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ワケありっぽい少女、ルシアちゃんと知り合いになりました。

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 ラングはルシアちゃんの後ろにいる2人の男にも顔を向ける。
 
「レッド、オボロ。お前たちも……」

「いろいろ考えたがな。これがルシア嬢ちゃん……いや。マスターを守ることに繋がると考えた」

「ルシアが決めたことだ。マスターには恩もある。俺は最後まで付き合うと決めている」

「………………そうか」
 
 なにやら因縁がありそうなもの言いだな。

 それにオボロといったか。腰に挿している剣……ありゃハルトと同じカタナだな。
 
「さっそくだけど。これから魔獣を狩りに行くの。今夜はその稼ぎで、ルシアファミリーの門出を祝ったパーティーを行うから。二階の個室、空けておいてよね?」

「今から? まさか3人だけでか?」

「そうよ。だって他にメンバーはいないもの」
 
 活動的なお嬢ちゃんだねぇ。ファルクを結成したばかりだし、はやく魔獣を狩って実績を積んでいきたいのだろう。大きくしたいみたいだし。
 
「外に出るのは、せめてもうすこし人数をそろえてからにするんだ。ルシア嬢ちゃん……あなたはいい意味でもわるい意味でも、冒険者たちから注目されている」

「だからこそ、悠長なことはしてられないのよ。ファルクを結成した初日から動かないと、なめられてしまうもの」

「しかし……」
 
 すっかり蚊帳の外だな! このルシアちゃんというのが中心になっているのはわかるんだが。

 どうやらラングはルシアちゃんが冒険者をはじめること自体、歓迎していないらしい。
 
 心配しているのはわかる。だがなにに対して……という部分はまったく見えてこない。事情を知らないよそ者だから当然だけど。
 
「とりあえず邪魔になりそうだし、一旦俺たちは外に出るか。おっちゃん、金置いてくぜ」
 
 そう言うと俺とアハトは席を立つ。リュインもすぐ側に飛んできた。

 ここではじめてこちらに気づいたように、ルシアちゃんは俺たちに視線を向ける。
 
 いや、俺に視線を向けたのは体感0.1秒だ。続けてリュインに視線を移し、アハトをガン見していた。
 
「……なにか?」

「え!? あ、その……」
 
 なぜかルシアちゃんの顔が赤くなっている。オボロは表情を変えていなかったが、レッドという男はアハトを見て目じりを下げていた。
 
 うーん……ここでもアハトの美貌は強い破壊力を持つらしい。

 つかなんで高貴な生まれである俺に注目しないんだ!? ただ者じゃないオーラが出ているはずなのに!
 
 ま、まぁいい。さっさとここを出よう。そう思ったタイミングで、ラングが声をかけてくる。
 
「そうだ、あんたたち。よかったらルシア嬢ちゃんについていってやってくれないか?」

「……はい?」

「ラング!? どういうつもり!?」
 
 俺もルシアちゃんも、ラングの提案に驚く。だがラングはルシアちゃんに向かって力強くうなずきを見せた。
 
「安心してくれ。この2人はこの間、魔獣大陸に来たばかりのルーキーなんだ。ここの事情はなにも知らないし、まだどこのファルクとも関わりを持っていない」
 
 また引っかかる言い方だな……。どうやらある程度、事情がはっきりしている奴じゃないと、ラングも声をかけるつもりがなかったようだ。
 
 おそらく条件は、最近来たばかりであること。ルシアちゃんたちの事情を把握していないこと。他のファルクと一切関係を持っていないことだろう。
 
「ルシア嬢ちゃんも、今日は日帰りできる町の近辺で狩りを行うつもりだろう? 二階の個室を予約していたからな。この2人はすでに町近郊で魔獣を狩った実績もある」

「……そうなの?」

「ちょっと! わたしもよ!」
 
 リュインが抗議するように声を上げる。いや、お前はなにもしてねぇだろ!
 
「頼む。あんたたち、今日はルシア嬢ちゃんの手伝いをしてやってくれないか? 今夜は俺の奢りにするからよ」

「ラング! 勝手に話を進めないでよ!」
 
 ルシアちゃんが抗議するように声を上げる。俺としてはタダ飯になったところで、金に困っているわけではないからメリットはないのだが。

 でもいろいろ親切心で教えてくれたし、それくらいはべつに構わない。
 
「まぁまぁ、マスター。ラングのおやっさんも、マスターが心配なんですよ」

「ルーキーの面倒を我らに見させようという思惑もありそうだがな」
 
 あー、そういう……。いや、よけいなお世話だわ! 

 しかしここで口を開いたのはアハトだった。
 
「わたしは構いませんよ。ちょうど今日の予定は決まっていませんでしたし……それに。おもしろそうですからね」

「どこでそう感じたのかは謎だが、まぁ俺も構わねぇよ」
 
 どうせここで冒険者をすることに飽きてきたところだったし。ルシアちゃんのファルクに就職するわけでもないし、今日一日付き合うくらいは問題ない。
 
 さっきまで抗議していたルシアちゃんも、アハトの言葉を聞いて表情を柔らかくしていた。
 
「そ……そう……? まぁラングが言うなら問題ない人物でしょうし。どうしてもと言うなら……べつに構わないわよ……?」

「態度変わりすぎじゃない?」
 
 かくしてこの日は、ルシアちゃんたちのファルクと一緒に狩りにでかけることとなった。
 
 

 
 
「あらためてよろしくな! 俺の名はレッドだ!」
 
 レッドは筋肉質な男だった。ぶっとい二の腕によく日に焼けた肌。髪型も角刈りだし、元気が有り余っていそうな感じがする。

 ちなみに頭から角を生やしている。勇角種と呼ばれる種族だな。
 
 彼は背中に二本の斧を背負っていた。腕力で重い斧を振り回すパワーファイターなのだろう。
 
「オボロだ」
 
 対してオボロは、どちらかと言えば痩せていた。

 ハルトの使っていたカタナは使い手がすくないという話だったが。腕に自信ありという感じが出ているな。
 
「ルシアよ。1日だけの付き合いだけどよろしく」
 
 ルシアちゃんはいかにも魔法使いが持っていそうな杖を手にしていた。どことなく骸骨精霊が持っていた杖に似ている。

 ま……まさか……。魔術が使えるのか……!?
 
「マグナだ。よろしくな!」

「リュインよ!」

「アハトです。フ……」
 
 いや、なんのフ……だよ。顔がいいから様になっているのがまた腹立つ……!
 
 俺たちはさっそく町を出て、南西方面へと歩いていた。だがだれも荷車を持っていない。
 
「…………? なぁ。魔獣を仕留めても、どうやって町まで死体を持ち帰るんだ?」
 
 ここに来た時。俺は初日、がんばって担いで帰った。2日目から荷車を借りて魔獣を狩っていたのだ。
 
 俺の言葉を聞いて、ルシアはハァと溜息を吐いた。
 
「どうやら本当にルーキーのようね。その程度の情報しか持っていないのに、よくこの地へ来たものだわ」

「まぁまぁ、マスター。だからこそラングのおやっさんが俺たちにつけたんでしょう」
 
 どうやら俺の質問は、素人しかしない類のものだったらしい。

 いや、仕方ねぇだろ!? 実際なにも知らないんだし! そもそも俺からすれば、おかしいのはこの星の方なんだって!
 
「魔獣を狩ったらわかるわ。……それより。あなたたちはどういう関係なの? どこの大陸から来たのかしら?」

「ああ、それは……」
 
 ノウルクレート王国から来たぜ! 俺たちは四聖剣を探して旅する仲間なんだ! 

 ……的なことを適当に言おうかと思ったが、ここで口を開いたのはアハトだった。
 
「フ……。ファルクのマスターともあろう者が、ずいぶんと無粋な質問をするものですね」

「え……!?」

「この地に来た者の過去をわざわざ掘り返そうというのです。それこそ今日1日だけの付き合いなのにも関わらず。我らは互いに深く事情を聞かない。その暗黙の了解が通じているものだと思っていたのですけれどね……?」

「………………!」
 
 まためちゃくちゃえらそうなことをおっしゃってらっしゃる……! そしてなぜだかかっこいい……!
 
 だが言われてみればそうだ。この魔獣大陸……とくに外大陸との玄関口となっている港町〈マルセバーン〉には、毎日いろんなわけありの者たちが乗り込んでくる。中には過去を聞かれたくない者もいるだろう。
 
 そしてここは冒険者が中心となって経済が回る、特殊な隔離地域。彼らに必要なのは実績と評判であり、過去は関係ない。

 魔獣大陸に来たばかりの俺たちの過去を探ろうというのは、たしかに無粋に思えるな。
 
(そういやリュインが言っていたな。アハトは見た目からして貴族っぽいって。そんな奴がここにいる理由なんて、たしかに聞くだけ野暮ってもんか)
 
 実際は貴族じゃねぇけど。あと俺の方がぜったい貴族っぽいけど。つかリアル名門大貴族様だけど!
 
「マスター。いまのはアハトさんの言うとおりだ」

「そ……そうね。ごめんなさい。ファルクのマスターとして、正式に謝罪するわ」

「受け入れましょう」
 
 アハトからしても、普通に答えても問題ない質問だったと思うんだがなぁ……。

 たぶんああいう答え方をした方が、かっこいいし気持ちよかったのだろう。いまもすっげぇ得意げな顔してるし。
 
(でもおかげで、なんで3人だけでファルクが結成できたのかも聞きにくくなった……!)
 
 実はここがずっと気になっていた。ラングの話だと、ファルクを結成できるのは実績のある冒険者のみ。そしてある一定以上の規模でなければならない。
 
 ルシアちゃんは見た目も幼いし、経験豊富な冒険者という感じではない。仮に有名な冒険者だったとしても、やはり3人だけで結成できるとは思えない。
 
(キーになっているのは、たぶんルシアちゃん本人だろうな……。ラングも意味深なことを言っていたし)
 
 いい意味でもわるい意味でも、冒険者に注目されている……と。確実にワケありだろう。そしてたぶんアハトは、ここに面白そうな要素を嗅ぎ取った。
 
 ……まぁどうせ時間はあるし。俺自身、やりたいことを探している最中だしな。
 
「そうだ、教えてほしいことがあるんだ」

「……なにかしら?」

「四聖剣って知ってる? ほら、2000年前に魔人王を封じたとかなんとかの……」
 
 あれ? 封じたんだっけ? 魔人王と戦った〈フェルン〉が持っていただけだったか?
 
 まぁギルンと似たような反応をされるだろうな……と思っていたが、ルシアちゃんたちからは意外な反応が返っていた。
 
「まさか……あなたたちも……?」

「おとぎ話に言われている聖剣を探しているのか……?」

「…………うん?」
 
 思っていた反応とちがうな。ここで前に出てきたのはリュインだ。
 
「そうよ! なにを隠そう、わたしたちは四聖剣探しの旅をしているの!」

「結局言うんかい」
 
 アハトがかっこよく締めたのに……!
 
「〈フェルン〉……そうか。やっぱり〈フェルン〉は四聖剣を探すものなのか?」

「ん? どういう意味だ?」

「ああ……ここには来たばかりだから知らないのか。魔獣大陸で四聖剣を探している〈フェルン〉はもう一人いるんだ」

「えぇ!? わたし以外の〈フェルン〉で、そんなのがいるの!?」
 
 こりゃ驚きだ。そんな奇特な妖精なんざ、リュインくらいかと思っていたぜ。つかそもそも存在しているかもあやしいけど。
 
 だがこの話ぶりからして、有名人なのだろう。ルシアちゃんはレッドの言葉を引き継ぐ。
 
「最高ランクのファルク、その一角。フェルンがマスターを務めている〈アリアシアファミリー〉。そのマスターであるアリアシアよ」
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