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ライルズとの会合
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クインシュバイン・ディグマイヤー。ヴェルトハルトの弟にして、今はゼルダンシア帝国の正剣騎士団団長の要職に就く男だ。
彼は自身の屋敷で配下からの報告を聞いていた。
「雷弓真と黒狼会の会合か……」
「はい。ですが黒狼会のボスであるヴェルトは、はっきりと冥狼、影狼との関係を断りました」
「小規模組織ならともかく、あの規模の組織で無所属というのは存在していないな……」
「ですが黒狼会の治める地区の利益を、冥狼も影狼もそのまま放置はしないでしょう」
クインシュバインは資料に目を通しながら、配下に質問を行う。
「……ボスのヴェルトという男。歳はどれくらいだ?」
「見た目は20代半ばくらいかと。ですが他の幹部同様、かなり身体は鍛えられていますね。どう見ても完全な武闘派です」
「そうか……」
「団長。ヴェルトも洗えば必ず何か犯罪歴があるはずです。まだどこの派閥にも属していない今のうちに、捕えるべきでは……?」
配下の懸念も理解はできる。だが捕えたら捕えたで新たな面倒が起こることを、クインシュバインは理解していた。
「せっかく黒狼会が、住民たちに大きな混乱を与えることなくあの辺りの地区をまとめたのに、ここでそのボスがいなくなってみろ。手ぐすねを引いている他組織の者たちが乗り込んでくるぞ。そうなると複数組織での抗争の始まりだ。最悪、冥狼と影狼の代理戦争が起こりかねん。第一、現状真っ当に商売をしている黒狼会を、どうやって捕えるというのだ?」
「は……申し訳ございません」
しかしそれとは別に、ヴェルトの来歴を洗う事には賛成だ。
「幹部たちの情報は引き続き調べろ。水迅断を乗っ取った手腕を見ても、どこかで相応の経験を積んできた者たちなのは間違いない」
「はっ」
その後も簡単な打ち合わせを進める。今は帝都に潜伏する暗殺者たちなど、他に優先しなければならないことが多いのだ。ごろつきどもばかりにかまけていられない。
配下が部屋を出て行ってしばらく。自室に響くノックの音で、クインシュバインは顔を上げた。
「リーンハルトです」
「ああ、リーンか。入ってくれ」
リーンハルト・ディグマイヤー。クインシュバインの息子であり、今は貴族院に通うディグマイヤー家の跡取りだ。
「父さん、どういったご用件でしょう」
「うむ……。明日からヴィローラ殿下が貴族院に復帰なさる」
「殿下が……!? 大丈夫なのですか?」
本来ならもうしばらく休んでいて欲しいところだが、皇宮の判断に否はなかった。
「先の襲撃は元々ハイラント家の娘、ルズマリアを狙ったものだからな。殿下は警備体制を強化した上で復帰される事を決められた」
「はぁ……」
「だが貴族院内で騎士を多く引き連れる訳にもいかん。そこで殿下の専属護衛に加え、貴族院では何人か騎士科の受講者から警護を付ける事になった」
そこまで話されて、リーンハルトはまさかと言う。
「殿下の警護だ、当然成績優秀な者が選ばれる。リーン、お前は体力や剣技などの総合評価は2位の実力者だ。貴族院から是非にと話がきたので、了承しておいた」
「はぁ……」
「……なんだ、あまり嬉しくなさそうだな」
「い、いえ。そんなつもりはないのですが……」
貴族院限定とはいえ、いきなり皇女殿下の身辺警護をしろと言われても困るか。クインシュバインは息子の心境を慮る。
「お前も授業があるからな、何も四六時中一緒にいろと言う訳ではない。他にも3人、殿下の警護につくと聞いている。護衛騎士たちと上手くやるように」
「はい……」
「ああ、それと。シェリフィアも殿下の専属給仕として新たに配属される事になった。貴族院で会ったら、仲良くする様にな」
「シェリフィアが……!?」
シェリフィアとは、クインシュバインの妹であるメルディアナの娘に当たる。年は14才になり、将来上級貴族の側仕えとなるべく教育を受けていた。
「殿下も少し浮世離れしたところはあるが、基本的には聡明な方だ。失礼のないようにな」
「はい」
明日から忙しくなるな。リーンハルトはそう思いながら、自室へと戻って行った。
■
雷弓真との会合の結果を聞き、ダグドは一先ず胸をなでおろしていた。
「てっきり誰か殺して帰ってくるものだとばかり……」
「向こうの出方次第ではそれも考えていたがな。まぁしばらくはチェスカール同様、様子見だ」
チェスカールも息巻いていた割には、何もアクションを起こしてこない。所詮は小者か。
そしていよいよダグドがセッティングした商人との会合の日になった。名はライルズ。帝都に多くの服飾店を展開する商会の主とのことだ。
ここ城壁内西部にも支店はあるが、これまで水迅断とは関係を持ってこなかったらしい。そのライルズと会うため、俺は馬車で指定された店へと向かった。
「本当にお一人で行かれるのですか……?」
「ああ。相手は商人だろ。あんまりぞろぞろ連れて行っても格好がつかんて」
店は卵とチーズ料理を中心に出してくれる飯屋であり、昼時ということもあって賑わっていた。
案内されるままに二階に上がり、個室へと通される。中では壮年の男性が椅子に座っていた。その後ろには護衛らしき男が二人立っている。
「どうも。ヴェルトです」
「おお、お待ちしていました。お一人で来られたのですか?」
「ええ」
「はは。これでは二人も連れてきた私が恥ずかしいですな」
運ばれてきた昼食を取りながら、お互い簡単に自己紹介を行う。
ライルズは帝都だけではなく、近隣の街にも店を持ち、また工場は帝都から少し離れた地に築いているとのことだった。
「帝都で生産工場を作ると土地代も税もばかになりませんからな。田舎で安く土地を買い、地方の村人たちを使った方が安くあがるのですよ。欠点は、帝都までの輸送コストですがね」
「だが現地で売りさばく分には安く済ませられる。その地区の収入にあった服が提供できる訳ですね」
「その通りです。昔は服でここまで儲けるのは難しかったのですが。これも皇帝陛下のご威光のおかげですかな」
帝都はもちろん、近隣の街や村でも他国のそれと比べると人も多いだろうしな。人が多いとそれだけ消費が増える。服などもその中に入るのだろう。ライバル業者との差別化は大変そうだが。
「ヴェルトさん。あなたは黒狼会を立ち上げてからというもの、庶民の迷惑にならない事を掟に掲げておられるとか。実際、水迅断がやっていた商いの一部は閉じさせました。何故その様なことを?」
「わざわざ儲けを捨ててまで……という意味ですね。理由は簡単、俺たちが外道だからですよ」
「ほう……?」
俺は机の上にあるスープに口を付ける。
「外道にも外道なりの矜持がありましてね。ただの外道で終わるか、矜持を持った外道で居続けるか。これはそれだけの話ですよ」
「外道なりの矜持ですか……」
「なんて事はありません。黒狼会は俺を含めて6人の最高幹部がいますが。俺たちにとっての恩人の矜持を引き継いでいるってだけなんですよ」
そしてこれがローガから託された夢だと考えている。実際のところは確かめようがないが、こういう縛りを課した上で黒狼会を運営するのも悪くない。
「その矜持に従い、冥狼の派閥に入ることを拒まれたのですね」
「さすがに耳が早いですね」
「商人の世界は情報が命ですからな。なるほど、ヴェルトさんは他の組織のボスとは違う様だ」
そう言うとライルズは護衛の二人に視線を向ける。
「私がヴェルトさんに会ってみたいと思った理由ですが。黒狼会の評判に加え、この二人から話を聞いたからなんです」
「そこの二人ですか……?」
俺に視線を向けられた二人は、やや表情を固くする。見覚えはない顔だが……。
「はは。覚えておりませんか。この二人は私が雇う前は、ヒアデスの警護をしていたのですよ」
「……ああ! あの時見逃した二人か!」
思い出した。ヒアデスがけしかけた護衛の中で、二人だけ立ち向かってこなかった奴らがいた。そいつらは屋敷から逃がした記憶がある。
「俺たち、昔は戦場に立った経験もありまして。それなりに自信があったのですが、ヴェルトさんたちを見た時はやばいって思いましたね」
「そして実際やばかった。ヒアデスに従っていたら、俺たちもあっさりやられて終わっていたでしょうから」
まさかこんなところで再会するとは思わなかった。縁というのはどこでどう巡ってくるのか分からないものだ。
「この二人はその筋では結構有名なのですよ。ですがその二人がそろって、黒狼会を敵に回すのはまずいと言ってきたのです。聞けばその実力の片鱗だけで、他の護衛たちも片付けたとか」
「そういうこともありましたね」
「ヴェルトさんは現状、黒狼会を真っ当に運営なされておられます。そして腕の方も確かだ。いかがでしょう、定期的にヴェルトさんのところの人員をお貸しいただけませんでしょうか」
話の流れからして、商品の輸送時に護衛を派遣して欲しいということだろう。もちろん悪い話ではない。
「幹部クラスは高くつきますよ」
「はは。よっぽどの危険地帯でもない限り、その必要はないでしょう。ですが有事の際に、ヴェルトさんたち最高幹部クラスのお力を借りられるのなら。我が商会としては黒狼会を喜んで支援したいと考えております」
早い話、金の面で援助してくれるという事だ。
こういう実利に則った話ができる分、チェスカールやガーラッドと会うよりもよっぽど建設的だ。
「それはありがたい。ですが黒狼会はどこへ行こうと、その掟を破ることはありません。もしライルズさんが俺たちを使い、あこぎな商売をしようと言うのなら。その時は代償を払っていただきますよ」
「ふふ。高い代償になりそうですな。ご安心ください、私自身黒狼会のやり方に賛同し、またこの二人からその強さを聞いたからこそ、こうしてここにいるのです。末永くよろしくお願いしますよ」
俺とライルズさんは互いに笑い合うと、食事に手をつける。最近の会合の中ではもっとも有益な時間を過ごせたな。苦労性のダグドも喜ぶだろう。
……そうだ、ダグドで思い出した。
「早速頼らせてもらってもよろしいでしょうか?」
「どうしたのです?」
「実は黒狼会は、分野によっては人手不足感がありまして。具体的に言うと、私のスケジュールを管理する秘書ですね。今はこの辺りも元水迅断の幹部、ダグドに投げているのですが。彼もいろいろ仕事を抱えており、手一杯でして……」
「ダグドがヴェルトさんの方針に従い、黒狼会の運営を管理している事は聞いております。……なるほど、分かりました。私の方にぴったりの人員がおりますので、その者をお貸ししましょう」
「助かります」
これで少しはダグドの負担も減るか。黒狼会が今の地区を得てから、多分ダグドは一日も休んでいないからな。まぁ他の元水迅断幹部も同様なのだが。
彼は自身の屋敷で配下からの報告を聞いていた。
「雷弓真と黒狼会の会合か……」
「はい。ですが黒狼会のボスであるヴェルトは、はっきりと冥狼、影狼との関係を断りました」
「小規模組織ならともかく、あの規模の組織で無所属というのは存在していないな……」
「ですが黒狼会の治める地区の利益を、冥狼も影狼もそのまま放置はしないでしょう」
クインシュバインは資料に目を通しながら、配下に質問を行う。
「……ボスのヴェルトという男。歳はどれくらいだ?」
「見た目は20代半ばくらいかと。ですが他の幹部同様、かなり身体は鍛えられていますね。どう見ても完全な武闘派です」
「そうか……」
「団長。ヴェルトも洗えば必ず何か犯罪歴があるはずです。まだどこの派閥にも属していない今のうちに、捕えるべきでは……?」
配下の懸念も理解はできる。だが捕えたら捕えたで新たな面倒が起こることを、クインシュバインは理解していた。
「せっかく黒狼会が、住民たちに大きな混乱を与えることなくあの辺りの地区をまとめたのに、ここでそのボスがいなくなってみろ。手ぐすねを引いている他組織の者たちが乗り込んでくるぞ。そうなると複数組織での抗争の始まりだ。最悪、冥狼と影狼の代理戦争が起こりかねん。第一、現状真っ当に商売をしている黒狼会を、どうやって捕えるというのだ?」
「は……申し訳ございません」
しかしそれとは別に、ヴェルトの来歴を洗う事には賛成だ。
「幹部たちの情報は引き続き調べろ。水迅断を乗っ取った手腕を見ても、どこかで相応の経験を積んできた者たちなのは間違いない」
「はっ」
その後も簡単な打ち合わせを進める。今は帝都に潜伏する暗殺者たちなど、他に優先しなければならないことが多いのだ。ごろつきどもばかりにかまけていられない。
配下が部屋を出て行ってしばらく。自室に響くノックの音で、クインシュバインは顔を上げた。
「リーンハルトです」
「ああ、リーンか。入ってくれ」
リーンハルト・ディグマイヤー。クインシュバインの息子であり、今は貴族院に通うディグマイヤー家の跡取りだ。
「父さん、どういったご用件でしょう」
「うむ……。明日からヴィローラ殿下が貴族院に復帰なさる」
「殿下が……!? 大丈夫なのですか?」
本来ならもうしばらく休んでいて欲しいところだが、皇宮の判断に否はなかった。
「先の襲撃は元々ハイラント家の娘、ルズマリアを狙ったものだからな。殿下は警備体制を強化した上で復帰される事を決められた」
「はぁ……」
「だが貴族院内で騎士を多く引き連れる訳にもいかん。そこで殿下の専属護衛に加え、貴族院では何人か騎士科の受講者から警護を付ける事になった」
そこまで話されて、リーンハルトはまさかと言う。
「殿下の警護だ、当然成績優秀な者が選ばれる。リーン、お前は体力や剣技などの総合評価は2位の実力者だ。貴族院から是非にと話がきたので、了承しておいた」
「はぁ……」
「……なんだ、あまり嬉しくなさそうだな」
「い、いえ。そんなつもりはないのですが……」
貴族院限定とはいえ、いきなり皇女殿下の身辺警護をしろと言われても困るか。クインシュバインは息子の心境を慮る。
「お前も授業があるからな、何も四六時中一緒にいろと言う訳ではない。他にも3人、殿下の警護につくと聞いている。護衛騎士たちと上手くやるように」
「はい……」
「ああ、それと。シェリフィアも殿下の専属給仕として新たに配属される事になった。貴族院で会ったら、仲良くする様にな」
「シェリフィアが……!?」
シェリフィアとは、クインシュバインの妹であるメルディアナの娘に当たる。年は14才になり、将来上級貴族の側仕えとなるべく教育を受けていた。
「殿下も少し浮世離れしたところはあるが、基本的には聡明な方だ。失礼のないようにな」
「はい」
明日から忙しくなるな。リーンハルトはそう思いながら、自室へと戻って行った。
■
雷弓真との会合の結果を聞き、ダグドは一先ず胸をなでおろしていた。
「てっきり誰か殺して帰ってくるものだとばかり……」
「向こうの出方次第ではそれも考えていたがな。まぁしばらくはチェスカール同様、様子見だ」
チェスカールも息巻いていた割には、何もアクションを起こしてこない。所詮は小者か。
そしていよいよダグドがセッティングした商人との会合の日になった。名はライルズ。帝都に多くの服飾店を展開する商会の主とのことだ。
ここ城壁内西部にも支店はあるが、これまで水迅断とは関係を持ってこなかったらしい。そのライルズと会うため、俺は馬車で指定された店へと向かった。
「本当にお一人で行かれるのですか……?」
「ああ。相手は商人だろ。あんまりぞろぞろ連れて行っても格好がつかんて」
店は卵とチーズ料理を中心に出してくれる飯屋であり、昼時ということもあって賑わっていた。
案内されるままに二階に上がり、個室へと通される。中では壮年の男性が椅子に座っていた。その後ろには護衛らしき男が二人立っている。
「どうも。ヴェルトです」
「おお、お待ちしていました。お一人で来られたのですか?」
「ええ」
「はは。これでは二人も連れてきた私が恥ずかしいですな」
運ばれてきた昼食を取りながら、お互い簡単に自己紹介を行う。
ライルズは帝都だけではなく、近隣の街にも店を持ち、また工場は帝都から少し離れた地に築いているとのことだった。
「帝都で生産工場を作ると土地代も税もばかになりませんからな。田舎で安く土地を買い、地方の村人たちを使った方が安くあがるのですよ。欠点は、帝都までの輸送コストですがね」
「だが現地で売りさばく分には安く済ませられる。その地区の収入にあった服が提供できる訳ですね」
「その通りです。昔は服でここまで儲けるのは難しかったのですが。これも皇帝陛下のご威光のおかげですかな」
帝都はもちろん、近隣の街や村でも他国のそれと比べると人も多いだろうしな。人が多いとそれだけ消費が増える。服などもその中に入るのだろう。ライバル業者との差別化は大変そうだが。
「ヴェルトさん。あなたは黒狼会を立ち上げてからというもの、庶民の迷惑にならない事を掟に掲げておられるとか。実際、水迅断がやっていた商いの一部は閉じさせました。何故その様なことを?」
「わざわざ儲けを捨ててまで……という意味ですね。理由は簡単、俺たちが外道だからですよ」
「ほう……?」
俺は机の上にあるスープに口を付ける。
「外道にも外道なりの矜持がありましてね。ただの外道で終わるか、矜持を持った外道で居続けるか。これはそれだけの話ですよ」
「外道なりの矜持ですか……」
「なんて事はありません。黒狼会は俺を含めて6人の最高幹部がいますが。俺たちにとっての恩人の矜持を引き継いでいるってだけなんですよ」
そしてこれがローガから託された夢だと考えている。実際のところは確かめようがないが、こういう縛りを課した上で黒狼会を運営するのも悪くない。
「その矜持に従い、冥狼の派閥に入ることを拒まれたのですね」
「さすがに耳が早いですね」
「商人の世界は情報が命ですからな。なるほど、ヴェルトさんは他の組織のボスとは違う様だ」
そう言うとライルズは護衛の二人に視線を向ける。
「私がヴェルトさんに会ってみたいと思った理由ですが。黒狼会の評判に加え、この二人から話を聞いたからなんです」
「そこの二人ですか……?」
俺に視線を向けられた二人は、やや表情を固くする。見覚えはない顔だが……。
「はは。覚えておりませんか。この二人は私が雇う前は、ヒアデスの警護をしていたのですよ」
「……ああ! あの時見逃した二人か!」
思い出した。ヒアデスがけしかけた護衛の中で、二人だけ立ち向かってこなかった奴らがいた。そいつらは屋敷から逃がした記憶がある。
「俺たち、昔は戦場に立った経験もありまして。それなりに自信があったのですが、ヴェルトさんたちを見た時はやばいって思いましたね」
「そして実際やばかった。ヒアデスに従っていたら、俺たちもあっさりやられて終わっていたでしょうから」
まさかこんなところで再会するとは思わなかった。縁というのはどこでどう巡ってくるのか分からないものだ。
「この二人はその筋では結構有名なのですよ。ですがその二人がそろって、黒狼会を敵に回すのはまずいと言ってきたのです。聞けばその実力の片鱗だけで、他の護衛たちも片付けたとか」
「そういうこともありましたね」
「ヴェルトさんは現状、黒狼会を真っ当に運営なされておられます。そして腕の方も確かだ。いかがでしょう、定期的にヴェルトさんのところの人員をお貸しいただけませんでしょうか」
話の流れからして、商品の輸送時に護衛を派遣して欲しいということだろう。もちろん悪い話ではない。
「幹部クラスは高くつきますよ」
「はは。よっぽどの危険地帯でもない限り、その必要はないでしょう。ですが有事の際に、ヴェルトさんたち最高幹部クラスのお力を借りられるのなら。我が商会としては黒狼会を喜んで支援したいと考えております」
早い話、金の面で援助してくれるという事だ。
こういう実利に則った話ができる分、チェスカールやガーラッドと会うよりもよっぽど建設的だ。
「それはありがたい。ですが黒狼会はどこへ行こうと、その掟を破ることはありません。もしライルズさんが俺たちを使い、あこぎな商売をしようと言うのなら。その時は代償を払っていただきますよ」
「ふふ。高い代償になりそうですな。ご安心ください、私自身黒狼会のやり方に賛同し、またこの二人からその強さを聞いたからこそ、こうしてここにいるのです。末永くよろしくお願いしますよ」
俺とライルズさんは互いに笑い合うと、食事に手をつける。最近の会合の中ではもっとも有益な時間を過ごせたな。苦労性のダグドも喜ぶだろう。
……そうだ、ダグドで思い出した。
「早速頼らせてもらってもよろしいでしょうか?」
「どうしたのです?」
「実は黒狼会は、分野によっては人手不足感がありまして。具体的に言うと、私のスケジュールを管理する秘書ですね。今はこの辺りも元水迅断の幹部、ダグドに投げているのですが。彼もいろいろ仕事を抱えており、手一杯でして……」
「ダグドがヴェルトさんの方針に従い、黒狼会の運営を管理している事は聞いております。……なるほど、分かりました。私の方にぴったりの人員がおりますので、その者をお貸ししましょう」
「助かります」
これで少しはダグドの負担も減るか。黒狼会が今の地区を得てから、多分ダグドは一日も休んでいないからな。まぁ他の元水迅断幹部も同様なのだが。
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❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
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そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
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