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しおりを挟む>> entrance
「此処まで来てこれかよ」
ディズが、乾いた笑いを零す。
辿り着いたエントランスホールは、感染者でごった返していた。
「いつの間にこんなに涌いたんだかなァ」
硝子越しにゾンビ集団を眺めながら、フィーゾはアウターのポケットから煙草を出した。
強化硝子の扉のキーを解除すれば、エントランスホールに入れる。此処を突破すれば、ハマーまですぐだ。
「今から上行ってもヘリは出た後だろうな」
「この後に及んで篭城か?」
「……ごめんだな」
フィーゾに差し出された煙草の箱から、一本受け取る。ディズはそれを口へ咥えた。自分の煙草に火を点けてから、フィーゾはライターをディズに放った。
二人の煙草から、紫煙が立ち昇る。
「煙草、調達しねぇとな」
ディズにやった一本が最後だった。フィーゾは紙箱を握り潰し、投げ棄てる。
「死活問題だな」
煙の呼吸が、空間を漂う。その時だけは、まるで時間が留まったように。
ニコチン仕込みの、沈黙を味わう。
根元まで灰になった時、二人は煙草を足元へ落とした。留まった時間が、動き出す。
そして、銃に手を掛けた。
「ゾンビのバトルロイヤルにようこそってなァ!」
ナンバーを打ち込まれたキーが、ロックを解除する。
ディズの声と共に、エントランスホールの扉が開いた。
+++
>> F8
「セレッソ、本当に――これでいいの?」
ラガルトがそう尋ねても、セレッソの意志は変わらない。
「お前から逃げようなんて気は、随分前に棄ててきたさ」
セレッソが目を細めて、微かに笑った。ラガルトは、困ったように首を傾げる。
「俺、セレッソを殺しちゃうよ」
「……ずっと、」
セレッソは、ラガルトの腕を取って引き寄せた。ラガルトが、セレッソの顔の横へ手を付く。
「そうしたかったんだろ?」
扉に背を預けたセレッソが、ラガルトにそう言った。
+++
「ん、あッ…ふ、ぅ、んッ…!」
一秒すら惜しいというように、性急な愛撫だった。ラガルトの指先がセレッソの肌を撫で、もう片方の手で性器を扱く。根元から先端まで捏ね上げられ、袋を揉みしだかれる。引っ掛かりに軽く爪を立てられ、鋭い刺激に声を上げた。
不意にラガルトが視界から消えると、次には性器に温かく濡れた感触があった。
「あっ、ラガルトッ…!」
思わぬ感覚に腰を引いたセレッソだが、扉に背を預けている今、逃げられるはずもない。ラガルトはセレッソの性器を慈しむように口に含み、強く舌で撫で擦る。喉まで咥え込み、吸い上げた。
「ん、はぁッ…は、ぁ…」
ラガルトの熱い口内の粘膜が擦れるたび、甘い痺れが腰から広がっていく。先端を小刻みに舌で擦られると、たまらない。わざと歯を当てて裏筋を刺激されると、セレッソが仰け反った。
「う、ぁ…は、あぁッ…!」
強く吸い上げられ、セレッソが絶頂を迎える。白い解放感に、息を吐く。
立ち上がったラガルトは口内に吐き出された精液を自身の指で掬い取り、セレッソの後ろへ塗りつけた。そのまま滑る指先を中へ侵入させる。いつもより少し乱暴に、中を荒された。焦ったような指先が、時間が無いと告げているようで。セレッソは眉根を寄せてその感覚に耐える。これが最後のセックスになるのだと、全身で、感じていた。
「ふ、あ、あぁッ…んッ…!」
中を解していた指が、前立腺を刺激した。快楽を馴染ませるように、ラガルトはそこに丁寧に触れた。前立腺の手ごたえを、指先で抉る。そのゆっくりと惜しむような触れ方に、セレッソは身を震わせた。
「んぁ、あぁぁ…はぁ、ぁ…」
「セレッソの好きなとこはね、俺の好きなとこだよ」
「う、あ、そこ、やめ、あぁッ…んぅ!」
「セレッソが啼いて乱れて、俺に縋るとこ…」
「ふ、あッ…うぅ、ん…あぁッ」
「セレッソの性感帯は、俺の性感帯だ…」
吐息混じりにそう呟いたラガルトは、まだそうしていたいと言うように、名残惜しく壁を撫でながら指を引き抜いた。セレッソはその指を追ってしまいたくなった。けれど、次に与えられる熱を求めて、荒い呼吸を繰り返し待つ。
「挿れるよ、セレッソ…」
「はや、く……ん、んぁ、あ、あぁぁ!」
ラガルトは一息に最奥まで突き入れ、息を詰めて身を止めた。扉へ付いた片手を握り締め、絡みつくセレッソの内部を感じていた。ラガルトの性器を受け入れたセレッソは、馴染み切るのも待てないというように、腰を揺らめかせた。
「ラガルトッ…!」
「セレッソ…!」
その刺激に耐え切れなくなったラガルトが、セレッソの片足を掴み上げて腰を打ちつけた。
「あぁッ…!」
激しい突き上げに、セレッソが悲鳴を上げる。止められない欲望のままに、ラガルトは乱暴にセレッソを揺さ振った。何度も腰を打ちつけ、息を乱す。
「は、あ、あぁぁッ…あ、うぁ、は、んぅ…!」
「セレッソ…愛してる…ッ…」
ピストンを緩めて、腰を回す。性器で熱い壁を掻き回し、絡み付く粘膜に貪られるような感覚に、ラガルトは眉根を寄せた。
「ああぁッ…あ、う、んんッ…」
「愛してる……!」
叫びだしたいほど、衝動的な熱い感情が、全てを焼き尽くす。血を吐くように愛を囁いても、たりない。この繋がった身体に、溶けてしまいたい。
ゆるゆると前立腺に先端を擦り付け、ラガルトはセレッソを味わう。ひとつの感覚も忘れまいとするように、確かな感触を辿って前立腺を抉る。
「あぁ、ぁ…!は、うぁ、んッ…ふ、あぁ…!」
前立腺の形を確かめるような愛撫は、強すぎる悦楽を連れて来る。セレッソが快楽をやり過ごそうと、首を振る。深紅の髪が散り、悶えるセレッソの頭に、ラガルトが頬を寄せる。
「あぁ…んぁッ…く、はぁっ…」
脳髄を走る快楽に、二人は、歯を食いしばって耐えた。
「セレッソ…セレッソ…!」
「…あ、はぁ、ん…ラガ、ルトッ…!」
何度も、名前を呼んだ。存在を求めた。熱を追って、今を、快楽を、この感覚の全てを噛み締めた。
「ひ、あぁッ!」
腰を引いて、抜けかけた性器をまた突き立てる。長いストロークに最奥まで壁を擦り上げられ、セレッソはひどく乱れる。
「う、あぁぁ…あ、あぁッ…ん、や、あぁぁ!」
あまりの刺激に達すると、強い刺激にラガルトも中へ熱を吐き出す。しかし粘着質な音を立てて、すぐにまた抜き差しが始まった。敏感に震えるセレッソの身体に、止まらない高ぶりが叩きつけられる。精液が泡立つほど、激しく打ち付けられた。
「あぁ、ん、あっあっ…ラガルトッ…あぁぁッ!」
快楽に狂ってしまいたいと、全身で叫ぶ。ラガルトは、衝動的にセレッソの性器に手を伸ばすと、濡れた先端を指先で擦った。
「く、あぁぁ!や、あ、ダ、メ…だ…あ、あぁッ…!」
首筋に吸い付かれ、性器を揉み込まれ、中を抉られ、セレッソは身悶える。快楽しか、感じない。痛みのように鮮烈な、暴力的な快楽。もう、頭がおかしくなっている。きっと、狂ってる。
「セレッソ…はぁ、ぁ…俺、もう…」
「はっ…ん、ぁ…ラガルトッ…!」
「限、界…みた、い…」
ラガルトは快楽に狂った頭で、しかしそれとは違う何かに意識を持っていかれるのを感じていた。その焦燥感と、ギリギリの場所で抗いながら、言った。
「俺、もう、セレッソ…!」
「ラガルト…俺を、」
セレッソが、ラガルトの頭を両手で掴んで言った。
「俺を、喰え」
快楽か、それとも終わりの予感からか、セレッソの瞳から、涙が伝う。シンクロしたように、ラガルトの瞳からも、涙が一筋頬を流れた。
「ごめん。セレッソ」
掻き抱くように、セレッソの頭に腕を回した。そして耳元へ、囁く。
「セレッソを、食べるよ」
ラガルトの首筋に凭れて、セレッソは微笑った。
「……残すなよ」
そして意識を乗っ取られたラガルトが、セレッソの首に牙を剥いた。
+++
>> Escape
「ハル! ソウ!」
鼓膜の全てを支配するような、暴力的な音が屋上に響いた。
曇天の空を背に、愛琉が大声で呼び掛ける。
後方に迫る感染者達を撃ち抜き、ハルはソウを先に行かせた。
降りてきたヘリに立っている愛琉が、思い切り手を伸ばしてソウの腕を掴む。
愛琉は持てる力の全てを出し切ってソウを引っ張り上げた。
「ハル!」
体勢を整えたソウが、ハルに片手を伸ばす。
感染者に意識を向けながらも、ハルはソウに腕を伸ばした。
銃声とヘリの暴音の中、ハルはソウの手を、確かに掴んだ。
「ハル、しっかり!」
ソウの身体を抱き締めて支えながら、愛琉が叫ぶ。上昇していくヘリに、ハルは引き上げられていく。
「ソウ!」
渾身の力でハルを引き上げ、反動でハルはソウに雪崩れた。
「ソウ、ソウ、僕等…!」
「ああ、」
生きてる。
たったそれだけの事に、涙が流れた。
ソウの身体を抱き締めて、命を噛み締めた。
ヘリは空を上昇していく。退廃と空虚の死んだ世界を見下ろし、それは選ばれた命を乗せた箱舟のように、曇天を泳ぐ。
この世の果てまでも、飛んでいく――。
20120401
April fool
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