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大図書館の地下に足を踏み入れました。

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「なぁ。メルナキアの親父さん……エンブレストの目的って、なんだと思うよ?」
 
 大図書館を目指しながらリュインとリリアベルに話しかける。親父さんが本当に大図書館にいるのかはわからなかったが、その狙いもまったく読めなかった。
 
 そもそもエンブレトからすれば、この国で不祥事を起こした身だ。再び姿を現せば、捕まるということはわかっているはずだろう。
 
「メルナキアに会いにきたとか? あ、あと! 研究を進めているうちに、大図書館の資料が必要になったとか!」

「ああ……それはありそうだな……」
 
 あくまで状況証拠になるが。たぶんエンブレストはこの国を出て、玖聖会で研究を続けていたんだ。

 ある程度形になったんだろうけど……まだ完成はしていない。その研究に大図書館の資料が必要になったというのはありえる。
 
『その男の狙いを読むには、こちらはあまりに情報が不足している。この場で結論は出せんだろう』

「まぁ……そう言われたらそうなんだけどよ」

『それにまだ大図書館にいると決まったわけではない。まずは状況を一つ一つ確かめていくのが先だ』
 
 冷静だねぇ……。
 そうこうしているうちに大図書館へと到着する。俺はそのまま中に入ると、地下に続く廊下へと目指した。
 
「ほとんど人がいないな……」
 
 地下へ続く階段のある廊下には扉がついている。普段はこの扉の前に2人の警備兵が常駐しているのだ。しかし今、そこに警備兵はいなかった。
 
「…………? いない……?」

「ねぇねぇ! この扉、開いているんじゃない?」
 
 近くに人がいないことを確認し、そっと扉を押してみる。すると簡単に開くことができた。
 
「失礼しますよっと……」
 
 さっそく中へと入ってみる。廊下はそこそこ長く続いていた。だがやはり警備兵の姿は見えない。
 
「どうなっている……?」

『ふむ……おい。視界を借りるぞ』
 
 軍用コンタクトレンズとリリアベルの接続が完了する。リリアベルはそのままコンタクトレンズのサーモグラフィ機能をオンにした。
 
『気のせいか……?』

「どうしたんだよ」

『いや……。てっきりどこかに警備兵の死体が隠されているかと思ってな』

「こえぇよ!?」
 
 俺とリュインはそのまま廊下を進みはじめる。まぁどうせこの奥には行くつもりだったし。
 
 今は状況が状況だから、地下に行ってもじっくり見回っている時間はなさそうだけど……。それにエンブレストがいないとも限らない。
 
「お……あれが地下への階段か」
 
 何度か改修してきたのか、ここまでの廊下や階段周りはそれなりにきれいだった。俺はなるべく足音を立てないように気をつけながら階段を下る。
 
 もしかしたらこの先に警備兵がいるかもしれないし。見つかったらちょっと面倒なことになる。
 
「ん……? って、おい! あれ……!」

「扉が……壊されてるー!?」
 
 階段を下りきると、ひしゃげて吹き飛ばされた鉄扉が見えた。ただごとじゃない。そのまま駆け足で部屋の中へと入る。
 
「な……!?」
 
 そこにはまったく想像していなかった光景が広がっていた。何人もの鎧を着こんだ者たちが血を流しながら倒れているのだ。
 
「これ……!?」

「あん……? 〈フェルン〉……?」

「っ!?」
 
 部屋の最奥部には大柄な男が立っていた。見覚えがある。たしかノグと呼ばれていた男だ。
 
「その〈フェルン〉……この間の……。どうしてお前のような男がここにいる?」

「そりゃそっくりそのまんま、こっちのセリフだわ」

「そうよそうよ! これ、あなたがやったんでしょ!?」
 
 ざっと見て20人はいる騎士たち。だが生き残っていそうな者はいない。

 そしてノグという男の拳や服には、血がこびりついていた。
 
「くく……! ちょうどいい……! この前はハイスに止められたが……! ここでお前を殺し、その〈フェルン〉を捕まえれば……! 博士の役に立てるというものだ!」
 
 そういうとノグの全身が強く輝きだす。身体能力の強化に入ったか。
 
「ハイスが来るまで、ここで見張りを任されていたが……本当に邪魔者がやってくるとはな……!」

『なるほど。どうやらビンゴのようだな。博士……エンブレストはこの先だろう』
 
 そうみたいだな。今さらこの男とエンブレストが無関係だとは思えない。それにこのまま放置するのも問題だろう。
 
 なにせどういう目的があってこの地に来たにせよ、こうして実際に人を殺しているんだ。せっかくこの国も好きになってきていたところだったのに……。
 
 加えてエンブレストを放置すれば、俺やアハトにとっての脅威が増える可能性もある。

 世のため人のため……というよりは、俺たちの邪魔をさせないためにも。悪人はここでさっさと捕えておいた方がいい。
 
「こおおぉぉぉぉぉ……! いくぞっ! 砕け散れぇ!」
 
 ノグは腰を落とすと、見るからに頑健な体の肩を突き出しながら突撃してくる。おそらくこのタックルで、鉄扉を吹き飛ばしたのだろう。
 
(今度はだいじょうぶだ……)
 
 反射的に行動をとったさっきとはちがう。今度は俺の意志で。こいつを斬る。
 
 眼前にノグの肩が迫る……その瞬間。俺は倒れこむように前傾姿勢となり、そのままノグの後方へと駆け抜けた。その手には黒い刀身があやしく煌めいている。
 
「あ……!? お……」
 
 後方からズゥンと重量を感じさせる音が響く。振り向くと、そこには胴体を断たれたノグの身体があった。
 
「うへぇ……。やっぱいい気はしねぇな……」
 
 だがこの星で生きていく以上、いちいちひるんではいられない。ここでは艦隊戦なんてものはないのだから。
 
「マグナ! こっち!」
 
 すこし離れたところからリュインの声が響く。呼ばれて近よると、そこには騎士っぽくない服装をした男性が倒れていた。
 
「ん……? 鎧を着ていない……?」

「この人! まだ生きてる!」

「え!?」
 
 男性の腕をとって脈を測る。たしかに生きているな。だが全身をだらんとさせているし、こうして触ってもなにも反応がない。
 
 両目は開いたままだ。焦点が合っているのかいないのか……今、意識があるのかないのかも判断がつかないな。
 
『ショック状態……とはまたちがうな。……うん? おい、首の後ろ。腫れていないか?』

「え……」
 
 男性を抱き起こし、首の裏を見てみる。するとたしかに腫れが見えた。またわずかながら血も流れており、周囲が赤く変色している。
 
「これは……」

『毒かもしれんな』

「うへぇ……」
 
 つかなんで騎士たちは殺されているのに、この人だけ毒なんだ。まぁ考えていてもわからないか……。
 
 俺は男性を壁際まで運ぶと、背中でもたれかかれるように下ろしてやる。だが相変わらず全身に力が入っていなかった。
 
「とにかくこの先に進んでみるか……」

『警戒は怠るな。すくなくとももう1人、武装した者がいる』

「え……」

『死体の状況を解析した。鎧がひしゃげて圧死したものもあれば、刃物で斬られているものもある。さっきの男は刃物の類を持っていなかっただろう?』
 
 言われてみれば……。たぶんノグは、鎧が変形するほどの強い力を振るって暴れたのだろう。

 だがもう1人。刃物で騎士たちを斬り殺した者がいる。
 
『リュインも警戒しろ。なるべく高い位置で、マグナの後方にいるんだ』

「わ……わかったわ! さぁマグナ! 正義の鉄槌を下しにいくわよ!」

「あんまりそういうテンションになれねぇな……」
 
 こんだけ死体を見るとな……。だが気落ちているわけではない。むしろこれはチャンスだろう。
 
(ここでメルナキアの親父を捕まえれば……もうあんな筋肉怪物が現れることがなくなるかもしれない。そうすりゃこれから先、この星でより動きやすくなるってもんだぜ……!)
 
 まさか学会初日からこんなことになるとは思ってもいなかったがな……。
 
『むぅ……時間があれば、この部屋にある資料にも目を通しておきたいのだが……』

「そりゃまたの機会にとっておこう。……行くぜ!」

「おー!」
 
 どうでもいいけど、リュインもけっこうタフだよな……。まぁこんな世界だし、人の死は見慣れているのかもしれない。
 
 あるいは精霊だから、そこまで人に関心がないのかね……。
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