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しおりを挟む>> Shower Room
退廃の空間に、水音が響く。切れかかった電灯は明滅し、不安定な照明だ。
寒い季節ではないのが幸いだった。頭から水を浴びながら、ディズはふと簡易扉の向こうに居るはずのフィーゾへ声を掛けた。
「おい、フィーゾ。ちゃんと見張っとけよ?」
物音も返事も無い。ディズはもう一度声を掛けた。
「おい」
振り返った視線の先、扉が揺れた。
それを認めた一瞬で、ディズは台へ置いていた銃を手にして構える。
「フィーゾ、」
構えた銃ごと、すぐに腕を取られていた。眼前に、フィーゾが迫る。
壁に押し付けられ、ディズは眉を寄せた。
「テメェ悪フザけも大概にしろよな」
「お前こそ、俺が感染者だったら無傷じゃすまねぇぞ」
「死体がテメェみてぇに速く動くかよ」
シャワーヘッドから流れる水が、二人を濡らしていく。水の生臭さや錆の臭いがあった。
フィーゾの着ている衣服が、水を含んで重くなる。
「……離せよ」
それに答えず、フィーゾはディズの首筋に唇を落とした。
「……フィーゾ」
ディズは制止するようにもう一度言ったが、次には剥き出しの性器を掴まれ息を詰める。
「…はッ…ん、……」
力が抜けても、フィーゾに掴まれたままの腕の銃は、辛うじて落とさなかった。
フィーゾは握った性器を掌で擦り、時折かるく爪を立てる。それが微かに鋭い刺激を生み、ディズの背を駆け抜けていった。弱い場所を知り尽くしているフィーゾの愛撫に、息が上がるのは容易だ。
「あいつ……」
乱れる呼吸を堪えながら、ディズはぽつりと呟く。
「銀髪の、」
「……あぁ」
「強ェ……だろ」
「……だな」
「引き、入れる、つもり…かよッ……」
ディズの言葉に、胸元の蝶の刺青へ舌を這わせていたフィーゾは顔を上げる。
引き入れる、組織など。もう無い。
生き残った部下は他に居ない。つまりディズは、フィーゾの護衛の立場に引き入れるつもりかと、暗に問うている。フィーゾは、口端を上げた。
「あの男が他人の下につくタマか?」
「…け、ど……あッ!」
フィーゾの指先が、奥を暴き出す。
「殺り合う価値は有りそうだが……まァ、あいつの戦闘見てるだけでも……」
イケそうだな。
そう笑んだフィーゾに、ディズは縋りつく。
体内を探る指先に、身を震わせた。
エントランスホールでの戦闘で、一番目立っていたのはアベル。しかし二人の目を引いた人間は間違いなくラガルトだ。アベルはアンドロイドで、あの動きは当然のものだ。
しかしラガルトの無駄の無い動きは流れるようで、力の往なし方はフィーゾにも似ていた。簡単に視界から消え、次にはもう致命傷を喰らっているような。
感染者達は首を掴まれ、鈍器として扱われた銃の底で頭を潰されていった。所作はフィーゾに似ていたが、フィーゾは銃の扱いが主だ。もし二人が組めば、接近戦はラガルト、援護射撃にフィーゾ。完璧な連携が取れるだろう。
「変、態…野郎…ッ…俺は……性欲処理かッ…ての」
「ずっとそうだろ」
「あ、ぅ、あぁ…ッ…本人に、相手、させろ…よ…」
「…テメェが拗ねんだろうが」
小馬鹿にしたようにフィーゾが笑う。ディズは舌打ちしたくなったが、それでも縋りついているしかない。いつの間にか解放されていた銃を持ったままの腕すら、フィーゾの首に回っていた。
「あいつは護衛には使えねぇよ……」
耳元に囁かれたその言葉に、ディズは何も返せないまま、与えられた刺激にフィーゾの首筋へピンクの髪を擦り付けた。
指が抜かれ、片脚を抱えられると、フィーゾの性器が挿入ってくる。銃を取り落としそうになりながら、そして握りこんでしまわないよう必死になりながら、ディズはフィーゾの熱を受け入れた。
「あっあァッ…んッはぁ……」
「…ッ…」
吐息を漏らすフィーゾの情欲は、戦闘から来る熱だ。気が触れている。しかしそれはディズも同じだった。世界そのものが敵となった今、毎日が殺し合いだ。今この瞬間にも、命をもぎ取られるかもしれない。その状況に、どうしようもなく興奮する。刃の上を歩くような一瞬の連続に。
ディズの性器からは先走りが滴り、フィーゾは欲望のままに強く腰を打ち付けた。
「あぁぁッ…は、ああ…ん、ふ、うぁ…あぁ…!」
長いストロークで突き込まれ、強い快楽に夢中になっていた時、フィーゾが舌打ちした。朦朧とする意識でディズがそれを疑問に思った瞬間、ずるりと性器が抜けていった。
「あ、なんッ…フィー、ゾ…!」
絶頂に駆け上がっていたところで唐突に快楽を奪われ、ディズが非難の声を上げる。フィーゾは腿に付けていたホルスターから銃を抜き出し振り返ると、簡易扉から現れた犬へ弾丸を撃ち込んだ。腐乱した犬は短く悲鳴を上げ、額にたった一発を受け絶命し、本当の屍となった。
フィーゾはディズの腕を掴むなり床へ押し倒し、脚を抱え上げてもう一度深く性器を突き入れた。
「は、ぁぁッ…!」
床に散らばったピンクの髪が、水に泳ぐ。床に打ち付ける水音が、溺れるように近い。覆い被さるフィーゾが、シャワーの雨を背で受け止めていた。ディズが水を被ることはなかったが、フィーゾの白金の髪から、雫が滴り落ちては肌に散った。ディズは額に片腕を置き、乱暴な衝撃をやり過ごすように声を上げる。
「あ、あッ…! んぁッ…はぁ、あ…」
会話など無く、ひたすらに性感を貪る。身体を支配する燻る熱に理性を明け渡し、フィーゾはディズの内部を思うさま荒らし回った。
「は、あぁッ、う、んんッあッ…!」
激しいピストンに溺れ、ディズはもう銃から手を離していた。快楽に理性を蝕まれ、人形のように揺さぶられる。柔らかく過敏な場所を貫かれると、容赦ない快楽が五感を奪う。
フィーゾは息を乱しながら、腐乱した犬の放つ腐臭を感じていた。頭が腐っていきそうな快楽を体感しながら、ディズの前立腺を抉る。
「うあ、あっ…あっあっ…ん、くぅ、あッ…フィーゾッ!」
「…はぁ…ッ…」
「あ、イイッ…フィーゾ…そ、こ…あぁ、あッ…」
フィーゾは快楽に耐えるように眉根を寄せ、ディズの言う場所を小刻みに突く。
「あぁッん、あぁ…!も、イ、ク…あぁ、あ、はぁぁッ…!」
ディズは耐え切れずに熱を破裂させた。飛び散る白濁が、排水溝に飲まれていく。
「あッ! 嫌、だ、まだ……んんぅ…クッ… は、あぁ…」
余韻に震えるディズに構うことなく、フィーゾは腰を止めなかった。酷い快楽に悲鳴を上げるディズの腰を掴み、ヒクつく粘膜に容赦なく打ち付ける。
「ふ、あッや、め、あぁッやめ、ろ、フィーゾ…! は、あぁぁッ…!」
髪を振り乱して身悶えるディズの嬌声が、無機質なシャワールームに響いた。
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>> Another Room
「セレッソ」
他の生存者達が集まる部屋の隣。誰もいない部屋で、ラガルトはセレッソの背を抱いていた。抵抗するのもバカバカしいほど、こんな状況に慣れているセレッソは、背中をラガルトの胸へ預けていた。
窓からは月明かりだけが入り、静かだ。
「お前、あまり勝手なことばかりするなよ」
セレッソは、静寂に馴染む声でそう言った。
「せっかく他の生存者が見つかったんだ。あいつ等だけでも、逃がしてやりたい」
「…セレッソ以外は、俺はどうでもいいよ」
「……どうしてお前はそうなんだ」
セレッソが、溜息を吐く。
「いっそ皆死んで、俺とセレッソだけになったら、それもいいかもね」
「…。俺はごめんだ」
疲れたように言うセレッソに、ラガルトが薄く笑う。
「死んでるのに生きてる奴等が、前より解りやすくなっただけだ。俺には、もうずっと前から、世界なんか無い」
「ラガルト、」
「セレッソが、好きだよ」
首筋に触れた唇が、いつもより長い時間そこに留まった。そして、深紅の髪に擦り付けるようにして、ラガルトはセレッソの肩へ顎を乗せた。
「セレッソは、俺が守るからね」
甘く囁かれた声に、何も言えなくなる。ラガルトの鼓動を、ただ背に感じている気がした。
「最後の一人になっても。俺は絶対、このまま傍にいるから」
「ラガルト……」
「……キスしてもいい?」
どうして、そんな事を訊くのか。
いつもは確認などせずとも、無理やりにでも抱くラガルトが、何故か許可を求めた。
ひとつ頷くだけのことが、セレッソには出来ない。しかし拒絶もない。無言を肯定を受け取ったラガルトはセレッソにキスをした。丁寧に触れるキスが、やがて熱を生んでいく。
銃弾も食料も、どうだっていい。今はただ、この体温を確かめていたい。
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