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現れた魔剣 リーンハルトの戦い

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「これ、は……」

 リーンハルトは大剣を手に取ると軽く振るう。そしてその瞬間。右腕に鋭い激痛が走る。

「っ!? くぅっ……!?」

 右腕に視線を向けると、そこには蛇が絡まった様な紋様が浮いていた。紋様は紅く輝いている。それを見てクロンは驚愕の表情を見せる。

「ばかな……!? 雑魚如きが、聖痕を……!?」

 自分の身に何が起こったのか分からない。だが手に握る大剣……爆極剣ヴォルケインが見た目通りの武器ではない事は分かる。どういう訳か、ほとんど重さを感じないのだ。

「ミニリス。これは君の……?」

「…………」

 タイプ顕者に分類される子供は、特殊な武器……幻霊武装を顕現できる。

 だがこれまでミニリスは幻霊武装を顕現できなかった。そのためミニリスもヴォルケインの性能を把握できていないのだ。しかし状況はそれを理由に待ってはくれない。

「ぐぅ……!」

 クロンはダームを蹴り飛ばすと、身体をリーンハルトへと向ける。そして一瞬で距離を詰めた。

「くおぉらああああ!!」

「……っ!」

 クロンが振るう杖を大剣で受け止める。

 クロンの力が異様なのは分かっている。加速による勢いもつけているため、おそらく当たり負けする。リーンハルトはそう考えていた。しかし。

「なにぃ!?」

 当たり負けしたのはクロンの方だった。クロンは後方へと飛ばされる。

「まさか……」

 クロンが当たり負けした事実。それが意味するところとは。

(俺はこの剣の重さを感じていないけど……! 俺以外はしっかりと重さ……重量が効いている……!?)

 右腕に光る紋様が原因なのかは分からないが、リーンハルトは今も大剣の重さを感じない。

 だがその重量に無関係なのはリーンハルトだけであり、本当は見た目通りとても重い武器なのではないか。

「考えていても分からないが……! 今は!」

 リーンハルトはクロンに向かって走りだす。そしてまるで木の棒を振り回す様な軽やかな動きで、爆極剣ヴォルケインを振るう!

「てめぇ!」

 横薙ぎに振るわれた大剣を、クロンは半歩下がって回避する。だが空を斬る鈍い音と、巻き起こる旋風がその威力の高さを物語っていた。

 さすがにまともに受けては、自分でもひとたまりもないとクロンも気づく。

「ばかな……! なんで、てめぇなんかが……! なんで幻霊クラス2の奴が……!」

「おおおお!!」

 年下とはいえ、決して侮れない。むしろ少しでも気を抜けば死ぬのは自分たちだ。リーンハルトの振るう剣筋にもはや迷いはなかった。

 クロンはしっかりと剣撃を躱すが、大剣の取り回しでは不可能なはずの剣筋を描かれ、反撃するのも容易ではない。

(くそ! 何でこんなに軽々と振るっていやがんだ! いや、俺も三峰杖ディムラルドの重さは感じていねぇ! つまりこいつは……! 駆者でもないのに、大剣の主になったのか……!)

 とうとう目の前に大剣が迫ってくる。クロンは腕に力を込め、全力で杖を振るう。

「ぐぅ……!」

 だがやはり重量と勢いがある分、大剣の方が強かった。しかしクロンは大剣の剣圧を利用してそのまま後方へとわざと吹き飛ばされる。

「いい気に……なるなよ!!」

 体勢を崩す事なく地面に両足を付けると、先端が緑に光った杖で地面を殴った。その瞬間、突如リーンハルトの足元から草木が伸び始める。

「な!?」

 それらはリーンハルトの足を絡めとり、その動きを封じた。またしても不可解な現象が起こったが、それらは今考える事ではないと、疑念や驚きといった感情を頭から追い出す。

 しかし草や蔦は足を複雑に拘束し、伸びた木の枝も肉に食い込んでいるため、思う様に身動きが取れなかった。

「ひゃっひゃ……! 残念だったなぁ! 三峰杖ディムラルドの能力は3つ! 障壁、火球、そして植物操作だ! それぞれ別々に発動できても同じの能力は連続発動できねぇし、一度発動させたら次に使えるまで多少のインターバルは発生するがなぁ……! だが雑魚のくせに、こうして俺に全部の能力を使わせたんだ! 少しは褒めてやるぜぇ!」

 クロンは身動きの取れないリーンハルトの背後へと回り込む。そして杖を振りかぶった。

「こいつで砕けろおぉ!」

「くそ……!」

 だがリーンハルトも諦めていない。せっかくここまできたのだ。あともう少し。もう少しでクロンを打ち破り、みんなを窮地から助ける事ができる。そして今、それができるのは自分だけなのだ。

 ここで助けを求めるな。いつも誰かが助けてくれると思うな。何より。この手に握る大剣といい、もうすでにみんなから助けを……力を受け取っているのだ。ここからは自分の意思で、未来を切り開く……!

「くおおおおお!」

「無駄なあがきを!」

 背後から杖による一撃が迫っているのは分かる。リーンハルトはせめて直撃は受けまいと、背中に大剣を回す。

 背後に向けて振るう事はできなくても、防具として活用しようとした動きだった。

 クロンの振るう杖が爆極剣ヴォルケインを叩く。だがこの時、爆極剣ヴォルケインはその剣身に紅いラインが走っていた。

「な……」

 そして杖と大剣が触れた瞬間。クロンの方へと指向性の爆発が巻き起こった。

「クロン!?」

 決して威力の大きな爆発という訳ではない。しかしクロンは至近距離かつまともに爆発を受ける。

「が……ハ……」

「う……おおおおおおおお!!」

 リーンハルトには何が起こったのか分からなかった。

 そもそも背中に目はないのだ、爆発がクロンを襲った事など分かってはいない。だが何かが起こり、クロンがダメージを負ったのは理解できた。故に。

「あああああああ!!」

 多少足を傷付けようが構わない。今は草木の拘束を解くのが第一。

 リーンハルトは枝が食い込むのも気にせず足を動かし、また自身の肉ごと斬るつもりで大剣を雑に突き刺していく。

「かあああああ!!」

 痛い、熱い。だが足を、腕を止める事はできない! 

 リーンハルトはとうとう草木の拘束を全て振りほどき、後ろを振り返る。そこには前歯が折れ、全身に軽度の火傷を負ったクロンが、杖を上段から振り下ろすところだった。

「……っ!!」

 リーンハルトも必死だ。いくら大剣を自由自在に振り回せても、その体力には限りがある。段々動きにきれが無くなってきているのも分かる。おそらく全力で腕を振るえるのも、これが最後だろう。

 だからこそ、リーンハルトは一切の加減なく大剣を振り抜いた。再び大剣と杖がぶつかり合う。

「な……!」

 クロンもまさかリーンハルトが振り返り、この一瞬で大剣を振るってくるとは思っていなかった。

 クロン自身にも余裕がなく、拘束が振りほどかれるより前に杖による一撃で決着を付けようと焦っていたのだ。

 そして大剣と杖が触れた瞬間、恐れていたこと……指向性を持った爆発が、大剣と杖の接触点から巻き起こった。

「がはあぁ!?」

 目の前で起こった現象に、リーンハルトは両目を大きく見開く。同時に、この爆発が自分が手にする爆極剣ヴォルケインによるものだと理解していた。

 二度も爆発をまともに受け、クロンは堪らず杖を手放してしまう。だが足は倒れる前に踏みとどまった。その眼は死んでおらず、リーンハルトを正面から強く睨みつける。

「……っ!」

 例え杖がなくてもクロンは強い。身体能力は間違いなくここにいる誰よりも高いのだ。それも異様に。

 リーンハルトも体力の限界が近い。肩で息をしながら何とか呼吸を整えようとする。しかしクロンはその時間を与えてくれなかった。

「雑魚があぁ!」

 前かがみになり、突撃の姿勢を取る。おそらく瞬き一回する間に、すぐ側に迫っているだろう。

 リーンハルトも神経を研ぎすませ、決して瞬きすることなくクロンを見続ける。そして。

「……あ?」

 クロンの胸板から剣の刃が生えた。クロンは口から大きな血の塊を吐き出す。

「…………。ざ……こ……」

 そしてその場に倒れ込んだ。

「ふぅ……。あまり気分のいいもんではないね……」

 クロンの背後にはいつの間に近づいていたのか、ダームの姿があった。

 ダームは仕方なかったとはいえ、自分の手で少年の命を奪った事実に対して苦い表情を作る。

「ミニリスも無事でよかった。……光の壁も消えた様だな。もう一人の嬢ちゃんはとっくに逃げたみたいだが……」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!」

 リーンハルトは地に倒れるビルツァイスに視線を向ける。ビルツァイスもまともに起き上がれないものの、意識は取り戻しており、その視線をリーンハルトに向けていた。

「しかし騎士殿。それにミニリス。一体何が……」

 リーンハルトは途中からダームの声が入ってこなかった。あまりにいろんな事が有り過ぎたのだ。

 少女を巡る争いに、昔存在したという魔法の様な力の発現。そして自分もその当事者となってしまった。さらに常人以上の力を振るう少年は目の前で死んだのだ。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!」

「おい、騎士殿。大丈夫か……?」

 目の前が真っ暗に閉ざされていく。そしてリーンハルトは意識を失った。
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