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羽場真邸襲撃! 南方狼十郎と近石剛太
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俺は大通りを真っすぐに歩き、敵の本拠地となった領主邸を目指す。中には敵側についた皇国軍兵士……平民もいるという話だった。
(この世界の生命の調和、か……)
改めてこの言葉の意味を考えてみる。きっと大精霊も、確たる答えを持っていない問いかけ。だが俺は生きている限り、これに向き合わなければならない。
(人であれ幻獣であれ、敵であれば殺す。そうしなくては、死ぬのは自分だからだ。それはあの魔境でいやというほど思い知らされている。だが皇国軍兵士はどうだ? そいつらに俺を殺す力はあるのか?)
有るか無いかで言えば、おそらく有る。どんな相手であれ、意思さえあれば人は立ち向かえるのだ。では例えば。
「おい、なんだ貴様は!?」
「その刀……! 武人か!?」
目の前のこいつらはどうだ? この反乱を成し遂げるという強い意思があったとして、俺に勝てる相手なのか?
「ここに近石剛太、それに栄六とやらがいるんだな? 我が刀の錆びにしてくれよう」
そう言うと俺は刀を抜き放つ。明確な敵対行為。ここまでされては、放っておく事はできないだろう。屋敷を守る元皇国軍兵士たちは槍を構える。
「おのれ!」
俺の行為は、生命の調和とやらを乱す事にならないのだろうか。第三の契約は、呪いの様に思考する事をやめさせない。
だがそんな俺の気持ちとは別に、身体はごく自然な動作で槍を避け、兵士を斬り伏せる。それを見た他の兵士たちが叫ぶ。
「敵襲、敵襲ーっ! 武人の襲撃だー!」
中からわらわらと人が出てくる。これらを難なく斬り伏せていくと、やがて途中で腰が引けている奴らが出始めた。わざわざ戦意を失った奴まで、追って斬ろうとはさすがに思えない。
「どけ、てめぇら。武人が乗り込んできたってぇ? 面白れぇ! 俺が相手してやる! 丁度退屈していたんだ!」
続いて出てきたのは、人の姿を捨てた妖だった。全員パスカエルの作った黒い杭が心臓に刺さっている。野郎の残滓を感じ取り、気分が悪くなる。そんな妖が二匹。
「おいおい。たった二匹で俺を止められるつもりか?」
「……なんだと?」
「面倒だ。全員出せ。どうせ束になっても俺には勝てん」
調和とやらがどういったものであれ。こいつらは取り除いておかねばならないだろう。
■
理玖が領主邸前で暴れ始め、しばらくしてから狼十郎たちは裏手の塀を登って屋敷に忍び込んだ。屋敷には何度か入った事があるため、狼十郎は迷いなく中を突き進む。
理玖が相当派手に暴れてくれているのか、幸い屋敷の中は喧噪に包まれているものの、主だった妖たちの姿は見えなかった。
「狼さん。妖どもは全員理玖につられて出払ったのでしょうか……」
「かもな。元々南方家で四人仕留めているんだ。まさか二十三十も控えていることもないだろう」
そうして目指すは屋敷の最奥。勢いよく障子を開けると、そこには霊影会の栄六、それに皇国七将の一人、近石剛太がいた。
「む……?」
「ほう。これはこれは。随分と懐かしい顔だ」
二人は立ち上がり、狼十郎たちに視線を向ける。栄六も油断する事なく、戦槍を持ち上げた。
「剛太殿。知っている顔か?」
「ああ。俺と同じ皇国七将の一人、南方虎五郎。その弟の狼十郎だ」
「南方家の……。まだ斗真以外に残っていたのか」
「いや。その男は毛呂山領の武叡頭。大方、羽場真領の危機を聞きつけ、ここまで来たのだろう」
「そういえば毛呂山領の武叡頭がそういう名であったな」
剛太は加古助よりもいくらか若い。だが加古助とは違い、冷静な態度を崩さなかった。
「ひょっとして表の騒ぎは、お前の手によるものか?」
「言わなくてもわかるだろ? 近石剛太、並びに血風の栄六。皇国への反逆、その身であがなってもらう」
狼十郎、京三は刀を抜き、翼も術の準備に入る。栄六は警戒心を強くするが、剛太はなおも焦った様子を見せなかった。
「まぁ待て。互いに誤解があるようだ。酒でも飲んで話さんか」
「悪いけど酒は断っていてね」
「武人とは思えん発言だな。いや、お前のそういうところは伝え聞いてはいたが。……お前は今の皇国に疑問を持たぬのか?」
問いかける剛太に対し、どうするかと狼十郎は考える。ここで時を稼いだ場合、得があるのはどちらかと考え、あえて話に乗る事にする。
「さて、ね。あんたが皇国をどう思っていようが、今までその力を用いて人を、国を治めてきたのは事実だ」
「だが長く変わる事のない支配体制は、身内に膿を生み出した。変わらぬ既得権益、利権問題。我等武人に身近なところで言えば、楓衆や破術士との関係。そして600年の永きに渡り、皇国軍内部で根を張る一族」
「話の規模がでかいねぇ。そういうのも含めて皇国だろう」
「武人という世界から一歩引いておるお前らしい意見だ。だが多くの者は、この柵の中で生きている。そもそも破術士と我等、大きな違いなど何もない。元をたどれば、同じ初代皇王に連なるのだから」
剛太の言う事も分からないでもない。だがこの問題は剛太だけで収められる様なものでもない。事は皇国の体制にも関わる話だからだ。
「随分難しい事を考えながら武人をやってんだなぁ。宮仕えじゃなくてつくづく良かったと思うよ」
「お前は知らぬであろうがな。霊影会の長、五陵坊。あいつが楓衆に居た頃、皇国は今より輝いていた。武家に生まれた身ではあるが、五陵坊と力を合わせれば、いかな困難にも立ち向かえると信じていた」
どうやら五陵坊とは、以前からの知り合いらしいと気付く。今回の争乱には多くの楓衆も加わっていると聞いている。五陵坊が未だに皇国内でこれほどの影響力を持っていようとはと、狼十郎は驚きとともに目を細めた。
「しかしあろう事か、本堂めは自らの欲のため、五陵坊を策で弄した。自らの子である五陵坊を」
「……なんだって?」
「そして本妻の子、桃迅丸を皇国七将の位に就けた。自らの過ちで生まれた子を平気で売れる奴が、今も将軍職に就いているのだ。楓衆だった頃、五陵坊が皇国のためにどれだけ尽くしてきたか……!」
剛太の言う事がどこまで本当の事なのかは分からない。だがその怒りは本物だと感じた。
「要するに。知り合いが濡れ衣を着せられ、着せた方が親子そろって将軍の地位にいる事が気に入らない訳だ」
「そうだ。そしてそれを許す今の皇国もな。俺は何も皇族を根絶やしにし、自分たちがそれにとって代わろうというのではない。五陵坊もそこの考えは同じだ」
「……ならお前さんたちの望みはなんだ?」
「皇族にはそのままいてもらう。その血は貴重だからな。だが政治からは距離を置いてもらう。新たな体制構築までは多くの時が必要になるだろう。しかし次に生まれる皇国は、力持つ者が正しく評価される。そんな国になるはずだ」
おそらく五陵坊との個人的な繋がりも、剛太の思考に関係しているのだろう。だが今の皇国に不満を持つ者であれば、この新しい皇国というのは魅力的に聞こえるだろうと思えた。しかし。
「結局皇族の位置に自分たちが納まろうというだけに聞こえるね」
「だが長い治世において、生まれた膿は出しきる事ができる。狼十郎。お前にも新たな皇国のため、その力を貸してもらいたい。いつまでも辺境暮らしは嫌だろう?」
「はは……。まぁ魅力的な提案には聞こえるさ」
「狼さん!?」
剛太はニヤリと口角を上げる。だが狼十郎は首を横に振った。
「昔の俺ならな。だが今の俺は毛呂山領にも、そこの武叡頭である事にも何の不満もない。むしろ居心地が良いくらいだ。そしてやっぱりあんたの言い分は信用できない」
「……ほう?」
「どう取り繕おうが、やろうとしている事は皇族にとって代わる以外の何でもない。新しい治世でも相変わらずあんたの言うところの膿とやらが生まれるだろうよ。霊力持ちとそれ以外という明確な線引きがある以上、ある程度は受け入れて考えるべきだろう。もちろんその狭間にいる者たちについては、考えなければならない事はあるだろうが。しかしそれなら、そういう声を下からあげればいい」
「上が聞くと思うか?」
「そうして聞いてもらえるはずがないと鼻から諦め、暴力という手段を取った時点で信用できないってんだ。第一、肝心な事が抜けている」
「なに……?」
「霊影会は既に何度も犯罪行為を犯している。俺は毛呂山領の武叡頭だ。過去には領都で騒ぎを起こされた事もある。つまり俺にとっちゃ、霊影会というのは因縁の相手だ。それに……」
狼十郎は今も外で戦っているであろう理玖の事を考える。偕の兄で清香たちの幼馴染み。そして霊力を持たないにも関わらず、武人とは一線を画す武を見せた男。
初めて会った時から、理玖は自分たちを武人だと理解した上でなお態度を崩さなかった。並の意思の強さではない。
それは自らの武に裏打ちされたものなのか、それとも意思が強かったからこそ得た武なのか。だが今大事なのはそこではない。
「ここで寝返っても、負けが確定している勢力だ。そんな奴に味方するほど時勢が読めていないようじゃ、武叡頭は務まらないってね」
「我等の負けが確定していると申したか」
「世の中広いって知ったばかりでねぇ。近石剛太。この乱の失敗は確定しているよ」
そう言うと狼十郎は静かに刀を構えた。羽場真領ではここが正念場になるだろう。本気を出すのに相応しい舞台だ。剛太は諦めた様に首を横に振った。
「残念だ、南方狼十郎。お前は兄とは違うと思っていたが」
「京三、翼! お前たちは栄六を頼む!」
「はっ!」
「わかったわ!」
狼十郎の刀の刀身が光り輝く。皇族より賜りし神秘の刀。その御力が開放される。
「神徹刀、久保桜。御力解放。ここからは本気でやらせてもらおうか」
「愚かな。こちらには……」
「加古助なら来ないぜ。詩芽ちゃんも救い出した。第一、幼子を人質にとっている時点で、お前が何と言おうとその言葉に説得力なんてない」
「加古助が……? どうやらお前を侮っていたようだ。俺も本気を出そう。栄六、頼めるか」
「ああ」
栄六は戦槍を構え、霊力を高める。同時に剛太も刀を抜いた。
「神徹刀、御力開放。絶刀・倭小槌」
剛太の神徹刀、倭小槌の御力は絶刀。神徹刀によって向上した身体能力が、さらに大きく上昇する。
「……! 厄介な能力を持ってやがんな……!」
「どうやらお前は絶刀ではないようだな。果たして今の俺を斬れるか、狼十郎!」
羽場真邸。そこの一室で、羽場真領の行く先を決める戦いの火蓋が切って落とされる。
(この世界の生命の調和、か……)
改めてこの言葉の意味を考えてみる。きっと大精霊も、確たる答えを持っていない問いかけ。だが俺は生きている限り、これに向き合わなければならない。
(人であれ幻獣であれ、敵であれば殺す。そうしなくては、死ぬのは自分だからだ。それはあの魔境でいやというほど思い知らされている。だが皇国軍兵士はどうだ? そいつらに俺を殺す力はあるのか?)
有るか無いかで言えば、おそらく有る。どんな相手であれ、意思さえあれば人は立ち向かえるのだ。では例えば。
「おい、なんだ貴様は!?」
「その刀……! 武人か!?」
目の前のこいつらはどうだ? この反乱を成し遂げるという強い意思があったとして、俺に勝てる相手なのか?
「ここに近石剛太、それに栄六とやらがいるんだな? 我が刀の錆びにしてくれよう」
そう言うと俺は刀を抜き放つ。明確な敵対行為。ここまでされては、放っておく事はできないだろう。屋敷を守る元皇国軍兵士たちは槍を構える。
「おのれ!」
俺の行為は、生命の調和とやらを乱す事にならないのだろうか。第三の契約は、呪いの様に思考する事をやめさせない。
だがそんな俺の気持ちとは別に、身体はごく自然な動作で槍を避け、兵士を斬り伏せる。それを見た他の兵士たちが叫ぶ。
「敵襲、敵襲ーっ! 武人の襲撃だー!」
中からわらわらと人が出てくる。これらを難なく斬り伏せていくと、やがて途中で腰が引けている奴らが出始めた。わざわざ戦意を失った奴まで、追って斬ろうとはさすがに思えない。
「どけ、てめぇら。武人が乗り込んできたってぇ? 面白れぇ! 俺が相手してやる! 丁度退屈していたんだ!」
続いて出てきたのは、人の姿を捨てた妖だった。全員パスカエルの作った黒い杭が心臓に刺さっている。野郎の残滓を感じ取り、気分が悪くなる。そんな妖が二匹。
「おいおい。たった二匹で俺を止められるつもりか?」
「……なんだと?」
「面倒だ。全員出せ。どうせ束になっても俺には勝てん」
調和とやらがどういったものであれ。こいつらは取り除いておかねばならないだろう。
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理玖が領主邸前で暴れ始め、しばらくしてから狼十郎たちは裏手の塀を登って屋敷に忍び込んだ。屋敷には何度か入った事があるため、狼十郎は迷いなく中を突き進む。
理玖が相当派手に暴れてくれているのか、幸い屋敷の中は喧噪に包まれているものの、主だった妖たちの姿は見えなかった。
「狼さん。妖どもは全員理玖につられて出払ったのでしょうか……」
「かもな。元々南方家で四人仕留めているんだ。まさか二十三十も控えていることもないだろう」
そうして目指すは屋敷の最奥。勢いよく障子を開けると、そこには霊影会の栄六、それに皇国七将の一人、近石剛太がいた。
「む……?」
「ほう。これはこれは。随分と懐かしい顔だ」
二人は立ち上がり、狼十郎たちに視線を向ける。栄六も油断する事なく、戦槍を持ち上げた。
「剛太殿。知っている顔か?」
「ああ。俺と同じ皇国七将の一人、南方虎五郎。その弟の狼十郎だ」
「南方家の……。まだ斗真以外に残っていたのか」
「いや。その男は毛呂山領の武叡頭。大方、羽場真領の危機を聞きつけ、ここまで来たのだろう」
「そういえば毛呂山領の武叡頭がそういう名であったな」
剛太は加古助よりもいくらか若い。だが加古助とは違い、冷静な態度を崩さなかった。
「ひょっとして表の騒ぎは、お前の手によるものか?」
「言わなくてもわかるだろ? 近石剛太、並びに血風の栄六。皇国への反逆、その身であがなってもらう」
狼十郎、京三は刀を抜き、翼も術の準備に入る。栄六は警戒心を強くするが、剛太はなおも焦った様子を見せなかった。
「まぁ待て。互いに誤解があるようだ。酒でも飲んで話さんか」
「悪いけど酒は断っていてね」
「武人とは思えん発言だな。いや、お前のそういうところは伝え聞いてはいたが。……お前は今の皇国に疑問を持たぬのか?」
問いかける剛太に対し、どうするかと狼十郎は考える。ここで時を稼いだ場合、得があるのはどちらかと考え、あえて話に乗る事にする。
「さて、ね。あんたが皇国をどう思っていようが、今までその力を用いて人を、国を治めてきたのは事実だ」
「だが長く変わる事のない支配体制は、身内に膿を生み出した。変わらぬ既得権益、利権問題。我等武人に身近なところで言えば、楓衆や破術士との関係。そして600年の永きに渡り、皇国軍内部で根を張る一族」
「話の規模がでかいねぇ。そういうのも含めて皇国だろう」
「武人という世界から一歩引いておるお前らしい意見だ。だが多くの者は、この柵の中で生きている。そもそも破術士と我等、大きな違いなど何もない。元をたどれば、同じ初代皇王に連なるのだから」
剛太の言う事も分からないでもない。だがこの問題は剛太だけで収められる様なものでもない。事は皇国の体制にも関わる話だからだ。
「随分難しい事を考えながら武人をやってんだなぁ。宮仕えじゃなくてつくづく良かったと思うよ」
「お前は知らぬであろうがな。霊影会の長、五陵坊。あいつが楓衆に居た頃、皇国は今より輝いていた。武家に生まれた身ではあるが、五陵坊と力を合わせれば、いかな困難にも立ち向かえると信じていた」
どうやら五陵坊とは、以前からの知り合いらしいと気付く。今回の争乱には多くの楓衆も加わっていると聞いている。五陵坊が未だに皇国内でこれほどの影響力を持っていようとはと、狼十郎は驚きとともに目を細めた。
「しかしあろう事か、本堂めは自らの欲のため、五陵坊を策で弄した。自らの子である五陵坊を」
「……なんだって?」
「そして本妻の子、桃迅丸を皇国七将の位に就けた。自らの過ちで生まれた子を平気で売れる奴が、今も将軍職に就いているのだ。楓衆だった頃、五陵坊が皇国のためにどれだけ尽くしてきたか……!」
剛太の言う事がどこまで本当の事なのかは分からない。だがその怒りは本物だと感じた。
「要するに。知り合いが濡れ衣を着せられ、着せた方が親子そろって将軍の地位にいる事が気に入らない訳だ」
「そうだ。そしてそれを許す今の皇国もな。俺は何も皇族を根絶やしにし、自分たちがそれにとって代わろうというのではない。五陵坊もそこの考えは同じだ」
「……ならお前さんたちの望みはなんだ?」
「皇族にはそのままいてもらう。その血は貴重だからな。だが政治からは距離を置いてもらう。新たな体制構築までは多くの時が必要になるだろう。しかし次に生まれる皇国は、力持つ者が正しく評価される。そんな国になるはずだ」
おそらく五陵坊との個人的な繋がりも、剛太の思考に関係しているのだろう。だが今の皇国に不満を持つ者であれば、この新しい皇国というのは魅力的に聞こえるだろうと思えた。しかし。
「結局皇族の位置に自分たちが納まろうというだけに聞こえるね」
「だが長い治世において、生まれた膿は出しきる事ができる。狼十郎。お前にも新たな皇国のため、その力を貸してもらいたい。いつまでも辺境暮らしは嫌だろう?」
「はは……。まぁ魅力的な提案には聞こえるさ」
「狼さん!?」
剛太はニヤリと口角を上げる。だが狼十郎は首を横に振った。
「昔の俺ならな。だが今の俺は毛呂山領にも、そこの武叡頭である事にも何の不満もない。むしろ居心地が良いくらいだ。そしてやっぱりあんたの言い分は信用できない」
「……ほう?」
「どう取り繕おうが、やろうとしている事は皇族にとって代わる以外の何でもない。新しい治世でも相変わらずあんたの言うところの膿とやらが生まれるだろうよ。霊力持ちとそれ以外という明確な線引きがある以上、ある程度は受け入れて考えるべきだろう。もちろんその狭間にいる者たちについては、考えなければならない事はあるだろうが。しかしそれなら、そういう声を下からあげればいい」
「上が聞くと思うか?」
「そうして聞いてもらえるはずがないと鼻から諦め、暴力という手段を取った時点で信用できないってんだ。第一、肝心な事が抜けている」
「なに……?」
「霊影会は既に何度も犯罪行為を犯している。俺は毛呂山領の武叡頭だ。過去には領都で騒ぎを起こされた事もある。つまり俺にとっちゃ、霊影会というのは因縁の相手だ。それに……」
狼十郎は今も外で戦っているであろう理玖の事を考える。偕の兄で清香たちの幼馴染み。そして霊力を持たないにも関わらず、武人とは一線を画す武を見せた男。
初めて会った時から、理玖は自分たちを武人だと理解した上でなお態度を崩さなかった。並の意思の強さではない。
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「我等の負けが確定していると申したか」
「世の中広いって知ったばかりでねぇ。近石剛太。この乱の失敗は確定しているよ」
そう言うと狼十郎は静かに刀を構えた。羽場真領ではここが正念場になるだろう。本気を出すのに相応しい舞台だ。剛太は諦めた様に首を横に振った。
「残念だ、南方狼十郎。お前は兄とは違うと思っていたが」
「京三、翼! お前たちは栄六を頼む!」
「はっ!」
「わかったわ!」
狼十郎の刀の刀身が光り輝く。皇族より賜りし神秘の刀。その御力が開放される。
「神徹刀、久保桜。御力解放。ここからは本気でやらせてもらおうか」
「愚かな。こちらには……」
「加古助なら来ないぜ。詩芽ちゃんも救い出した。第一、幼子を人質にとっている時点で、お前が何と言おうとその言葉に説得力なんてない」
「加古助が……? どうやらお前を侮っていたようだ。俺も本気を出そう。栄六、頼めるか」
「ああ」
栄六は戦槍を構え、霊力を高める。同時に剛太も刀を抜いた。
「神徹刀、御力開放。絶刀・倭小槌」
剛太の神徹刀、倭小槌の御力は絶刀。神徹刀によって向上した身体能力が、さらに大きく上昇する。
「……! 厄介な能力を持ってやがんな……!」
「どうやらお前は絶刀ではないようだな。果たして今の俺を斬れるか、狼十郎!」
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