87 / 98
大図書館の地下で、セクシーお姉さんと対峙しました。
しおりを挟む
リュインの言葉を聞いて、お姉さんは俺を探るような目で見てくる。
しかし眼前には謎の踊り子お姉さん、その奥には巨大騎士か。よく見ると騎士の周囲を取り囲むように青いラインが引かれている。
「ふん……なるほど。たしかにかなりできるようだ。ノグとハイスがやられたというのも、ありえる話だろう」
「で……お姉さんはなにもの? まさかエンブレストが女装しているってことはないよな?」
リリアベルはノグの他にもう一人、剣など刃を扱う者がいると予測を立てていた。おそらくこのお姉さんだろう。
だが肝心のエンブレストはどこだ……と思っていると、巨人の座るどでかい椅子の後ろからそれらしき人物が姿を見せた。
その男性は青く光る長剣を地面に引きずりながら歩いている。
「あいつがエンブレストか……!」
どういう仕掛けかわからないが、青いラインを引いていたのはエンブレスト本人らしい。
とりあえず危険人物の身柄を確保せねば……と意識がいっていたその時。眼前に5つのナイフが迫ってきていた。
「うぉ!?」
1つ1つ冷静に剣で弾く。その間にお姉さんは再び迫ってきていた。
「リュイン! 離れてろ!」
「わかったわ!」
お姉さんにはわるいが……! 剣ごと斬らせてもらうぜ……!
恵まれすぎた身体能力に、銀河にそうはない名剣だ。お姉さんの曲刀なんざ、一撃で砕けるだろう。
そう思い、迫りくる刃に合わせるように剣を振るう。
「…………っ!?」
俺のイメージでは、このまま武器を破壊してお姉さんを斬るつもりだった。
だが剣と曲刀が触れたその瞬間、お姉さんは無理に打ち合わずに器用に刃の角度を傾ける。
すると俺の振るった剣はあらぬ方向へと逸らされ、つられるように腕も上がってしまった。
(やべぇっ!)
お姉さんは素早く懐に入り込んでくる。そしてその凶刃が俺の胴体に襲いかかった。
もろに攻撃を受けながらも両足を地面から離す。踏ん張りができなくなったことで、俺の身体はお姉さんの斬撃を受けつつ後方へと飛ばされた。
「ぐ……!」
だが地面を転がり、すぐに立ち上がる。斬撃を受けた胴体に視線を向けるが、傷はなかった。
「な……!? たしかに斬ったはずなのに……!?」
『念のため防刃性能を向上させておいてよかった。おい、油断しすぎだぞ』
「わぁってるよ!」
この国に来る前、俺たちはリリアベルに冬服を用意してもらっていた。
もとからそれなり以上に防御性能の高い服を着ていたが、今はそれらがもう一段階上がっているのだ。おかげでお姉さんの曲刀で斬られずにすんだ。
だが衝撃は受けるし、打撃は完全に無効化できるわけではない。とにかくこのお姉さんを突破しなければ、なにかしようとしているエンブレストをとめられない。
「おおおお!」
「っ!」
強く地面を蹴って前へと駆け出す。そしてお姉さんに向かって連続で剣を振るった。
「く……!」
お姉さんは両目を限界まで見開き、まばたき一つせずに俺の剣をかわし続ける。
あたらないことにだんだん焦りとイラつきを覚えながら、右手でやや大ぶりに剣を振るった。するとお姉さんはそこに曲刀を合わせてくる。
「…………!?」
そして先ほど同様、俺の剣は大きく逸らされた。
なぜだ……!? さっきよりも力を込めているのに……!
「はああぁぁ!」
再び斬撃が迫る。だがこの冬服を斬れないのはわかっている。俺は空いた左腕をガードするように前へ出す。
「な……」
お姉さんの曲刀を腕でガードすることに成功した。斬れてはいないけど……! ちょっと痛い……!
「うおぉぉらぁ!」
そのまま左足で蹴り上げる。
だがお姉さんは身軽な動きで両足をそろえて飛び上がると、俺の蹴りをかわしつつ突き出していた左腕に着地する。そしてそのまま左腕を蹴って後方へと飛んだ。
「曲芸師かよ……!」
ここまで攻撃が当たらないなんて……! というか、なぜだか剣の軌道をそらされる! たしかにお姉さんの曲刀と接触しているのに……!
だがそのお姉さんは、俺よりも額に汗を流していた。
「はぁ、はぁ……。まさか……わたしを殺しうるほどの実力者と、こんなところで出会うなんて……」
「なに……」
俺は攻撃があたらなくてすこし余裕をなくしていたが、どうやらお姉さんはかなり俺を警戒していたらしい。
『お前の攻撃に1度でも対処を誤ると、即自分が死ぬと理解しているのだろう。だが戦闘技量はかなり高いな。お前の攻撃をうまく曲刀の腹部分で受け流している』
リリアベルの解説が入る。どうやら俺の攻撃は器用に受け流されていたらしい。
(そうか……これが俗に言う受け流しか……! マンガやゲームではおなじみだけど、いざ自分がやられるととっさにわからなかった……!)
これは仕方ないよな! だって俺、そもそも野蛮な接近戦の経験なんてほとんどないし。
つかガチの対人戦で剣を振るうのも、まだ慣れているわけではないのだ。
お姉さんは曲刀を下ろさずに俺を注視している。
「お前はいったいなんなんだ……。動きは素人、剣での実戦経験もすくないというのもわかる。だが異様に高い身体能力だけで強引に押し切ってくる……。違和感の塊だ……」
なるほど。たしかにお姉さんの方が剣の腕も上だろう。
だが俺にはそうした技量差を強引に身体能力で埋めることができる。
お姉さんからすれば、素人の剣使いがゴリゴリのパワーで押し切ってくるのだ。対応を誤れば死ぬのがわかっているぶん、より戸惑いも強いのだろう。
そしてリリアベルから話を聞いた今、俺には対処法が見えていた。
(なんてことはない。要するに受け流せない攻撃だったらいいわけだ)
つまりフォトンブレイドを使えば決着がつく。あれなら受け流そうとしてきても、曲刀ごと一瞬で断てるからな。
さすがに実体がない武器には、技量だけでは対処できないだろう。
(どうする……!? やるか……!?)
切り札を使用すれば、まちがいなく勝てる。だが俺にはすこし抵抗があった。
なぜ抵抗を感じているのか。自分でもよくわからなかったが、理由を深掘っていく。
(ああ……そういうことか。剣での戦いなら、もしかしたら相手が生き残るかも……という可能性がある。でもフォトンブレイドを使えば……お姉さんは100%死ぬ)
こんな世界だ。自分の命を危険にさらしてまで、相手の命を慮ることなど決してありえない。
これまでも帝国軍人時代に人を殺してきたし、この星にきてからは精霊だって殺した。
でもまだ俺の中では、接近戦でじかに人を殺すということに戸惑いがあるのだ。
……ええい、迷うな! この星で生きていくと決めたんだ……! そして俺の生き方は、だれにも邪魔をさせねぇ!
「な……。なぜ剣を収める……!?」
グナ剣を鞘に入れ、代わりに懐から金属筒を取り出した。そして刀身を出そうとしたところで。
「マグナ! 巨人が!」
上空からリュインの甲高い声が届く。視線をお姉さんの奥に向けると、座り込む巨人の周囲の床が青く光っていた。
「なんだ……!?」
『こちらの測定器では魔力が観測できん。なにが起こるか予測不可能だ、へたに近寄るな』
エンブレストと思わしき人物が巨人の前に刺さっている剣の前に立っている。彼はそこから声を発した。
「メイフォン殿」
「…………!」
メイフォンと呼ばれたお姉さんは高く舞い上がりながら、後方にいる男の側まで下がる。大きく距離が空いたものの、こちらに対する警戒は一切解いていなかった。
「博士。ノグとハイスは……」
「ああ、聞こえていたとも。驚いたよ……まさかあの2人を倒せるとは。マグナくんと言ったかな?」
リュインが思いっきり俺の名を呼んでいたからな……! 男性とお姉さんは青く光る円の内側で立っていた。
「そういうあんたはエンブレストかい? 人体実験をしていたという、メルナキアの親父さんだろ?」
「おやぁ……? 娘のことを知っているのかい?」
「ああ。いろいろ世話になっているところだ」
「それはそれは。ふふ……時間があれば娘の話も聞かせてほしいところだが。それほど長い間、ここにはいられないものでね」
青い光がだんだん強くなっていく。いったいなんだってんだ……。
「そう言わずにゆっくりしていけよ。こっちはいろいろ教えてほしいことがあるんだ。玖聖会が持っている、筋肉を異常発達させるクスリのこととかな……?」
「ほう……くわしいではないか」
十中八九、作っているのはこの男だ。この部屋の出口は俺の後ろにある螺旋階段のみ。簡単には逃がさないぜ……!
「その巨人はなんだ? あんたは玖聖会でなにをしようとしている……?」
「はは! 興味あるかね!? 答えは自分で追い求めるものだ……と言いたいが、実はわたしもはっきりとした答えはもっていない! あくまで考察になるが、わたしもこの部屋に入ったときに驚いたものだ! まずどの時代に作られたかという考察から必要になるわけだがこの」
エンブレストのマシンガントークがはじまる……と思った瞬間だった。青い光はひときわ強くなり、そのまま床を青く染める。
そして周囲に大量の光の粒子をばらまきながら、巨人とエンブレスト、それにお姉さんの姿がきれいに消えていた。
「………………え?」
「消えた!?」
『……………………』
意味がわからない。冗談でもなんでもなく、ばかでかい巨人と剣、座っていた椅子も消えているのだ。そこにははじめからなにもなかったかのようだった。
だが剣の刺さっていた痕跡……地面に亀裂は残っていた。なにもないのに、それだけがたしかに巨人がここにいたのだと証明してるようだ。
「なんだってんだ……?」
『はっきりしたことはなにも言えんが……。あの青いサークルが転移装置の役割を果たしていたのかもしれん』
「え……」
『サークル内のものをどこかに転移させたということだ』
エンブレストは剣を使用して青いラインを引いていた。あれはつまり……転送範囲を指定していたのか……?
「この星の魔力は、そんなことまでできんのか……!?」
『これまで聞いた魔道具でできることの範疇を越えているな。オーパーツだろう……と言いたいところだが』
「なにか引っかかるのか?」
『ああ。あの男が持っていた剣は、古代に作成されたものだとは思えなかった。むしろ最近作成されたばかりのものに見える』
オーパーツは古代の不思議道具で、現在の魔道具では再現できない効果を発揮するものになる。転移装置もその類だが、使用していた剣はリリアベル鑑定によると、最近作られたものに見えた……か。
リュインも空中で首をひねる。ひねりすぎて体も横回転していた。
「だれかがオーパーツを再現したんじゃないの?」
「ああ……その可能性もあるか」
とにかくだれもいなくなった以上、いつまでもここにいても仕方ないか。
『一度上に戻ろう。ああ、地上に出る前に地下二階の資料を確認するぞ』
「へいへい……」
しかし眼前には謎の踊り子お姉さん、その奥には巨大騎士か。よく見ると騎士の周囲を取り囲むように青いラインが引かれている。
「ふん……なるほど。たしかにかなりできるようだ。ノグとハイスがやられたというのも、ありえる話だろう」
「で……お姉さんはなにもの? まさかエンブレストが女装しているってことはないよな?」
リリアベルはノグの他にもう一人、剣など刃を扱う者がいると予測を立てていた。おそらくこのお姉さんだろう。
だが肝心のエンブレストはどこだ……と思っていると、巨人の座るどでかい椅子の後ろからそれらしき人物が姿を見せた。
その男性は青く光る長剣を地面に引きずりながら歩いている。
「あいつがエンブレストか……!」
どういう仕掛けかわからないが、青いラインを引いていたのはエンブレスト本人らしい。
とりあえず危険人物の身柄を確保せねば……と意識がいっていたその時。眼前に5つのナイフが迫ってきていた。
「うぉ!?」
1つ1つ冷静に剣で弾く。その間にお姉さんは再び迫ってきていた。
「リュイン! 離れてろ!」
「わかったわ!」
お姉さんにはわるいが……! 剣ごと斬らせてもらうぜ……!
恵まれすぎた身体能力に、銀河にそうはない名剣だ。お姉さんの曲刀なんざ、一撃で砕けるだろう。
そう思い、迫りくる刃に合わせるように剣を振るう。
「…………っ!?」
俺のイメージでは、このまま武器を破壊してお姉さんを斬るつもりだった。
だが剣と曲刀が触れたその瞬間、お姉さんは無理に打ち合わずに器用に刃の角度を傾ける。
すると俺の振るった剣はあらぬ方向へと逸らされ、つられるように腕も上がってしまった。
(やべぇっ!)
お姉さんは素早く懐に入り込んでくる。そしてその凶刃が俺の胴体に襲いかかった。
もろに攻撃を受けながらも両足を地面から離す。踏ん張りができなくなったことで、俺の身体はお姉さんの斬撃を受けつつ後方へと飛ばされた。
「ぐ……!」
だが地面を転がり、すぐに立ち上がる。斬撃を受けた胴体に視線を向けるが、傷はなかった。
「な……!? たしかに斬ったはずなのに……!?」
『念のため防刃性能を向上させておいてよかった。おい、油断しすぎだぞ』
「わぁってるよ!」
この国に来る前、俺たちはリリアベルに冬服を用意してもらっていた。
もとからそれなり以上に防御性能の高い服を着ていたが、今はそれらがもう一段階上がっているのだ。おかげでお姉さんの曲刀で斬られずにすんだ。
だが衝撃は受けるし、打撃は完全に無効化できるわけではない。とにかくこのお姉さんを突破しなければ、なにかしようとしているエンブレストをとめられない。
「おおおお!」
「っ!」
強く地面を蹴って前へと駆け出す。そしてお姉さんに向かって連続で剣を振るった。
「く……!」
お姉さんは両目を限界まで見開き、まばたき一つせずに俺の剣をかわし続ける。
あたらないことにだんだん焦りとイラつきを覚えながら、右手でやや大ぶりに剣を振るった。するとお姉さんはそこに曲刀を合わせてくる。
「…………!?」
そして先ほど同様、俺の剣は大きく逸らされた。
なぜだ……!? さっきよりも力を込めているのに……!
「はああぁぁ!」
再び斬撃が迫る。だがこの冬服を斬れないのはわかっている。俺は空いた左腕をガードするように前へ出す。
「な……」
お姉さんの曲刀を腕でガードすることに成功した。斬れてはいないけど……! ちょっと痛い……!
「うおぉぉらぁ!」
そのまま左足で蹴り上げる。
だがお姉さんは身軽な動きで両足をそろえて飛び上がると、俺の蹴りをかわしつつ突き出していた左腕に着地する。そしてそのまま左腕を蹴って後方へと飛んだ。
「曲芸師かよ……!」
ここまで攻撃が当たらないなんて……! というか、なぜだか剣の軌道をそらされる! たしかにお姉さんの曲刀と接触しているのに……!
だがそのお姉さんは、俺よりも額に汗を流していた。
「はぁ、はぁ……。まさか……わたしを殺しうるほどの実力者と、こんなところで出会うなんて……」
「なに……」
俺は攻撃があたらなくてすこし余裕をなくしていたが、どうやらお姉さんはかなり俺を警戒していたらしい。
『お前の攻撃に1度でも対処を誤ると、即自分が死ぬと理解しているのだろう。だが戦闘技量はかなり高いな。お前の攻撃をうまく曲刀の腹部分で受け流している』
リリアベルの解説が入る。どうやら俺の攻撃は器用に受け流されていたらしい。
(そうか……これが俗に言う受け流しか……! マンガやゲームではおなじみだけど、いざ自分がやられるととっさにわからなかった……!)
これは仕方ないよな! だって俺、そもそも野蛮な接近戦の経験なんてほとんどないし。
つかガチの対人戦で剣を振るうのも、まだ慣れているわけではないのだ。
お姉さんは曲刀を下ろさずに俺を注視している。
「お前はいったいなんなんだ……。動きは素人、剣での実戦経験もすくないというのもわかる。だが異様に高い身体能力だけで強引に押し切ってくる……。違和感の塊だ……」
なるほど。たしかにお姉さんの方が剣の腕も上だろう。
だが俺にはそうした技量差を強引に身体能力で埋めることができる。
お姉さんからすれば、素人の剣使いがゴリゴリのパワーで押し切ってくるのだ。対応を誤れば死ぬのがわかっているぶん、より戸惑いも強いのだろう。
そしてリリアベルから話を聞いた今、俺には対処法が見えていた。
(なんてことはない。要するに受け流せない攻撃だったらいいわけだ)
つまりフォトンブレイドを使えば決着がつく。あれなら受け流そうとしてきても、曲刀ごと一瞬で断てるからな。
さすがに実体がない武器には、技量だけでは対処できないだろう。
(どうする……!? やるか……!?)
切り札を使用すれば、まちがいなく勝てる。だが俺にはすこし抵抗があった。
なぜ抵抗を感じているのか。自分でもよくわからなかったが、理由を深掘っていく。
(ああ……そういうことか。剣での戦いなら、もしかしたら相手が生き残るかも……という可能性がある。でもフォトンブレイドを使えば……お姉さんは100%死ぬ)
こんな世界だ。自分の命を危険にさらしてまで、相手の命を慮ることなど決してありえない。
これまでも帝国軍人時代に人を殺してきたし、この星にきてからは精霊だって殺した。
でもまだ俺の中では、接近戦でじかに人を殺すということに戸惑いがあるのだ。
……ええい、迷うな! この星で生きていくと決めたんだ……! そして俺の生き方は、だれにも邪魔をさせねぇ!
「な……。なぜ剣を収める……!?」
グナ剣を鞘に入れ、代わりに懐から金属筒を取り出した。そして刀身を出そうとしたところで。
「マグナ! 巨人が!」
上空からリュインの甲高い声が届く。視線をお姉さんの奥に向けると、座り込む巨人の周囲の床が青く光っていた。
「なんだ……!?」
『こちらの測定器では魔力が観測できん。なにが起こるか予測不可能だ、へたに近寄るな』
エンブレストと思わしき人物が巨人の前に刺さっている剣の前に立っている。彼はそこから声を発した。
「メイフォン殿」
「…………!」
メイフォンと呼ばれたお姉さんは高く舞い上がりながら、後方にいる男の側まで下がる。大きく距離が空いたものの、こちらに対する警戒は一切解いていなかった。
「博士。ノグとハイスは……」
「ああ、聞こえていたとも。驚いたよ……まさかあの2人を倒せるとは。マグナくんと言ったかな?」
リュインが思いっきり俺の名を呼んでいたからな……! 男性とお姉さんは青く光る円の内側で立っていた。
「そういうあんたはエンブレストかい? 人体実験をしていたという、メルナキアの親父さんだろ?」
「おやぁ……? 娘のことを知っているのかい?」
「ああ。いろいろ世話になっているところだ」
「それはそれは。ふふ……時間があれば娘の話も聞かせてほしいところだが。それほど長い間、ここにはいられないものでね」
青い光がだんだん強くなっていく。いったいなんだってんだ……。
「そう言わずにゆっくりしていけよ。こっちはいろいろ教えてほしいことがあるんだ。玖聖会が持っている、筋肉を異常発達させるクスリのこととかな……?」
「ほう……くわしいではないか」
十中八九、作っているのはこの男だ。この部屋の出口は俺の後ろにある螺旋階段のみ。簡単には逃がさないぜ……!
「その巨人はなんだ? あんたは玖聖会でなにをしようとしている……?」
「はは! 興味あるかね!? 答えは自分で追い求めるものだ……と言いたいが、実はわたしもはっきりとした答えはもっていない! あくまで考察になるが、わたしもこの部屋に入ったときに驚いたものだ! まずどの時代に作られたかという考察から必要になるわけだがこの」
エンブレストのマシンガントークがはじまる……と思った瞬間だった。青い光はひときわ強くなり、そのまま床を青く染める。
そして周囲に大量の光の粒子をばらまきながら、巨人とエンブレスト、それにお姉さんの姿がきれいに消えていた。
「………………え?」
「消えた!?」
『……………………』
意味がわからない。冗談でもなんでもなく、ばかでかい巨人と剣、座っていた椅子も消えているのだ。そこにははじめからなにもなかったかのようだった。
だが剣の刺さっていた痕跡……地面に亀裂は残っていた。なにもないのに、それだけがたしかに巨人がここにいたのだと証明してるようだ。
「なんだってんだ……?」
『はっきりしたことはなにも言えんが……。あの青いサークルが転移装置の役割を果たしていたのかもしれん』
「え……」
『サークル内のものをどこかに転移させたということだ』
エンブレストは剣を使用して青いラインを引いていた。あれはつまり……転送範囲を指定していたのか……?
「この星の魔力は、そんなことまでできんのか……!?」
『これまで聞いた魔道具でできることの範疇を越えているな。オーパーツだろう……と言いたいところだが』
「なにか引っかかるのか?」
『ああ。あの男が持っていた剣は、古代に作成されたものだとは思えなかった。むしろ最近作成されたばかりのものに見える』
オーパーツは古代の不思議道具で、現在の魔道具では再現できない効果を発揮するものになる。転移装置もその類だが、使用していた剣はリリアベル鑑定によると、最近作られたものに見えた……か。
リュインも空中で首をひねる。ひねりすぎて体も横回転していた。
「だれかがオーパーツを再現したんじゃないの?」
「ああ……その可能性もあるか」
とにかくだれもいなくなった以上、いつまでもここにいても仕方ないか。
『一度上に戻ろう。ああ、地上に出る前に地下二階の資料を確認するぞ』
「へいへい……」
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ちょっとエッチな執事の体調管理
mm
ファンタジー
私は小川優。大学生になり上京して来て1ヶ月。今はバイトをしながら一人暮らしをしている。
住んでいるのはそこらへんのマンション。
変わりばえない生活に飽き飽きしている今日この頃である。
「はぁ…疲れた」
連勤のバイトを終え、独り言を呟きながらいつものようにマンションへ向かった。
(エレベーターのあるマンションに引っ越したい)
そう思いながらやっとの思いで階段を上りきり、自分の部屋の方へ目を向けると、そこには見知らぬ男がいた。
「優様、おかえりなさいませ。本日付けで雇われた、優様の執事でございます。」
「はい?どちら様で…?」
「私、優様の執事の佐川と申します。この度はお嬢様体験プランご当選おめでとうございます」
(あぁ…!)
今の今まで忘れていたが、2ヶ月ほど前に「お嬢様体験プラン」というのに応募していた。それは無料で自分だけの執事がつき、身の回りの世話をしてくれるという画期的なプランだった。執事を雇用する会社はまだ新米の執事に実際にお嬢様をつけ、3ヶ月無料でご奉仕しながら執事業を学ばせるのが目的のようだった。
「え、私当たったの?この私が?」
「さようでございます。本日から3ヶ月間よろしくお願い致します。」
尿・便表現あり
アダルトな表現あり
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる