Alcatraz

noiz

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番外編

Sanvitalia*

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目を開けると、薄暗く狭い世界が見えた。

視界にある見慣れた無機質な風景をぼんやり眺めながら、覚醒していく意識が、微かに上下する感覚に気付いた。

セレッソは身を起こし、振り返る。枕にしていたのはラガルトの肩だった。上下する胸の動きが、僅かに伝わっていたようだ。こんな風に眠ってしまっていたのは不本意だったが、情交を終えてそのまま意識を手放したのだろう、不可抗力だ。

頬杖をついて、上下する胸や、整った顔を眺めていたセレッソの気配に気付いたように、不意にラガルトの目蓋が開く。ぼんやりと彷徨う視線は、しかしすぐにセレッソを捉えた。まだ意識の溶けているラガルトは、口を開くよりも先に、セレッソの姿を見つけて微笑んだ。

「  、」

セレッソの唇が、僅かに解ける。しかし、微かに息を吸い込んだだけで終わり、言葉は零れなかった。
ラガルトは甘ったるく瞳を溶かし、目を細め、唇端を上げ、掠れた声で、呼んだ。

「セレッソ、」

ほどけたままのセレッソの唇は、答えない。ラガルトの表情を瞳に受け取りながら、応えることができない。
ラガルトはセレッソの返事を待たず、セレッソの頭へ腕を伸ばし、そのまま自分の胸元へ抱え込んだ。セレッソの頬杖が崩れ、ラガルトの胸の刺青へ頬が触れる。

ラガルトはいつも、セレッソの返事を待たない。だからセレッソは、いつも応えなくて良かった。

「セレッソ」

ラガルトはもう一度名を呼んで、セレッソの髪を掻き上げた。そして米神や耳殻へキスをする。

「どうしたの」

顔を上げさせたセレッソの瞳を見つめて、ラガルトは微かに首を傾げる。

「…なにが」

やっと答えたセレッソの声に、ラガルトは穏やかに微笑む。

「なんでそんな切なそうな顔?」
「…は、」
「またなんか思い出したの」
「…違う。そんな顔してない」
「してる」
「…してない」

認めないセレッソの唇を、唇で塞ぐ。啄ばむようなキスを数回繰り返して、唇は離れていった。
こうしてまた、ラガルトはセレッソが応えるのを待たない。ラガルトは惜しみなく注ぐ愛撫で、セレッソの言葉を聞かない。それが拒んでいるのではなく、許しているのだと、セレッソは解っていた。だから言葉を、選ばずに居る。応えるなら声ではなく、唇で。言葉ではなく、この身体で。

自分の中身は、言葉にはならない。ラガルトの表情も愛撫も言葉も、どう思って何と受け止めていいのか、セレッソには解らない。ラガルトが、解らなくてもいいと、瞳で語りかけるから、いつも形を持たない。言葉にならないものは、思考どころか、感覚なのか感情なのかすら、曖昧なまま。それでも何も思っていないわけではない。何も感じていないわけではない。だから拒めなくなっていく。済し崩しになる自分の惰性の抵抗に、焦る。

胸元を通って腰へ下るラガルトの手を、振り払えずにシーツを掴む。そうするしかない。こうなるしかない。選択肢なんてない。あってもきっと、選べない。なに一つ。自分では選べない。

「俺は卑怯か? ラガルト」

セレッソがぽつりと落とした言葉に、ラガルトが顔を上げる。

「…なに言ってるの。卑怯なのは俺でしょ」
「そうじゃ、なくて」
「ううん。セレッソ。どうしたの。間違えないで。いつも通りに俺を叱って」

やさしく微笑いかけるラガルトに、セレッソは少しだけ眉根を寄せる。ラガルトは全て許す気でいるのだろう。けれど、ラガルトもきっと解っていないのだ。どちらも疎すぎた。監獄とは無縁の人間達が築くらしいものを。

「嫌だって、やめろって。ね。セレッソ。俺の我侭、そうして聞いて」
「お前が、そんなに、」

セックスばかりしたがるのは、なにも知らないから焦ってるんだろう。と、セレッソはやはり言葉にしない。しても、変わらない。行き場無く、燻るだけ。この狭い独房に充満していく。けれど出口なんて、なくていい。出られないと、知っているから。

「…さっき、したばっかりだろ」
「…うん」
「もう休ませろよ」
「…だめ。我慢できない」

付き合って。ラガルトがそう言って、視界から消える。そして、性器に唇付けられる。
言葉遊び。付き合ってほしいと、ラガルトが言うから、付き合ってやる。嫌だと拒みながら。そういう二人で、有り続ける。

「…ん…はぁ…」

性器に、睾丸に、亀頭に、何度も唇付けられる。微かに舌や歯が掠めていく。何度も、何度も。数分かもしれない。けれど数十分にも感じられた。ラガルトは何度も、唇で触れる。

「なん、で…」

柔らかく触れていくばかりの愛撫は、熱を上げるよりは包むようで、焦れる。激しさのないそれは、もどかしいばかりだ。セレッソはラガルトの髪へ手を入れ、その銀糸を掴む。

「なにが、したいんだ…」

セレッソが息を詰めてそう言うと、ラガルトは首を横に傾けて、性器の根元にキスをした。

「好きだよ、セレッソ」

獰猛な行為に乱されていない今、その言葉はやけにクリアに意識へ届いた。しかしセレッソがその言葉をしっかりと掴み、形に触れる前に、ラガルトは根元から先端へ舌を這わせた。

「…ッ…!」

辿り着いた先端を口内へ含み、ラガルトは熱を上げる為の愛撫を始めた。

―――ほら、いつも、応えを聴かないじゃないか。

粘膜に纏いつかれ、舌に扱かれる。裏筋を強く押し上げられ、先端を上顎へ擦られる。焦らされていた性器は角度を増し、脈が強まる。

「はぁっ…」

ラガルトは口から性器を離し、睾丸を柔らかく食み、舌で転がした。そうしながら、指を後ろへ伸ばす。湿ったそこへゆっくり挿入すると、セレッソの身体が少しだけ強張る。

性器を口で、後孔を指で、優しく愛撫していくと、セレッソは目を閉じて熱い吐息を漏らしていた。
至極ゆっくりと、前立腺を擦る。性器への舌のストロークと同じスピードで、丁寧に擦られる。

「ふっ…んんぅ…」

溶け切った瞳で、セレッソは薄く目蓋を開き、ラガルトを見下ろした。ラガルトはセレッソを見つめ返し、性器の先端と前立腺を、それぞれ同時に強く抉った。

「あぁッ…!」

セレッソはシーツを引き寄せて、身を捩る。ラガルトは性器を離し、後孔から指を引き抜くと、セレッソの脚を開かせて自分の勃ち上がった性器を宛がった。

「ん、く、ぅ…!」

ラガルトの性器を受け入れながら、セレッソは呼吸を詰める。ラガルトは根元まで納めた性器を、すぐに引く。

「あッ…!」

亀頭を残して一気に抜かれたそれが、またすぐに戻ってくる。ラガルトは、遅すぎず早すぎない、一定の前後運動を繰り返した。それはラガルトの性器を感じるのに充分な速度であり、自分の内部がラガルトの形に押し込まれ、また吸い付くのがよく解った。乱暴に突き込まれるよりも、その感覚に何故か焦る。セレッソはシーツを固く握り締めた。

しかしセレッソのその手を、ラガルトが解かせる。そうして、自分の手と重ねた。セレッソは、ラガルトの掌を握り返す。

「いや、だ…!」

こんな風に、握っていたくない。振りほどいてしまいたい。
けれどラガルトが握り込んでいては離せなかった。衝撃が抜ける度、強く握り返してしまう。

「う、んんッ…はぁっ…」
「セレッソ…」
「ラガ、ルト…!」
「…なに、」
「もっ、と…突け…よ…!」

喰らいつくような激しさの無いラガルトのやり方に、セレッソが焦燥を訴える。
乱れた呼吸から漏れ出たセレッソの言葉に、ラガルトは目を細めて唇を舐めた。そして握っていたセレッソの手を取り、自分の首へ回させる。ラガルトの片手はベッドへ、もう片方の手はセレッソの脚を掴んだ。セレッソはその行動に予感した、強い刺激を待って目を閉じる。

「んぁッ…!」

ラガルトはセレッソの腰を引き寄せ、最奥まで突き込む。激しく腰を前後させ、角度をつけて前立腺を抉った。

「あぁっあッ…は、あぁッ…!」

ガクガクと揺さ振られるセレッソの喉から嬌声が上がる。激しい突き込みに、反射的に逃げようとするセレッソの腰を、尚も引き寄せてラガルトが笑う。

「煽ったんだから、逃げないで。ちゃんと受け止めて…」
「あっ…待っ…」
「今更…待ってなんて言うの?」
「ラ、ガルト…ッ…!」
「ね、ほら。ここ。もっと突いてあげる。セレッソが好きなとこ」
「いや、だ…もッ…!」
「だから感じて。セレッソ…」
「あ、あぁぁッ…ぅ、あ、あぁッ…んぅッ…!」

セレッソの濡れた性器の先端を強く擦りながら、ラガルトは腰を小刻みに揺らす。前立腺を強く刺激され、セレッソは仰け反った。ビクビクと震えるセレッソの身体を押さえつけ、ラガルトは尚も角度を変えてピストンする。よがるセレッソの声を聞きながら、ラガルトも呼吸を乱した。絡みつく粘膜を荒らし回るのは、ひどく心地良い。燃えそうな熱を更に摩擦し、いちばん奥まで突き上げる。そうしてセレッソの望む速さで、絶頂へ駆け上る。

「セレッソ、イこうか…」
「う、ん、んんッ…あ、あぁッ…!」

耳元へ囁いて、ラガルトはセレッソを片手で抱き締めた。そして大きくストロークし、何度か強く奥へ穿ち込むと、中へ欲望を吐き出した。

「は、ぁ…ん、あぁ…」

甘く呼吸するセレッソに優しく唇付けて、ラガルトはベッドへ崩れる。セレッソを抱き締めて、首筋にキスをする。

「寝て。今度はちゃんと…」
「…ラガルト……」

セレッソは忙しない呼吸のまま、ラガルトの名を呼んだ。けれど続く言葉は無い。なにか言いたげに唇を開いたが、そのまま閉じて瞼を伏せた。力を抜いて横たわったセレッソが眠りに落ちたのを感じ、ラガルトはセレッソを抱いて首筋に顔を埋める。

「セレッソはやっぱり、"お兄さん"なんだろうなぁ…」

ラガルトが、呟く。

「なにも考えないで、俺の下でよがっててよ…」

強く、抱き締める。溶けてしまいたくなる温度。

「どこへもいかないで」

逃げ道のないはずの独房に、ラガルトの小さな声が、響いた。



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