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アハトさんは教え諭したい。

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 ギルンを含め、俺たちの視線がハルトに集中する。それを受けて、ハルトはハッと表情を変えた。
 
「ギルンさん。すまないが、アハト殿たちと話させてくれ」

「あ……ああ……」
 
 ここでギルンは退室する。まぁ扉も壊れて半開きだし、だれかに聞かれているかもだけど。
 
 あらためて部屋に残ったハルトに視線を向ける。
 
「んで? なんだって俺たちについてきたいんだ?」

「………………。その前に……すこし俺の過去を聞いてくれないか……?」

「過去ぉ?」
 
 急にハルトの自分語りがはじまった。それによると彼は、異国の離れ小島出身らしい。

 なんでもそこは高名な剣士を数多く輩出している島らしく、どこの国でもちょっとは名が知れているとか。
 
「シロムカ島の剣士、ねぇ……?」

「ああ。……聞いたことがないのか?」

「しらん。はじめて聞いた」

「そ……そうか……」
 
 その島に生まれた者は、男女問わず剣の修練を積むようだ。ハルトも幼い頃から己を鍛え続けてきた。
 
「さっき話に出てきたが……2000年前にこの世界を荒らした魔人王。シロムカ島には、7つに分かれた魔人王の力、その一つが封じられていたんだ」

「………………え?」
 
 おとぎ話かと思っていたが、シロムカ島には魔人王の伝承が伝わっているらしい。それによると2000年前、魔人王は7つに裂かれた上で各地に封印されたそうだ。
 
「島には神殿があった。その神殿の奥には魔人王を封じていた聖域がある。そこに設置されていたカタナが、封印の要だったんだ」
 
 すっげぇファンタジーしてきた……! アハトもあからさまに興味を示している。そんなアハトの視線を気にしつつも、ハルトは説明を続けてくれた。
 
 なんでもハルトが15才のとき、島で祭りがあったらしい。そこで妹が魔人王の封印を解き、設置されていた刀も持ち出したのだとか。

 さらに妹は、島の住人を幾人も殺していったそうだ。
 
「え、まじで!?」

「ああ、まじだ。俺の親も友も、その時に妹に殺された。俺自身も妹に斬られ、重傷を負って生死の境をさまよったよ……」
 
 そう言うとハルトは胸元をはだけさせる。彼の上半身には、ななめに斬られた傷痕があった。
 
「どうして妹があんなことをしたのか、それはわからない。だがあいつはその後、とある組織に所属したことがわかった」

「とある組織……?」

「各地にある魔人王の封印を解いている組織。玖聖会だ」
 
 ハルトはその後、17才のときに島を出たらしい。それからずっと妹の足取りを追っていたそうだ。

 そして今から2年前、ハルトが27歳の時。12年ぶりに妹と対峙した。
 
「親や友の仇だ。実の妹とはいえ、俺は殺す気だった。だが……妹の姿は、あの日からまったく変わっていなかったんだ」
 
 事件を起こしたとき、妹は12才だったらしい。本来であれば24歳になっているはずなのに、その姿は子供のときのままだった。
 
 なにそれすげぇ。魔人王式のアンチエイジングだろうか。まぁ俺も12年程度なら、見た目はぜんぜん変わらないけど。
 
 しかしハルトはその妹に対し、惨敗した。そして王都に流れてきて今に至るというわけだ。
 
「ふーん。まぁハードな人生を送ってきているのはわかったけどよぉ。それでなんで俺たちについてくるって話になるんだ?」

「……正直に言う。一度は復讐を諦めたが……俺はやはり強くなりたい。人の身でも魔人王の力を超えられるのだと、その可能性をアハト殿が示してくれたからだ」
 
 そう言うとハルトはアハトに熱い視線を向ける。

 いや……残念ながらアハトは、人の身というにはなかなか微妙なところだが。
 
 しかしここでテンションの上がったアハトが口を開いた。
 
「なるほど。要するに強くなって妹を見返したいのですね」

「み、見返す……」
 
 そう聞くと一気に小さく聞こえるな! ハルトは妹を殺す気満々だったけど! 
 
「ですがそれなら、わたしたちについてくる意味はありません」

「…………! な、なぜだ……!?」

「ついてきたところで、あなたがわたし並に強くなれることなどあり得ないからです」

「………………っ!」
 
 すっげぇえらそう! 超が10個はつくくらいに上から目線じゃん! 
 
「ですがその魔人王の話には興味があります。そうですね……もし玖聖会と再び戦うことがあるのなら。力を貸すくらいは検討しましょう」

「ほ……ほんとうか……!? なにも見返りはないのに……!?」
 
 ああ……アハトがなにを考えているのかわかってしまう。

 こいつあれだ。その強者を相手に「ん? わたし、なにかやっちゃいましたか?」ムーブがしたいだけだ……!
 
 相手はハルト以上の強者だって話だし。そういう奴を相手に、絶対的な強さで無自覚に己の強さを見せつける……というシチュエーションを想定しているのだろう。
 
 ここで口を挟んできたのはリュインだった。
 
「ねぇねぇ! その封印に使われていた剣ってさぁ! もしかして……四聖剣なんじゃないの!?」

「いや……それはわからない。すくなくとも聖剣だとかいう話は聞いたことなかったが……」

「えー!? ぜったいそうだって! ねぇねぇ! もしわたしたちが妹さんを倒したら、その剣ちょうだい!」
 
 なんでわたしたち、て自信満々に言えるんだ……。お前、戦闘で役に立ったことなんて一度もねぇぞ……。
 
「つか四聖剣ってのは、〈フェルン〉が使用していたんだろ? サイズがちがうくないか?」

「そんなのわかんないじゃん! もしかしたら使い手によって大きさが変わるかもしれないでしょ?」

「いや……この世には質量保存の法則というものがあってだな……」
 
 だがこんなファンタジーな世界だし。いよいよあやしい魔人王とかいうのも出てきたし。案外ありうる話なのか……?
 
「玖聖会がどこにいるのか。それはわからないのですか?」

「ああ。一般的に名前も知られていないような組織だ」

「そうですか……まぁいいでしょう。ではハルト。今後、玖聖会についてなにか情報があったら、わたしたちに知らせてください」
 
 どうやらアハトの中では、ハルトを連れて行くという選択肢はないようだ。

 まぁ移動速度も遅くなるしな。サクサク魔獣大陸を目指す身からすれば、ハルトはお荷物にしかならない。
 
「だがあんたらは魔獣大陸に渡るんだろう? 次に王都に来るのはいつになるんだ?」
 
 ハルトはまだ未練があるのか、ついてきたそうにしている。これに答えたのはリュインだった。
 
「それなら大丈夫よ! わたしたち、その気になればあっという間に王都に来れるから!」

「そう……なのか……?」

「あー、まぁそんな感じだ」
 
 転送装置のことはうまく説明できないしなぁ……。そもそもあんまり話したいことでもないけど。
 
「とりあえずそんな感じでよろしく頼むわ。これからもちょいちょい顔を見せにくるからよ。そのときになにか面白い話があれば聞かせてくれ」

「あ……ああ……」
 
 どうやら諦めたようだ。ここでアハトは頷きを見せた。
 
「ハルト。あなたの剣……迷いがありました」

「………………っ! あ、アハト殿……! それは……!」

「さて……妹との因縁が剣に現れていたのかはわかりませんが。いずれにせよまだ発展途上だというのはわかります。今しばらくこの地で励みなさい。そして己に恥じない剣を……まっすぐな思いをその身で示すのです。次に会ったとき、見込みがありそうなら……稽古の相手をしてあげましょう」
 
 いや、なに言ってんの!? いまどういうムーブ!? 

 トラウマ持ちに「迷いがある」て言っても、まぁそりゃそうだわとしかならんわ! 思い当たる節しかねぇんだもん!
 
「アハト殿……! こ、こんな俺を……ずいぶんと歪んでしまった太刀筋を、それでもまだ成長の余地があると……! そう、認めてくれるのか……!」
 
 アハトはいつもどおり無表情で頷いている。だがその胸中はいま、ウッキウキにちがいない。
 
「わかった……! 俺は今一度、己を見直す……! そして今度こそ、俺自身と……アハト殿に恥じない生き方をする! ああ、完全に目は覚めた……! もう迷いはない! 俺は……剣に生きる……っ!」
 
 だいじょうぶ、これ!? 人生壊してない!? 俺知らねぇよ!?
 
「フ……これが敗者を教え諭す主人公の気持ちですか……いいですね……」
 
 ボソッとアハトさんが呟く。こいつ、ここがファンタジーな世界だとわかってから、性格が歪んでやがんな……。
 
(だが気になる話ではあったな。2000年前の魔人王……7つの封印に、12才のときから身体の成長が止まった少女か……)
 
 こうなると四聖剣はまだマユツバだが、魔人王はなにかあるかもしれない。なにせ実際に暗躍している玖聖会とかいう組織があるらしいし。
 
 これからの旅に関わってくるのかはわからねぇが。ま、アハトさんが楽しそうにしているのならそれでいいか。
 
 その後、俺たちはギルンに港町までの地図をもらう。そしてさっさと王都を出たのだった。
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