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久しぶりの再会と帝都に来た客人

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 屋敷を出て何人かの商人とやり取りを行う。そうしてある程度店を回った後だった。俺は隣のミュリアに確認をする。

「今日の予定はこれで終わりだったか?」

「はい。一応、商業ギルドの飲食部会から夕食の誘いがきておりますが……」

「ああ……帝都の飲食店で、ある程度以上の規模を誇る経営者が集う会だったか。生憎黒狼会は飲食店に関してまだそこまでの商会じゃない」

「傘下の組織が経営している店を含めると、そこそこの規模だとは思いますが……」

 まぁそう言われればそうなんだが。

「……いや、やっぱりやめておく。ちゃんとした会談の場でもないしな」

「そうですか……」

 向こうも俺が来たらラッキーくらいな認識だろう。飲食業界に新参で参入してきたのが、今帝都で話題の黒狼会だったからな。今後の展望も見据えて、ここでちょっと顔見知りになれれば、と考えたんだろう。

 黒狼会にとってメリットになる可能性もあるが、余計な柵が増える可能性もある。現状だと参加することによって明確に利益に繋がるとも言いづらい。

 それに本気で黒狼会との繋がりが欲しければ、また飲食部会の誰かが接触してくるだろう。

「……はは」

「どうしました?」

「ああ、いや。なんか真面目に商会を経営しているな、と思って」

「初めは冥狼と正面からやり合う暴力組織でしたからね。……暴力組織なのは今もですが」

「おいおい、初めから割と真っ当にやっていただろう?」

 元々アンダーグラウンドに所属する奴にしか事を構えてこなかったし、少なくとも法を犯す様な事はしてきてこなかった……はず。

「でも黒狼会がここまでの規模になるなんて、思ってもいませんでした。今では貴族様との関係も深いですし、あの正剣騎士団の団長様が屋敷を訪ねて来られるほどなのですから」

 騎士団とは裏で協力関係を結んでいるし、それ以前にクインは弟だからな。そして俺たちを群狼武風だと知っている貴族たち……特にウィックリンが黒狼会を気にかけているのは間違いない。

 最近帝都で旗揚げした組織としては、かなりのスピードで成長を遂げたと言っていいだろう。

「明日は主だった予定は入っておりませんが。どこか出かけられますか?」

「そうだな……明日考えるか。今日は部屋で、もらった酒を飲んだらそのまま寝るとするよ」

「分かりました」

 建国祭が近く迫っている事もあり、帝都は普段よりも賑わい始めている。普段あまり出向かない地区に足を延ばしてみるのも良いかもしれないな。




 
 なんて考えていた俺だが。次の日、起きたばかりの俺の元へ久しぶりに顔を見せにきた奴がいた。

「久しぶり~」

「久しぶり~、じゃねぇだろ。あの後すぐ姿を消しやがってよ」

 屋敷を訪ねてきたのはリリアーナだった。こうして対面するのは数ヶ月ぶりか。

「ごめんごめん。でもまた直ぐに帝都に来るつもりだったんだよ。予定よりも遅くなったけど」

「ふーん。ま、元気そうで何よりだ。で、どうした? またうちで雇って欲しいのか?」

 リリアーナはレクタリアとの戦いから今日まで何をしていたのか、簡単に話してくれた。

 予想通り、結社エル=ダブラスのある旧フェルグレット聖王国へと戻っていたらしい。そこで総主に事の成り行きを報告していた。

「エル=グナーデの壊滅は消えゆくエル=ダブラス最後の悲願だったもんな」

 エルセマー領でリリアーナ自身が話していたが、エル=ダブラスはレクタリアたちに人員や物資を持っていかれたのに加え、聖王国自体が帝国に組み込まれたのだ。組織としての存在意義も薄れ、エル=ダブラスは今の代を最後に潰えるとの事だった。

 完全に消える前に何とかエル=グナーデを潰したかったが、相手は本拠地も不明な上に戦力も上。どうするかと悩んでいたところ、たまたま情報を掴んだリリアーナが帝都へとやって来た。

「お前んとこのボスも喜んでいただろ?」

「……実はその事でヴェルトに相談があって来たんだ」

「うん?」

 元は一国の諜報機関を担っていた様な組織だ。そこのボス絡みで相談だなんて、絶対碌な話じゃない。

 そんな俺の心境が顔に出ていたのか、リリアーナも苦笑して見せた。

「実は……。総主がヴェルトと会って話したいっておっしゃってて……」

「……はぁ」

 自ら組織をたたむ決断をした総主とやらが、今さら俺に会って何を話す……? 

「そりゃ内容によっちゃ時間は取るが。一体何の用だってんだ?」

「私の口からは話せない。でもきっと黒狼会にとっても悪い話にはならないよ。ね、お願いヴェルト! 総主に会って!」

 リリアーナが手を合わせて頼みこんでくる。リリアーナ自身は総主が何を話すつもりなのか知っているが、それをこの場で言う事はできない……か。

 まぁリリアーナがこう言うんだ、そう面倒な話ではないんだろうが。

「……分かったよ、俺とお前の仲だしな。場所や時間は決まっているのか?」

「実はもう帝都に来ていて……」

「うん?」

「今は北区のホテル「綺羅砂」に泊まってるんだ。ヴェルの都合が良いなら、今すぐにでも案内できるんだけど……」

 え、そんな早いのかよ。帝都の北区は比較的富裕層が多く、高級住宅街もある。そんな地区にあるホテルだ、一泊だけでも相当な値段だろう。

 しかしなるほど。リリアーナは総主の護衛をしながら、遠路はるばるこの帝都まで来た訳だ。それで帝都に戻ってくるまで時間がかかっていたんだな。

「総主も聖王国王族の血に連なるんだろ? 銀髪金眼の外見でよく騒ぎもなく来れたな……」

「さすがに帝都圏はそこまで物騒じゃないよ。最近は聖王国民の旅人や商人も帝都に来ているはずだし」

「そうなのか。ま、移動自体はもう制限されていないって話だったもんな。いいぜ、今日は予定もないし。早速案内してくれ」

「ほんと!? ありがと、ヴェルト!」

 俺は外着に着替えると、ロイを部屋に呼ぶ。後の事をロイとミュリアに託すと、リリアーナと外へ出た。

「流石にフードを取って堂々と歩くと、人目を集めるな……」

「でも何人かはヴェルトの方を見ているみたい」

「確かにそんな奴もいるな。隣に銀髪乙女がいるのに、野郎に視線を向けるとは」

 まぁこの辺の住民は俺の顔を知っているしな。中には黒狼会の世話になっている人もいるはずだ。何より帝国政府から表彰を受けた時に、黒狼会はかなり有名になったからな。俺も街のちょっとした有名人だ。

 道すがら、俺はリリアーナに今の黒狼会について話していた。

「ええ!? それじゃ今は本物の魔法を使う元群狼武風が、帝国領をあっちこっちに行ってるの!?」

「人を管理の行き届いていない危険生物みたいに言うな。元々群狼武風はあっちこっちに拠点を変えていたからな。今みたいに一つの都市に、こうしてちゃんとした拠点を築いて活動している方が珍しいんだよ」

 だがちゃんと生活の基盤を作れた点に関しては、俺は自分を高く評価している。

 帝都に巣くう組織も、表で台頭する黒狼会と地下で台頭する影狼、そしていずれにも属さないその他勢力と住み分けられているし、冥狼影狼時代ほど治安も悪くなっていないだろう。

「……着いたわ。ここに総主が泊まっておられるの」

「こりゃまた随分と立派な宿泊先だな」

 案内されたホテル「綺羅砂」は高級住宅街の一角に広い土地を持っていた。他国から来た貴族や豪商なんかが利用するのだろう。

 従業員もよく教育されているのか、リリアーナの顔を見るなり頭を下げる。宿泊客の関係者として覚えているのだろうか。

「建物の中も広いな……」

「ここから先の区画はまるまる総主が貸し切っているの。従業員もいないから、言葉に気を使わなくても大丈夫よ」

「エル=ダブラスさんはえらくお金持ちの様で……」

 リリアーナに先導され、長い廊下を歩く。だが人の気配は複数感じられた。

 従業員以外となると、おそらくリリアーナの同僚だろう。じいさんならもう少し詳細に気配を掴めたんだろうけどな。

「この部屋よ。……総主。黒狼会のヴェルトをお連れしました」

 リリアーナは廊下の一番奥の部屋の前で足を止めると、言葉と共に扉を叩く。返事は直ぐに帰ってきた。

「んあー? え、まじぃ? 開いてるから入ればぁ?」

 部屋の中から聞こえてきたのは、若い女の声だった。
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