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番外編
hickey*
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「おい、今なに飲ませた」
ラガルトがいつも通りに仕掛けた深いキスに、ピアスではない異物感あった。押し返した肩も、体重を掛けられてしまえば抵抗できない。押し倒された時に喉に流れたそれは、明らかに何かの薬だった。
「危ないヤツじゃないよ」
「信用ないな…」
どうせそっちの薬だろうと思ったが、飲んでしまったものは仕方ない。ラガルトの好きにさせれば、慣れた愛撫が降ってきた。
けれど普段よりも軽い触れ合いが多く、時間稼ぎをされているなとセレッソが察した時、ラガルトが首筋から耳元を舐め上げた。
「ん…」
背筋を甘い痺れが駆け上がり、脳天を抜けていった。セレッソが見せた反応を見落とさず、ラガルトは少しだけ嬉しそうな瞳をした。
「回ってきた?」
セレッソが返事をしないと解っているラガルトは、形だけの問いをしてから、肌に這わせた指先に熱を込めていった。
「はぁ、んん…」
熱に浮かされたようなセレッソの瞳が、溶け出して徐々に焦点を曖昧にしていく。同じように意識も動きも緩慢になる。快楽にだけは敏感に反応しながら、ラガルトの施すひとつひとつに身を震わせていた。しかしこういう時に限って荒々しい貪る愛撫は与えられない。もどかしいような愛撫ばかりが肌を撫で、欲望が漣になる。強く激しい愛撫を知っている身体は貪欲に先をねだった。セレッソはそれをなんとかやり過すために、せつなげに身を捩る。
「う、んッ…ラガルト…」
「…そんな目で見るなよセレッソ。自制できなくなる」
「…自制? そんなの…なんで…はぁっ…」
言葉を紡ぐために一呼吸整えたのに、やはり途中で途切れてしまう。腰から湧き上がる悦楽が、どうしても呼吸を乱した。
「今日はすることがあるんだよ」
「する、こと…?」
「待ってて」
砂糖入りのカクテルのように甘い囁き方でそう言って、ラガルトはセレッソの視界の外で何かしていた。やがて視界に戻ったラガルトが、セレッソの米神にひとつキスをした。
「今日は時間がかかるけど…ずっと感じていて…」
「…なに、」
またさんざん焦らされるのかと、眉根を切なく寄せたセレッソが縋るような瞳をした。それに苦笑して、ラガルトはセレッソの腰骨を撫でた。
「イキたくなったらちゃんとイかせてあげる。今日はここにね…俺を刻むんだ」
「…ピアス…?」
ボディピアスにしては妙なところだと思い、怪訝な顔をした。しかしラガルトは首を振る。
「綺麗に描くから楽しみにしてて」
その言葉にこの先を察したセレッソは、どうにもならない溜息を吐いて、閉じた目蓋に片腕を乗せた。
+++
「痛い?」
痛くないわけではない。けれど、何度か絶頂に引き上げられ薬に脱力した身体は、痛みと快楽の区別がつかなくなっていた。確かな痛みが何故か甘く、何度も細かく皮膚を刺す針が、愛撫に替わっていく。身体に時折降るラガルトの唇や、肌を這う舌がやけに優しくもどかしくて、腰を揺らさないようにするのに必死だった。荒い呼吸をなんとか整えようとして、涙が滲んだ。微かな血の匂いと火傷のような痛みを感じながら、けれど甘ったるい痺れが何度も背筋を昇り、甘く這うようなラガルトの声が、卑猥な言葉を落としていった。
「悦さそうだね…またイキそうなの? セレッソ…」
「う、あ…あぁ…んっ…はぁ、ぁ…」
「今更だけどさ、セレッソってマゾの素質あるよね」
「…薬の…せいだ…」
「ダメだよセレッソ。そこは俺のせいだって言ってくれないと」
ラガルトはささやかに笑いながら、針を肌に刺していく。そうするたびに、肌は血とインクに染まっていった。
「今度は鞭でも使ってみる? それとも蝋燭とか…」
楽しそうに言うラガルトに、セレッソは力無く首を振った。熱い吐息が漏れる。
「冗談だよ…」
「んっ…はぁ、あ…も、ラガル、ト…」
「限界? 仕方ないな」
ラガルトはセレッソの熱い性器を掴むと、馴れた手付きで弱いところばかりを強く愛撫した。軽く爪を引っ掛けてみたり、根元から扱き上げて先端を指で激しく擦ってみせる。
「ああっ…あ、あぁ…んっ…はぁ…あぁぁ…!」
すでに濡れているそこから、再び蜜を吐き出して、セレッソは呼吸を荒くした。
「も…そこ、ばっか…」
「…なに、挿れてほしいの?」
ラガルトが顔を上げて微笑む。頷くこともできずに、セレッソはラガルトを睨んだ。今日はまだ前しか触られていないのだ。いつも与えられる身を裂くような快楽を、奥で欲しがっている。
「俺も結構辛いんだけどね…もうちょっとだから、待って」
子供に言い聞かせるように言ったラガルトが、セレッソの唇にキスをする。舌で粘膜を撫でて、熱い口内を舐めあう。溶け出しそうな快楽は、余計に腰を疼かせただけだった。糸を引いて離れた唇を舐めて、ラガルトは離れてしまう。そしてまた作業に戻る。痛みを感じさせない為か、途中針を持っていない方の手で肌を愛撫していくので、そんな半端なことをされるくらいなら痛い方がマシだとセレッソは叫びたくなった。それでも甘い吐息を吐き出しただけで、セレッソはされるままにシーツに磔られていた。痛みよりも快楽に耐えながら、白いシーツを掴む。
「あ、はぁ…ぁ、あぁ…んん…ぁ…」
火傷のように痛む熱さと、身の震える悦楽に苛まれる。
「うぅ…ん…はぁ…も、嫌、だ…ラガルト…」
セレッソが再び絶頂を訴えて涙声で弱音を吐いた時、ラガルトは漸く針を置いた。
「うん。できたよ」
ラガルトはシーツに沈んだセレッソの身体を片腕で抱き上げて、肩口に顔を埋めるようにして首筋にキスをした。そしてそのまま支えた腕をセレッソの腰へ降ろして、奥への入口に触れた。セレッソは無意識に期待の吐息を漏らす。それに微笑って、ラガルトは閉ざされていたそこへ白濁に濡れた指先を挿れた。
「あぁぁ…あぁッ…はぁ…」
「やっと入れる」
乱れながら針を受けるセレッソの姿に堪えていたのはラガルトも同じだ。何度か余裕のない愛撫で解してから、自分のものを宛がった。
「う、あ、あぁぁ…!」
待ち望んでいた内部へ、前立腺を擦り上げながらラガルトの熱が突き刺さる。一気に奥まで挿れられ、セレッソは悲鳴をあげた。馴れるのを待つ余裕も無く、ラガルトが荒く動き出す。
「んっ…セレッソ…締めすぎ…」
「は、あっ…あぁ…あぁぁ」
ラガルトの訴えを聞ける意識もなく、セレッソはひっきりなしに甘い声を上げた。
熱く絡みつく中に持っていかれそうになりながら、ラガルトは息を詰めて腰を揺らした。入口から奥まで大きく動かし、乱暴に腰を打ち付ける。前立腺を先端で刺激し、奥を小刻みに荒らした。
「あぁぁっ…あっあぁ…ふ、あ…あ、んんッ…あぁ…!」
迫る絶頂に至るために、ラガルトはセレッソの性器を強く扱き上げ、敏感な先端を容赦なく擦った。
「あぁっ…! だめ、だ…あ、はぁっ…んっ…」
「いいよ、俺も長く持たないから…」
「ラガルトッ…!」
甘く擦れた声でラガルトが囁くと、セレッソ身の内に燻る切ない感覚を吐き出したいと縋る。
ラガルトはセレッソの片脚を抱え上げ、結合を深いものにする。衝動のままに強く打ち付けると、あまりの感覚にセレッソが意識を白く飛ばした。ラガルトも吐息を漏らして、強い締め付けに高ぶった熱を吐き出した。
脱力したセレッソの肩が、荒い呼吸で上下している。腕の中のセレッソにそっと唇だけのキスをしてから、ラガルトも乱れた息を整えた。
「ん…ラガルト…」
数分と経たないうちに、セレッソは覚醒し、ラガルトの髪を力の入らない指先でひっぱるようにした。
「薬は抜けた?」
「…ん…たぶん…」
まだ緩慢な様子で居るセレッソに微笑みかけて、ラガルトはセレッソの上半身を起こした。
「ほら、綺麗だろ」
示されたのは執拗に針を刺された肌で、見下ろした自身の腰骨に沿って腹に桜を絡めた蜥蜴が這っていた。
「単純。」
セレッソは気の無さそうに憎まれ口を叩いたが、どことなく瞳が綻んでいるのにラガルトは気付いていた。
「解りやすい方がいいんだ。すぐ俺のって解る」
「そんなとこじゃ見えないだろ」
「ならいっそ顔に刺れるか?」
「馬鹿いうな」
惰性を彩るその針で、肌に色を挿しただけ、自分自身を愛せるだろうか。
誰かの執着を生きる意味に代えてしまうのは、麻薬的だと自覚しながら。
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