
 
 1つ1つ冷静に剣で弾く。その間にお姉さんは再び迫ってきていた。
 
「リュイン! 離れてろ!」

「わかったわ!」
 
 お姉さんにはわるいが……! 剣ごと斬らせてもらうぜ……!
 
 恵まれすぎた身体能力に、銀河にそうはない名剣だ。お姉さんの曲刀なんざ、一撃で砕けるだろう。

 そう思い、迫りくる刃に合わせるように剣を振るう。
 
「…………っ!?」
 
 俺のイメージでは、このまま武器を破壊してお姉さんを斬るつもりだった。

 だが剣と曲刀が触れたその瞬間、お姉さんは無理に打ち合わずに器用に刃の角度を傾ける。

 すると俺の振るった剣はあらぬ方向へと逸らされ、つられるように腕も上がってしまった。
 
(やべぇっ!)
 
 お姉さんは素早く懐に入り込んでくる。そしてその凶刃が俺の胴体に襲いかかった。

 もろに攻撃を受けながらも両足を地面から離す。踏ん張りができなくなったことで、俺の身体はお姉さんの斬撃を受けつつ後方へと飛ばされた。
 
「ぐ……!」
 
 だが地面を転がり、すぐに立ち上がる。斬撃を受けた胴体に視線を向けるが、傷はなかった。
 
「な……!? たしかに斬ったはずなのに……!?」

『念のため防刃性能を向上させておいてよかった。おい、油断しすぎだぞ』

「わぁってるよ!」
 
 この国に来る前、俺たちはリリアベルに冬服を用意してもらっていた。

 もとからそれなり以上に防御性能の高い服を着ていたが、今はそれらがもう一段階上がっているのだ。おかげでお姉さんの曲刀で斬られずにすんだ。
 
 だが衝撃は受けるし、打撃は完全に無効化できるわけではない。とにかくこのお姉さんを突破しなければ、なにかしようとしているエンブレストをとめられない。
 
「おおおお!」

「っ!」
 
 強く地面を蹴って前へと駆け出す。そしてお姉さんに向かって連続で剣を振るった。
 
「く……!」
 
 お姉さんは両目を限界まで見開き、まばたき一つせずに俺の剣をかわし続ける。

 あたらないことにだんだん焦りとイラつきを覚えながら、右手でやや大ぶりに剣を振るった。するとお姉さんはそこに曲刀を合わせてくる。
 
「…………!?」
 
 そして先ほど同様、俺の剣は大きく逸らされた。
 
 なぜだ……!? さっきよりも力を込めているのに……!
 
「はああぁぁ!」
 
 再び斬撃が迫る。だがこの冬服を斬れないのはわかっている。俺は空いた左腕をガードするように前へ出す。
 
「な……」
 
 お姉さんの曲刀を腕でガードすることに成功した。斬れてはいないけど……! ちょっと痛い……!
 
「うおぉぉらぁ!」
 
 そのまま左足で蹴り上げる。

 だがお姉さんは身軽な動きで両足をそろえて飛び上がると、俺の蹴りをかわしつつ突き出していた左腕に着地する。そしてそのまま左腕を蹴って後方へと飛んだ。
 
「曲芸師かよ……!」
 
 ここまで攻撃が当たらないなんて……! というか、なぜだか剣の軌道をそらされる! たしかにお姉さんの曲刀と接触しているのに……!
 
 だがそのお姉さんは、俺よりも額に汗を流していた。
 
「はぁ、はぁ……。まさか……わたしを殺しうるほどの実力者と、こんなところで出会うなんて……」

「なに……」
 
 俺は攻撃があたらなくてすこし余裕をなくしていたが、どうやらお姉さんはかなり俺を警戒していたらしい。
 
『お前の攻撃に1度でも対処を誤ると、即自分が死ぬと理解しているのだろう。だが戦闘技量はかなり高いな。お前の攻撃をうまく曲刀の腹部分で受け流している』
 
 リリアベルの解説が入る。どうやら俺の攻撃は器用に受け流されていたらしい。
 
(そうか……これが俗に言う受け流しか……! マンガやゲームではおなじみだけど、いざ自分がやられるととっさにわからなかった……!)
 
 これは仕方ないよな! だって俺、そもそも野蛮な接近戦の経験なんてほとんどないし。

 つかガチの対人戦で剣を振るうのも、まだ慣れているわけではないのだ。
 
 お姉さんは曲刀を下ろさずに俺を注視している。
 
「お前はいったいなんなんだ……。動きは素人、剣での実戦経験もすくないというのもわかる。だが異様に高い身体能力だけで強引に押し切ってくる……。違和感の塊だ……」
 
 なるほど。たしかにお姉さんの方が剣の腕も上だろう。

 だが俺にはそうした技量差を強引に身体能力で埋めることができる。
 
 お姉さんからすれば、素人の剣使いがゴリゴリのパワーで押し切ってくるのだ。対応を誤れば死ぬのがわかっているぶん、より戸惑いも強いのだろう。
 
 そしてリリアベルから話を聞いた今、俺には対処法が見えていた。
 
(なんてことはない。要するに受け流せない攻撃だったらいいわけだ)
 
 つまりフォトンブレイドを使えば決着がつく。あれなら受け流そうとしてきても、曲刀ごと一瞬で断てるからな。

 さすがに実体がない武器には、技量だけでは対処できないだろう。
 
(どうする……!? やるか……!?)
 
 切り札を使用すれば、まちがいなく勝てる。だが俺にはすこし抵抗があった。

 なぜ抵抗を感じているのか。自分でもよくわからなかったが、理由を深掘っていく。
 
(ああ……そういうことか。剣での戦いなら、もしかしたら相手が生き残るかも……という可能性がある。でもフォトンブレイドを使えば……お姉さんは100%死ぬ)
 
 こんな世界だ。自分の命を危険にさらしてまで、相手の命を慮ることなど決してありえない。

 これまでも帝国軍人時代に人を殺してきたし、この星にきてからは精霊だって殺した。
 
 でもまだ俺の中では、接近戦でじかに人を殺すということに戸惑いがあるのだ。
 
 ……ええい、迷うな! この星で生きていくと決めたんだ……! そして俺の生き方は、だれにも邪魔をさせねぇ!
 
「な……。なぜ剣を収める……!?」
 
 グナ剣を鞘に入れ、代わりに懐から金属筒を取り出した。そして刀身を出そうとしたところで。
 
「マグナ! 巨人が!」
 
 上空からリュインの甲高い声が届く。視線をお姉さんの奥に向けると、座り込む巨人の周囲の床が青く光っていた。
 
「なんだ……!?」

『こちらの測定器では魔力が観測できん。なにが起こるか予測不可能だ、へたに近寄るな』
 
 エンブレストと思わしき人物が巨人の前に刺さっている剣の前に立っている。彼はそこから声を発した。
 
「メイフォン殿」

「…………!」
 
 メイフォンと呼ばれたお姉さんは高く舞い上がりながら、後方にいる男の側まで下がる。大きく距離が空いたものの、こちらに対する警戒は一切解いていなかった。
 
「博士。ノグとハイスは……」

「ああ、聞こえていたとも。驚いたよ……まさかあの2人を倒せるとは。マグナくんと言ったかな?」
 
 リュインが思いっきり俺の名を呼んでいたからな……! 男性とお姉さんは青く光る円の内側で立っていた。
 
「そういうあんたはエンブレストかい? 人体実験をしていたという、メルナキアの親父さんだろ?」

「おやぁ……? 娘のことを知っているのかい?」

「ああ。いろいろ世話になっているところだ」

「それはそれは。ふふ……時間があれば娘の話も聞かせてほしいところだが。それほど長い間、ここにはいられないものでね」
 
 青い光がだんだん強くなっていく。いったいなんだってんだ……。
 
「そう言わずにゆっくりしていけよ。こっちはいろいろ教えてほしいことがあるんだ。玖聖会が持っている、筋肉を異常発達させるクスリのこととかな……?」

「ほう……くわしいではないか」
 
 十中八九、作っているのはこの男だ。この部屋の出口は俺の後ろにある螺旋階段のみ。簡単には逃がさないぜ……!
 
「その巨人はなんだ? あんたは玖聖会でなにをしようとしている……?」

「はは! 興味あるかね!? 答えは自分で追い求めるものだ……と言いたいが、実はわたしもはっきりとした答えはもっていない! あくまで考察になるが、わたしもこの部屋に入ったときに驚いたものだ! まずどの時代に作られたかという考察から必要になるわけだがこの」
 
 エンブレストのマシンガントークがはじまる……と思った瞬間だった。青い光はひときわ強くなり、そのまま床を青く染める。

 そして周囲に大量の光の粒子をばらまきながら、巨人とエンブレスト、それにお姉さんの姿がきれいに消えていた。
 
「………………え?」

「消えた!?」

『……………………』
 
 意味がわからない。冗談でもなんでもなく、ばかでかい巨人と剣、座っていた椅子も消えているのだ。そこにははじめからなにもなかったかのようだった。
 
 だが剣の刺さっていた痕跡……地面に亀裂は残っていた。なにもないのに、それだけがたしかに巨人がここにいたのだと証明してるようだ。
 
「なんだってんだ……?」

『はっきりしたことはなにも言えんが……。あの青いサークルが転移装置の役割を果たしていたのかもしれん』

「え……」

『サークル内のものをどこかに転移させたということだ』
 
 エンブレストは剣を使用して青いラインを引いていた。あれはつまり……転送範囲を指定していたのか……?
 
「この星の魔力は、そんなことまでできんのか……!?」

『これまで聞いた魔道具でできることの範疇を越えているな。オーパーツだろう……と言いたいところだが』

「なにか引っかかるのか?」

『ああ。あの男が持っていた剣は、古代に作成されたものだとは思えなかった。むしろ最近作成されたばかりのものに見える』
 
 オーパーツは古代の不思議道具で、現在の魔道具では再現できない効果を発揮するものになる。転移装置もその類だが、使用していた剣はリリアベル鑑定によると、最近作られたものに見えた……か。
 
 リュインも空中で首をひねる。ひねりすぎて体も横回転していた。
 
「だれかがオーパーツを再現したんじゃないの?」

「ああ……その可能性もあるか」
 
 とにかくだれもいなくなった以上、いつまでもここにいても仕方ないか。
 
『一度上に戻ろう。ああ、地上に出る前に地下二階の資料を確認するぞ』

「へいへい……」
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