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急報に次ぐ急報 敗北の兆し

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「見えたぞ! 王都だ!」

 強行軍だったが、俺たちは無事に王都に辿り着けた。見たところ、城門が打ち破られた形跡はない。だがその門はピッタリと閉じられていた。

 俺は馬を前に進める。

「団長!」

「おう、ヴェルト。どうやら間に合ったみたいだな」

「それはいいけど、裂閃爪鷲は……?」

 王都周辺には裂閃爪鷲らしき傭兵たちの姿は見えなかった。ローガは群狼武風とゼルダンシア王国の旗がよく見える様に振りながら、城壁へと近づく。

「群狼武風団長、ローガだ! 急使より緊急の報を受け、強行軍でかけつけてきた! 誰ぞ状況を説明できる者はおるか!」

 ローガの叫びからしばらく。城門は小さく開く。中から一人の騎士が現れた。

「お、おお……! ローガ殿、よくぞこれほど早く戻ってきてくれました……!」

「挨拶はいい! それより状況は!?  裂閃爪鷲はどうした!?」

 騎士はこれまでの状況を説明し始める。裂閃爪鷲は確かに王都に奇襲をしかけていたが、突然その姿を消したとの事だった。

「団長、これは……」

「ああ。俺たちが王都に向かっていることをどこかで掴み、正面衝突を避けたんだ。やっぱり狙いは……」

 どうやら団長も考えは同じらしい。裂閃爪鷲が近くに潜伏しているのは間違いない。数千という規模であれば、見つけるのは容易だろう。だが索敵に回せるほど兵力に余裕があるかは疑問だ。

「とにかく俺は陛下に会ってくる。お前らはここで陣を張れ! 警戒は怠るな、何かあればスレイの指示に従え!」

「はっ!」

 俺たちは周囲を警戒しつつ、城門を中心に陣を張る。だがこの日、裂閃爪鷲がその姿を見せることは無かった。

 そして次の日。団長は俺たち隊長格を集めて会議を開く。

「陛下は相当まいっていたが。いち早く駆け付けた俺たちに大層感謝していたよ」

「はは。これで増々群狼武風の株が上がりましたな」

「だが油断はできねぇ。聞けば裂閃爪鷲もその数は2000くらい居たそうだ」

「そんなに……」

 それほどの人数を、いつの間にかゼルダンシア領に潜伏させていた。これも最近、大戦力での衝突がおおくなったからこそだろう。奴らはその隙に、効率よくゼルダンシア領へと入り込むことができた。

「おそらく裂閃爪鷲の潜伏先は、王都西にある森林地帯か、東にある峡谷だろう。水や食糧の確保を考えると、ほぼ確実に西だろうがな」

「……俺たちは何をすれば?」

「このまま王都の守りを固める。おそらく近く、ノンヴァードの奴らはここまで攻め込んでくるだろう」

「な……!?」

 直に王都強襲の報は前線に伝わり、将たちに大きな動揺を誘うだろう。そして救援のために戦力を割ったタイミングで、ノンヴァードは本格的に侵攻してくるはずだ。

 王都を防衛できる確立は高いが、平野部は完全に抑えられるだろうな。

「陛下はここから離れられないのか……!?」

「ああ。ここには大幻霊石があるからな。王族は王都を離れることができない決まりなんだとよ」

「うへぇ……。そりゃ厳しいっすね……」

 こうなった今、平野が抑えられるのは仕方がない。だが王都はそう簡単には落とせない。考えようによっては、王都周辺に戦力を集中させることができるのだ。

「まぁじきに前線から慌てふためいた騎士様たちが帰ってくるだろ。それまでの間、俺たちがここをしっかりと守るぞ! あと何人か、西の森に偵察に行ってくれ。裂閃爪鷲の奴らが……」

「団長!」

 テントに伝令が入ってくる。その声には緊迫感があった。

「なんだ!?」

「裂閃爪鷲の奴らが現れました!」

「あんだとぉ!?」

 俺たちは駆け足でテントを出る。遠方には確かに敵兵らしき集団が確認できた。

「ここで仕掛けてくるか、普通……! いや、狂ってるからこそ、こんなギャンブルを成立させたんだったな……! おら、お前ら! 位置につけ! 舐めた真似した奴らを速攻で叩き潰すぞ!」

「おおおお!!」

 戦闘は直ぐに始まった。だが裂閃爪鷲は常に一定の距離を取っており、本気で攻め込む様な気概が見られなかった。

 ある程度戦闘が続くと、敵はさっさと距離を空けて去っていく。

「追いますか!?」

「いや……」

 下手に深追いして、王都から距離を空けさせるのが目的かもしれない。もしくは深追いしてきた部隊を各個撃破するための仕掛けを用意しているか。

 裂閃爪鷲の考えは読めなかったが、ローガから追撃の指示は出なかった。
 
 だが次の日も裂閃爪鷲は同じ様に仕掛けてくる。その次の日も。だがそのさらに次の日は、全くその姿を見せなかった。

 さすがにストレスが溜まり始めていた頃、前線から急使が帰ってきた。しかもその急使は驚きの報告を持っていたのだ。

「き、騎士団が……! 騎士団が敗れ、ノンヴァードに前線を突破されました!」

「なんだと!? 早すぎる、一体どういう事だ!?」

「そ、それが……! ノンヴァード軍に突然、大量の魔法使いが援軍に加わりまして……!」

 急使が言うには、王都襲撃の報を受けた総大将は自軍を二つに割り、片方を救援に向かわせたらしい。だがその次の日、ノンヴァードの大攻勢が始まった。

 ゼルダンシア側は兵力が半減しているのに対し、ノンヴァードは普段よりも兵力が増えており、さらに魔法使いの数が明らかに多くなっていたとの事だった。 

「奴ら……! 今日まで前線に投入できる魔法使いを増やし続けていたんだ……!」

「王都に向かっている戦力はどうなったんだ!?」

「は、はい。私は途中、彼らに事情を説明しました」

 急使は王都に向かう途中で、救援部隊に追いついたそうだ。だが前線が崩壊した報を聞いた救援部隊は、そこからさらに隊を二つに分け、一方を前線に、もう一方で王都を目指しているという。

「ばかな……! さらに戦力を割ったというのか!?」

「は、はい……」

「どこのバカだ、そんな判断をしたのは……!」

 まずい。敵はこれまで温存していた魔法使いたちも投入し、大部隊になっている。そこに中途半端な戦力を当てたところで、各個撃破されるのは目に見えている。

 ここは素直に平野を放棄し、王都に引き返すべきだ。悪い報告が入る中、ここでさらに良くない報告が続く。

「団長!」

「今度はなんだ!」

「み、味方の兵が、瀕死になりながらここまでたどり着きました!」

「なに!?」

 俺たちは今度はそちらに向かう。するとそこには背に矢を受けた兵士が膝をついていた。

「おい、しっかりしろ! 何があった、お前はどこの騎士団所属だ!?」

「はぁ、はぁ……! お、俺は……王都救援に向かっていた騎士団所属のものだ……! だが途中、俺たちは裂閃爪鷲の襲撃を受けた……!」

「なに……!?」

 息も絶え絶えに、その兵士は状況を説明する。

 さらに半分に割られた王都救援部隊は、真っすぐに王都を目指していた。だがそこに突如、裂閃爪鷲の襲撃を受けたという。

 完全な奇襲の上に、相手は魔法使いも多い。王都救援部隊は散り散りになりながら、今も王都を目指しているとの事だった。

「…………!」

 状況は思っていたよりさらに悪い方へと傾く。おそらく王都までたどり着ける兵力はそこまで多くないだろう。そして前線に残る騎士団のほとんどは潰走するはずだ。

「くそ……! 裂閃爪鷲の命を張ったギャンブルにやられたか……!」

 加えて、おそらくノンヴァードの国王も大きな賭けに出ていた。突如増やし始めた魔法使いといい、自国の大幻霊石が砕けても良いという覚悟の現れだろう。

 最後に残った大幻霊石さえ確保できれば、それで勝ちだと考えたのだ。

 裂閃爪鷲の団長とノンヴァードの王。二人のギャンブラーは賭けに勝ったのだ。おそらくゼルダンシア王国は、もって後数ヶ月だろう。

 ローガは今の情報を伝えるため、城に伝令を飛ばす。

 しかし他にも気になる点はある。俺の居た時代では、ゼルダンシアは帝国として名を残していた。俺はてっきりこの戦争の勝者は、ゼルダンシア王国だろうと考えていたのだ。

「団長……」

 何ともいえない、暗い空気が俺たちの間に漂い始めていた。
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