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番外編:いろんな小噺

終末いかがお過ごしですか?02

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「別にいいよ。好きな人のこと考えてて」

 そんな、思ってもいないこと言って、自分で傷ついてるオレ。はい、残念。
 ベッドの上には、愛しい幼馴染がシーツに縋りついてよがってる最高の光景が広がっちゃってる。本当なら体をこっちを向けて、キスをして、その痴態を隅々まで観察しながら、細い腰に愛をぶち込みたい。だけど、今さら「好きだよ」だなんてどの口が言えるんだろう。

(あーあ……どこで間違っちゃったの、オレ)

 こんな関係がはじまってから、もう一年近い。予定であれば、そろそろ勇者様が魔王を討伐しているころだし、そろそろ討伐していなければ、食料は尽きるし、もう、オレたちは、――っていうか、世界は終わりだ。

 半年前くらいまでは、王城に通っていたシェラも、流石にこの家から出ることはなくなった。オレは王都の近くにモンスターが出現したときのみ、警鐘を聞いて駆けつけるみたいなかんじ。
 腰を振りながら、今が朝なのか夜なのかもよくわからない。静かに疲弊していくシェラのことを見ながら、ベッドの上でもつれあって、慰めあうだけ。オレのことを好きじゃないって知ってるけど、それでも縋るように求められて、オレは歓喜してる。
 間違ってるのは世界の状態か、シェラの弱さにつけ込んだオレかってことは、最高に気持ちがいい今は、――。

(……考えたくないけど)

 長い銀髪を乱して、甘ったるい声をあげてオレのことを締めつけてるシェラも、普段はツンとすました美人だ。『普段』っていうのが、いつの日の普通だったかってことも、――。

(今は考えたく……ないなあ)

 まだ平和だったときのことを思い出す。魔術の秀でていたシェラは、十五で成人する前から宮廷魔術師として働いていた。
 昔からシェラのことが好きだったオレは、必死で訓練して騎士団に入団して、やっとシェラに想いを伝えようと思っていたのだ。同日に辞令があって新しい配属先になったというシェラが、恍惚とした顔をして「もう、『あの方』のことしか考えられない」と、うっとりもらすのを聞いて、オレは泣きそうになったのを覚えている。

 ずっとシェラに告白するためだけにがんばってきたのに、なんであんなヒョロっとした魔術師に全部取られないといけないんだ! と、憤った。誰が相手なのかなんて、明らかだった。それでも相手を教えてくれないシェラが、とにかく魔術師の誰かだと言ったのを聞いて、そのとき、オレが言ってしまった言葉がすべてのはじまりだったに違いない。

 ――魔術師なんて陰気。もやしみたいなやつらの誰よりも、騎士団長のほうがめちゃくちゃかっこいい――

 そう言ったオレの言葉を聞いたシェラの眉間の皺がどんどん深くなり、そして言われた。

 ――脳筋集団のトップとか全然興味ないから――

 それにはオレも頭にきて、そこからオレたちは顔を合わせれば、ケンカばっかりだった。

 だけど、頼れる騎士団長が勇者様と旅立って、世界が荒廃していくのを目の当たりにしたオレの中に残ったのは、純粋に「シェラと一緒にいたい」という本能だった。この世界が終わることを免れても、この世界がたとえ終わってしまっても、最後は、――最期の瞬間は。

(シェラと一緒にいたい……)

 愛しい人がたとえ他の男のことを想っていたとしても、その男がシェラの隣にいないのならば、シェラの隣はオレのものだった。
 ぐっと腰を突き進めると、シェラが背をのけぞらせた。その細い両腕を掴み、最奥にペニスを押しつける。

「ああッ! や、深い……ッ」
「なんで? 奥好きでしょ」

 ぐりぐりと押しつぶしていると、背中をしならせたシェラがビクビクと大きく震えた。この角度からは、シェラがどんな顔をしてるのかわからなくてやだなと思う。でも、ぎゅうぎゅうとペニスを締めつけてくる内壁は、シェラの快感を伝えてくれているような気がする。

(気持ちよさそう……かわいい)

 世界が荒廃してくにつれて、なんか性欲が高まってる気がする。

「あっぁっ……あああっ!」

 震えながら白濁を吐き出したシェラの体に、オレは止まることなく自分の欲望を擦りつけた。嗚咽のような声をもらしているシェラに覆いかぶさりながら、耳元で伝えておく。

「オレも……出す」

 今から汚すよ。あんな男のこと忘れて、全部オレのものになっちゃえばいいのに。シェラの奥の奥まで汚したくて、ぴったりと肌をくっつけて、最奥に精子を叩きつけた。

(世界は終わってしまうかもしれないけど。お願い、シェラ。オレと一緒にいて……) 

 もうすぐ訪れてしまうかもしれない最期の日を思いながら、それでも自分の尊敬する団長たちのことを信じながら、オレたちはこの間違った関係を続けているのだ。シェラに他の男を想像してていいと言って、後ろからペニスをつっこんで願うのだ。

(オレのものになって……)

 ――ほんと、不毛。

 いつものように慰めあったあと、オレの横に転がっていたシェラが、ぽやんとした顔のまま言った。

「ねえ、あれどういうつもりで言ってんの?」

 服なんて最後に着たのはいつだったかもよくわからない。でも、素肌で触れ合って、お互い生きてることを感じながらぼんやりとする、そんな毛布の中の世界は、いつだってとても平和だ。
 なんのことだろうと思って、目を瞬かせていると、嫌そうな顔をしたシェラは続けた。

「僕が好きな人のこと考えながら、お前に抱かれてると思ってるわけ?」
「……え? だって、好きな人が抱いてくれないなら、お前だって人肌恋しいだろ」

 そう答えたオレに、シェラはさらに眉間の皺を深めた。

「ふうん。じゃあノルンは、世界が終わるから僕で我慢してるってこと?」

 そうだよって、いつもなら言ったはずだった。オレとシェラはそういう、ケンカっぽいことばっかり話してる間柄なのだから。でも、――こんな関係も、もうすぐ一年だ。
 もしかしたら、もう勇者様は死んでしまったかもしれない。世界は本当に終わってしまうかもしれない。
 オレもシェラも、その不安を拭いきれなくなっていた。意地を張ることもできなくなった弱いオレの口から、ぽろりと本音がもれた。

「……そんなこと、思ってないよ」
「じゃあ、どうして僕とするの」

 目を瞬かせているシェラは、オレの気持ちになんてまったく気がついていないだろう。こんな間違った関係の中で、そんなこと尋ねられたことはなかったけど、――そんなの。

(そんなの……好きだからに決まってる!)

 そう思ったとき、オレの中に、ぶわっといろんな感情が一気に込み上げた。
 もう一年近くもの時間が経っているのだ。魔王は倒せなかったのかもしれない。あんなに強かった団長も負けてしまったのかもしれない。

 ――このまま、世界は終わってしまうのかもしれない。

 シェラのことを守りたかった。守ってあげたかった。それでも、オレの力ではそれは叶いそうにない。それならせめて、一緒にいたい。この世界でなんとか生き延びることができても、世界が終わってしまうことになっても、どちらでも。

 最期の瞬間には好きな人と――。
 シェラと一緒にいたいんだ。

 ――伝えたい。

 騎士団に入団するまで、自分がずっと思っていた純粋な気持ちが、戻ってくるのは一瞬だった。オレは言いたかった。たとえシェラが他の男に恋焦がれていても、好きで、好きで、――好きだっていう気持ちを、伝えたかった。
 口の中がパサついた。喉が張りついたみたいで、声が掠れる。それでも、言おうと思った。世界が終わるというのなら、――。

「シェラ、オレ……お前のことが……す」

 カサついた声で、そう言いかけた、――その瞬間だった。
 バアアアンと大きな音が響いて、本当に世界が終わってしまったのかと一瞬思って、咄嗟にシェラを腕に抱きしめた。
 だけど、すぐにハッと気がつく。オレとシェラは顔を見合わせて、ガバッと起き上がると、勢いよくカーテンを開いた。

 そこには、いつだって夕方みたいになってしまった空に、煌めく流星群。
 美しい銀色の尾を引いた光の雨が、この世界へと降り注いでいた。
 こんな嘘みたいなことができる人間は、この世界で一人だけだった。

 オレもシェラも目を見開いて、息を呑んで固まった。この世のものとは思えない美しい光景が、それこそ信じられなくて、しばらく呆然としたまま、動けなかった。だけど、ちょうど同じくらいにオレたちの口から声がもれた。

「嘘……」
「まじかよ……」

 それは――。
 この世界の希望である勇者様たちの魔王討伐の合図――!

 世界は――、世界は。
 ――どうやら、救われた……みたいだ。

 オレとシェラは、思わず大声で叫んだ。過ぎた喜びをどう表現したらいいのかわからなかった。だから、オレたちの口をついて出たのは、お互いが心の底から敬愛する人物の名前だった。

「ヒュー様!」
「お、オーランド団長!!!」


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