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進む術交流 七星皇国とガリアード帝国
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皇都に到着したヴィオルガ達は盛大な歓待を受けていた。
皇都に帝国の姫が来る事なんてそうは無い出来事だ。相応のもてなしが行われるのは当然と言える。これにはヴィオルガ自身、自分の立場や実力を考えると当然だと考えていた。
ある程度皇都の案内をしてもらった後は、いよいよ互いの術の違いについて意見を交わしていく。
当初は皇国の遅れた術体系にそこまで興味はもてなかったが、実際に意見交換を交わしていくと、いくつか目を見張る点があった。
「なるほど。相性さえよければ、他人にも自分の作成した符が使えるのね」
「……はい。自分が上手く発動できない術であっても、発動自体は可能になります」
「ただし精度や威力、術の発現の仕方も変わる、か」
「……はい。それを逆手に取った術もございます。例えば、各所に張られている符ですが、これには……」
話を聞くと、皇国の術は汎用性に富んでいる事が伺えた。また霊術を普段の生活に多用しているところにも目がいく。
純粋な戦闘面においては帝国魔術が勝るだろうが、皇国の術は多方面に活用されている。帝国ももちろん戦闘面以外にも魔術が使用されているが、比重や創意工夫という面では、皇国に分がある様に思えた。
「符にはある程度の汎用性があるのね。でもセプター程の出力は無いみたいだけど」
「……そうですね。その符もより強い力を持たせようと思えば、特殊な素材を必要とします。幻獣の血などですね」
「そこは帝国も同じね。優れた魔術具にはそれ相応の素材が必要だもの。例えば吸魔昌石なんかは……」
ヴィオルガが皇国に来て驚いたもう一つの事。それは今、目の前で話す皇国の姫。月御門万葉の存在だった。
自分よりも年下の少女だが、内に秘めている霊力はすさまじい。ひょっとしたら自分に迫るくらいはありそうだし、帝国のとある貴族の娘と比べても同等以上かもしれない。
(これほどの霊力をその身に宿しているなんて……。でも術自体は得意ではないようね。発動の精度を見ても、まるで最近覚え始めたって感じ)
そんな訳ないわよね、とヴィオルガは考える。月御門万葉といえば、数年前に帝国でも少し名の知れた少女になる。それは万葉の能力、未来視の力が話題になったからだ。
帝国の貴族にも時折そうした特殊な魔力を持つ者は生まれるが、未来視の力を持つ者はいない。見たい未来が視える訳ではないだろうが、それでもその力は素晴らしいものだ。
両国の意見交換はそれからもつつがなく行われていった。そしてヴィオルガは今日、武人の扱う霊力を見せてもらっていた。
「以上、お見せしたのが武人の扱う基礎にして奥義。金剛力に強硬身、絶影になります」
「へぇ! 噂に聞く皇国の武人、どんなものかと思ったけど! キヨカさんの見せてくれた技はどれも素晴らしいものね!」
「恐れ入ります。ですが帝国にも聖騎士という武人がおられると聞き及んでおります。おそらく似た様な技をご覧になられた事もあるのではないでしょうか」
清香の言葉に聖騎士達は僅かに身じろいだ。もちろん、聖騎士にも同じような力の使い方はある。だがその最大の特徴は身体能力の強化ではない。それを知ってか知らずか、ヴィオルガはごく平然と言葉を返す。
「そう言えば見た様な気もするわね。キヨカさんの技ほどの印象は残っていないけど。身体能力の向上具合で言えば、キヨカさんの方が優れているんじゃないかしら」
「ありがとうございます。ですが私自身、武人として修行中の身です。熟練の聖騎士殿達の域にはまだ達してはいないでしょう」
「まぁ。キヨカさんって謙虚なのね。私、武人って粗野な人が多いと思っていたのだけれど。キヨカさんみたいな女性の方もいるのね。なんだか思っていた印象と違ったわ」
もちろん清香は謙遜で言った訳ではない。自らの父、あるいは理玖の姿を思い出し、自分はまだ武人として未熟だと感じている。
だがヴィオルガは、清香が本気で謙遜していると捉えていた。
(最初に皇国行きが決まった時は正直気乗りしなかったけど。知らない術体系を見るのは思っていたより勉強になるわね。戦闘面で術を使用する点においては帝国側に分があるけど。武人と聖騎士では、やはり武人の方が強そうね)
そう考えていたのはフィアーナも同様だったのか、彼女は少し意地の悪い顔で後ろの聖騎士達を見る。
「……姫。よろしければ我が国の聖騎士の実力も、皇国のみなさんにご覧いただいては?」
「え……?」
「彼らも姫の中で、自分たちと武人が比較されているのではないかと思っているのでは。ここで姫の前で力を示したいと考えているのでは、と愚考した次第です」
「そうね……。レイハルト……はここにはいなかったわね。それじゃそこのあなた。聖騎士の技、披露してくれるかしら?」
指名されたのはたまたま近くにいた聖騎士だった。その聖騎士の名はマルクトア・バーライン。最近聖騎士になったばかりで、年の頃は万葉と同じくらいの少年である。
マルクトアは突然のヴィオルガからの指名に、たじろぎながらも姿勢を正して答える。
「は、はい! それでは、失礼させていただきます!」
ヴィオルガの命令に拒否権は無い。マルクトアは清香と同じく、魔力を用いて駆けながら設置された大木を斬っていく。
要所要所で身体能力も向上させ、素早い動きも織り交ぜる。防御力を向上させた身体で、人型の人形にも体当たりを行う。
その動きは第三者が見ても、よく訓練されている事が分かるくらい、洗練されたものであった。
皇国側からは僅かにほう、と声が洩れる。しかしそれはあくまで歳の割に良い動きだな、という程度。当然、近衛たる清香とは比べるべくもない。一連の動きを見てフィアーナは聖騎士に聞こえる様に呟く。
「ふぅん。まぁよく鍛えているのは分かるけど。皇国の武人の動きを見た後じゃあ、ね。ああ、姫は聖騎士が恥をかかない様に、あの様な少年を指名したのかしら?」
それなら年齢を言い訳に聖騎士全体の名誉は守られるものね、と付け加える。
たまたま少年の聖騎士だったから動きは武人に劣ったのだ、熟練の聖騎士であれば清香にも張り合える動きはできたさ、と後で言い訳し易いように。
そういう意図が込められたフィアーナの呟きに、何人かの聖騎士は薄く青筋を立てていた。
ヴィオルガにその様な意図はなかった。本当にたまたま近くにいた聖騎士を指名しただけだ。だがその動きを見て予想通りだったのか、ヴィオルガは特に驚きも感心もせず、マルクトアを呼んだ。
「名は?」
「は、はい。バーライン家が長男、マルクトア・バーラインと申します」
「そ。マルクトア、ご苦労様。下がっていいわ」
「はい、失礼いたします」
マルクトアが下がったところで清香が感想を述べる。
「聖騎士もやはり、武人と同じく身体能力の強化を技として昇華しているのですね」
「キヨカさんほどのものではなかったけれど。ごめんなさいね、あまり参考にならなかったでしょう?」
「いえ。武人に神徹刀がある様に、聖騎士にもここではお見せできない、特筆すべき奥義があるでしょう。今ので聖騎士の力の全てを見れたとは思っておりません」
「ふふ。キヨカさん、その様な気遣いは無用よ」
「……え?」
ヴィオルガは、自身より劣る動きを見せられた清香が帝国側に気を使っていると考えていた。実際、そんな事はないのだが。
「それよりキヨカさん。私、神徹刀についても話を聞きたいのだけれど」
「ええ、構いません。こちらもセプターについてご教授いただく予定なのです、神徹刀について答えられるものはお答えさせていただきます」
この日から数日は清香が中心になって意見交換が行われた。互いの国の武について話が進むが、その中で当然聖騎士の話も出てくる。
そこで聞く聖騎士の話はヴィオルガ自身、初めて知る事も多かった。中でも以外だったのは、聖騎士は身体能力の強化以外にも聖剣技という術を持っている事だった。
(自国の事なのに知らなかったわ。まぁ貴族院には聖騎士はいないし、こういう機会でもないと聖騎士と話す事自体がないものね。でも聖剣技というのは特筆性が高いわ。これだけの技術をこれまで眠らせていたなんて)
ヴィオルガはいかに帝国が魔術偏重の国だったのかを、本当の意味で初めて自覚した。そしてこの聖剣技、聖騎士の技だからと活用しないのはもったいないと意識する。
(聖騎士自体を、もっと大々的に帝国の武の象徴として打ち出してもいいかもしれないわね。帝国に帰ったら皇帝陛下とこの件で何かできないか、話し合いましょう)
互いの国の術体系を学ぶ交流において、ヴィオルガら皮肉にも自国の術について改めて学ぶ事になった。そしてこの事は、王女として恥ずかしい事であると考えていた。
皇都に帝国の姫が来る事なんてそうは無い出来事だ。相応のもてなしが行われるのは当然と言える。これにはヴィオルガ自身、自分の立場や実力を考えると当然だと考えていた。
ある程度皇都の案内をしてもらった後は、いよいよ互いの術の違いについて意見を交わしていく。
当初は皇国の遅れた術体系にそこまで興味はもてなかったが、実際に意見交換を交わしていくと、いくつか目を見張る点があった。
「なるほど。相性さえよければ、他人にも自分の作成した符が使えるのね」
「……はい。自分が上手く発動できない術であっても、発動自体は可能になります」
「ただし精度や威力、術の発現の仕方も変わる、か」
「……はい。それを逆手に取った術もございます。例えば、各所に張られている符ですが、これには……」
話を聞くと、皇国の術は汎用性に富んでいる事が伺えた。また霊術を普段の生活に多用しているところにも目がいく。
純粋な戦闘面においては帝国魔術が勝るだろうが、皇国の術は多方面に活用されている。帝国ももちろん戦闘面以外にも魔術が使用されているが、比重や創意工夫という面では、皇国に分がある様に思えた。
「符にはある程度の汎用性があるのね。でもセプター程の出力は無いみたいだけど」
「……そうですね。その符もより強い力を持たせようと思えば、特殊な素材を必要とします。幻獣の血などですね」
「そこは帝国も同じね。優れた魔術具にはそれ相応の素材が必要だもの。例えば吸魔昌石なんかは……」
ヴィオルガが皇国に来て驚いたもう一つの事。それは今、目の前で話す皇国の姫。月御門万葉の存在だった。
自分よりも年下の少女だが、内に秘めている霊力はすさまじい。ひょっとしたら自分に迫るくらいはありそうだし、帝国のとある貴族の娘と比べても同等以上かもしれない。
(これほどの霊力をその身に宿しているなんて……。でも術自体は得意ではないようね。発動の精度を見ても、まるで最近覚え始めたって感じ)
そんな訳ないわよね、とヴィオルガは考える。月御門万葉といえば、数年前に帝国でも少し名の知れた少女になる。それは万葉の能力、未来視の力が話題になったからだ。
帝国の貴族にも時折そうした特殊な魔力を持つ者は生まれるが、未来視の力を持つ者はいない。見たい未来が視える訳ではないだろうが、それでもその力は素晴らしいものだ。
両国の意見交換はそれからもつつがなく行われていった。そしてヴィオルガは今日、武人の扱う霊力を見せてもらっていた。
「以上、お見せしたのが武人の扱う基礎にして奥義。金剛力に強硬身、絶影になります」
「へぇ! 噂に聞く皇国の武人、どんなものかと思ったけど! キヨカさんの見せてくれた技はどれも素晴らしいものね!」
「恐れ入ります。ですが帝国にも聖騎士という武人がおられると聞き及んでおります。おそらく似た様な技をご覧になられた事もあるのではないでしょうか」
清香の言葉に聖騎士達は僅かに身じろいだ。もちろん、聖騎士にも同じような力の使い方はある。だがその最大の特徴は身体能力の強化ではない。それを知ってか知らずか、ヴィオルガはごく平然と言葉を返す。
「そう言えば見た様な気もするわね。キヨカさんの技ほどの印象は残っていないけど。身体能力の向上具合で言えば、キヨカさんの方が優れているんじゃないかしら」
「ありがとうございます。ですが私自身、武人として修行中の身です。熟練の聖騎士殿達の域にはまだ達してはいないでしょう」
「まぁ。キヨカさんって謙虚なのね。私、武人って粗野な人が多いと思っていたのだけれど。キヨカさんみたいな女性の方もいるのね。なんだか思っていた印象と違ったわ」
もちろん清香は謙遜で言った訳ではない。自らの父、あるいは理玖の姿を思い出し、自分はまだ武人として未熟だと感じている。
だがヴィオルガは、清香が本気で謙遜していると捉えていた。
(最初に皇国行きが決まった時は正直気乗りしなかったけど。知らない術体系を見るのは思っていたより勉強になるわね。戦闘面で術を使用する点においては帝国側に分があるけど。武人と聖騎士では、やはり武人の方が強そうね)
そう考えていたのはフィアーナも同様だったのか、彼女は少し意地の悪い顔で後ろの聖騎士達を見る。
「……姫。よろしければ我が国の聖騎士の実力も、皇国のみなさんにご覧いただいては?」
「え……?」
「彼らも姫の中で、自分たちと武人が比較されているのではないかと思っているのでは。ここで姫の前で力を示したいと考えているのでは、と愚考した次第です」
「そうね……。レイハルト……はここにはいなかったわね。それじゃそこのあなた。聖騎士の技、披露してくれるかしら?」
指名されたのはたまたま近くにいた聖騎士だった。その聖騎士の名はマルクトア・バーライン。最近聖騎士になったばかりで、年の頃は万葉と同じくらいの少年である。
マルクトアは突然のヴィオルガからの指名に、たじろぎながらも姿勢を正して答える。
「は、はい! それでは、失礼させていただきます!」
ヴィオルガの命令に拒否権は無い。マルクトアは清香と同じく、魔力を用いて駆けながら設置された大木を斬っていく。
要所要所で身体能力も向上させ、素早い動きも織り交ぜる。防御力を向上させた身体で、人型の人形にも体当たりを行う。
その動きは第三者が見ても、よく訓練されている事が分かるくらい、洗練されたものであった。
皇国側からは僅かにほう、と声が洩れる。しかしそれはあくまで歳の割に良い動きだな、という程度。当然、近衛たる清香とは比べるべくもない。一連の動きを見てフィアーナは聖騎士に聞こえる様に呟く。
「ふぅん。まぁよく鍛えているのは分かるけど。皇国の武人の動きを見た後じゃあ、ね。ああ、姫は聖騎士が恥をかかない様に、あの様な少年を指名したのかしら?」
それなら年齢を言い訳に聖騎士全体の名誉は守られるものね、と付け加える。
たまたま少年の聖騎士だったから動きは武人に劣ったのだ、熟練の聖騎士であれば清香にも張り合える動きはできたさ、と後で言い訳し易いように。
そういう意図が込められたフィアーナの呟きに、何人かの聖騎士は薄く青筋を立てていた。
ヴィオルガにその様な意図はなかった。本当にたまたま近くにいた聖騎士を指名しただけだ。だがその動きを見て予想通りだったのか、ヴィオルガは特に驚きも感心もせず、マルクトアを呼んだ。
「名は?」
「は、はい。バーライン家が長男、マルクトア・バーラインと申します」
「そ。マルクトア、ご苦労様。下がっていいわ」
「はい、失礼いたします」
マルクトアが下がったところで清香が感想を述べる。
「聖騎士もやはり、武人と同じく身体能力の強化を技として昇華しているのですね」
「キヨカさんほどのものではなかったけれど。ごめんなさいね、あまり参考にならなかったでしょう?」
「いえ。武人に神徹刀がある様に、聖騎士にもここではお見せできない、特筆すべき奥義があるでしょう。今ので聖騎士の力の全てを見れたとは思っておりません」
「ふふ。キヨカさん、その様な気遣いは無用よ」
「……え?」
ヴィオルガは、自身より劣る動きを見せられた清香が帝国側に気を使っていると考えていた。実際、そんな事はないのだが。
「それよりキヨカさん。私、神徹刀についても話を聞きたいのだけれど」
「ええ、構いません。こちらもセプターについてご教授いただく予定なのです、神徹刀について答えられるものはお答えさせていただきます」
この日から数日は清香が中心になって意見交換が行われた。互いの国の武について話が進むが、その中で当然聖騎士の話も出てくる。
そこで聞く聖騎士の話はヴィオルガ自身、初めて知る事も多かった。中でも以外だったのは、聖騎士は身体能力の強化以外にも聖剣技という術を持っている事だった。
(自国の事なのに知らなかったわ。まぁ貴族院には聖騎士はいないし、こういう機会でもないと聖騎士と話す事自体がないものね。でも聖剣技というのは特筆性が高いわ。これだけの技術をこれまで眠らせていたなんて)
ヴィオルガはいかに帝国が魔術偏重の国だったのかを、本当の意味で初めて自覚した。そしてこの聖剣技、聖騎士の技だからと活用しないのはもったいないと意識する。
(聖騎士自体を、もっと大々的に帝国の武の象徴として打ち出してもいいかもしれないわね。帝国に帰ったら皇帝陛下とこの件で何かできないか、話し合いましょう)
互いの国の術体系を学ぶ交流において、ヴィオルガら皮肉にも自国の術について改めて学ぶ事になった。そしてこの事は、王女として恥ずかしい事であると考えていた。
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