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Metropolis 14
しおりを挟む結局僕は一度でも充分すぎる快楽だと思ったのに、落ち着いてくるとまた欲しくなって何度か抱いてもらった。ぐしゃぐしゃなシーツで目覚めた時、アベルが腕枕をしてくれていたので、とても安心した。ここに居るんだ。どこへも行ってない。
身体はアベルが綺麗にしてくれてあったけど、僕はシャワーを浴びて着替えた。今日は仕事探しに行く予定だったのに、もうすぐ日が暮れるし、こんな身体じゃとても無理だった。男娼だった身としては情けないことに、腰が抜けそうだ。セクサロイドは良いと聞いていたけど、噂以上だった。僕がアベルに抱いてほしいと思ったから余計に感じたのかもしれない。
「大丈夫ですか?カイン」
「なんとかね。けど今日はもう一日休もう。これじゃどうしようもない」
「そうですね」
僕はベッドに座ると、立っているアベルの腕を引いた。そのまま唇を重ねる。なんでこんな、恋人、みたいな、ことを。しているんだろう。でも、僕に触れたアベルの指先が、僕を見下ろしたアベルの瞳が、翻弄する唇が体温が、どうしようもなく記憶を呼び起こす。欲しいものをくれるアベルのその全てがプログラムなんだとしても、求めてしまっていた。
「どうしよう、アベル…」
「…なんです」
「ずっと触られてたい、アベルに…」
「カイン、」
「こんなの、おかしい、よな」
「私も貴方に触れていたい」
「アベル?」
いたい、というのは、希望では、ないのか、と。思ったけれど、きっとそれも、セクサロイドのプログラム。恋人のような、機械。
片腕で抱き締めてくれたアベルの首筋に、唇で触れる。セクサロイドの欠点があるとすれば、痕がつけられないこと。だからアベルと寝た奴はナイフを使ったのかもしれない。でも許せない。こんな綺麗な肌に、傷をつけたことも、そんな扱いをしたことも。
「明日はまず傷を治しに行こう、アベル」
「…はい」
+ + +
「おはようございます、カイン」
目覚めると、黒いシャツに黒いパンツを履いたアベルがにこやかに挨拶した。僕はアベルが居ることに安心して、微笑み返した。
アベルはもう朝食を近くで買ってきてくれていた。サンドイッチだ。紙コップのコーヒーを飲んで、朝の時間を過ごした。
「今日こそは仕事を探しに行かないとな」
「ああ、それならもう大丈夫ですよ」
気合を入れてそう言うと、アベルがあっさり言った。
「え、なんでだよ。そりゃしばらくは昨日のアベルので大丈夫だろうけど、旅を続けるなら足りないだろ」
僕がそう返すと、アベルは床に置いておいたらしい大きめのジェラルミンケースをテーブルに引き上げて、僕に向けて開いた。
「…!?」
そこには札束がぎっしりと詰まっている。
「なんだよこれ!」
「盗んできました」
「は!?」
「ギャングから。少し離れた通りを仕切っているギャングです。ストリートの住民はみかじめ料を盗られたり、薬の氾濫や暴力沙汰などが耐えなくて困っているとの情報を得ました。ファミリーの経営費を奪うのは合法ではありませんが悪ではないと判断しました」
「そんな、そんな大それたことして見つかったらどうすんだよ! ていうかなんでバレなかったんだ」
「事務所を突き止め、表の見張りを気絶させて催眠ガスを流し込みました」
「ガス?」
「そういった専門店で購入しました。防犯カメラはすべて破壊済みです。脚は付きません」
僕は溜息を吐いて片手で頭を抱えた。そんなに巧くいくものか。いや、いったんだとしても、次が有っては困る。
「アベル、あのさ…」
「はい」
「僕の為にアベルがいろいろしてくれるのは本当に感謝してるよ。僕はアベルがいなかったらとっくに捕まってたし、そうでなくても死んでたよ。僕が今ここに居るのは全部アベルのおかげだ。だけど、もうこういうことはやめてほしい」
「セックスはしていませんが…?」
「寝なければいいって話じゃないんだ。僕はもっと真っ当に生きたいんだよ、一般人並みなことをしてね。男娼はやめたいしギャングになるのも義賊になるのも望んでない。効率が悪くても、金が要るなら要るなりに真っ当な仕事をして気兼ねなく生きたいんだ。そりゃきっと簡単じゃないだろうし、こんな風に結局アベル頼りになってしまうのかもしれないよ。だけど、それでいいとは思ってないんだ」
「…そうでしたか…それは、申し訳ありませんでした」
「いや…有難いけどね。それにアベルには、こういう事はよく解んないんだろうし…でも兎に角、少なくとも僕に無断で行動を起こすのはやめてくれ。それが僕の為でも、僕が望んでるとは限らない」
「わかりました」
無表情に受け答えるアベルは、だけど僕の為になんてことをしてくれるんだろう。僕は椅子から立ち上がってアベルを抱き締めた。柔らかな髪が頬に触れる。
「何より僕は、心配なんだよ、アベル」
「心配…とは?」
「アベルは凄いアンドロイドだよ。人にはできない動きと速さを持ってるし、ボディもすごく丈夫な素材だ。だけど万一、壊れたりしたらどうしたらいいんだ。僕は独りなんだよ、アベル。アベルが居なかったら、生きていけない。生きていく気力だって湧かない。もしアベルが帰ってこなかったらって思ったら、怖くて仕方ない」
「カイン、」
「僕を独りにしないで…」
「…もうしません。貴方と、共に在ります」
遠慮がちに回された腕が、そっと僕の背を抱く。
「この街はもうやめよう。次の街はもうちょっと近いんだろう? バイクで行こう。せっかくあの人が僕等の為にくれたんだ」
「…私のせいですね。すみません」
「ううん。違うよ。僕等の為に、次の街へ行くんだ」
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