噂の補佐君

さっすん

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実に寝不足である。

誰もいないのをいい事に、俺は隠さず大きなあくびをした。

目尻の涙を拭い、机に突っ伏す。


昨日の捺の件で全く眠れなかった俺は、寝るのを諦め、朝の四時にベッドから起き上がった。

朝食を済ませ、身支度を整えた後、少し勉強してから俺は部屋を出て学校に行った。

正直部屋にいるだけ思い出してしまうから、困ったものだ。

捺のあの告白が冗談ではない事くらい分かってる。

冗談で済ませるにはいろいろ過剰だと思うからだ。


昇降口で靴を履き替えると、宿直室に向かう。

職員室の鍵も、教室の鍵も、生徒会室の鍵も俺は持っていない。

だから、宿直の先生にどれかの鍵をもらおうと思ったのだ。

宿直室のドアをノックするとはーいとあくび混じりの声が返ってきた。


「え、佐野?」

広尾ひろお先生……」


ドアが開いて顔を出したのは俺の担任である広尾なお先生だった。

予想外の俺に広尾先生は目をパチパチとさせて驚いている。


広尾先生は野球少年のように短い髪でさっぱりとした印象の若々しい数学の先生だ。

実際24歳で若いのだけど。

でも正直高校生と言っても疑われないと思う。


「早くないか?まだ六時前だぞ?」

「すみません……」


理由は説明出来ずただ謝る。

広尾先生は心配そうに俺を見ているが、理由は聞かなかった。


「佐野、目の下にくま出来てる。
昨日眠れなかったんだな」

「んっ」


そっと俺の目の下を撫でる広尾先生。

くすぐったくて、俺は思わず声を漏らした。


「良かったら寝ていかないか?」

「えっ?」

「ほら、入って!」


グイグイと手を引かれ、俺は宿直室に入らされる。

中は勉強机とベッドがあるだけだった。

広尾先生は俺をベッドに寝かせ、布団をかけてくれた。


「一時間後に起こすから、それまで寝てな」


びっくりして動けない俺のネクタイを緩め、ワイシャツの第二ボタンまで外す。

きっと寝苦しくないようにする為の配慮だ。

ここまでしてもらってなんだが、パッチリと目は覚めてしまっている為、眠気は全くない。


「あの、先生……」

「どうかしたか?佐野。
眠れないなら手握っててやろうか?」


そう言って広尾先生はギュッと俺の手を握った。

広尾先生の手は温かくてなんだかホッとしてしまう。

……眠くなってきたかも……。

俺って単純だな、と呆れながらもうとうとしてしまう。

反応をしない俺を不審に思ったのか、広尾先生は顔を覗き込んだ。


「手握られるの嫌なら嫌って言ってな」


俺の手を握る広尾先生の手からだんだん力が抜けていく。

それに対して俺は掴まえるかのように広尾先生の手を強く握った。


「気持ちいいので、握っててもらえませんか……?」


ちょっと恥ずかしい。

けれど、今はそんな事よりもこの温かな手が離れていく方が嫌だ。

そんな俺を見て、また目をパチパチさせる広尾先生。

しかしすぐに優しく笑って、分かった、と手を握り返してくれた。


広尾先生は握っていない方の手で俺の頭を優しく撫で続けてくれた。

それもすごく心地よくて、俺はいつの間にか眠ってしまったんだ。











side担任


「かわい……」


スー、スーと穏やかな寝息を立てて眠る佐野の頭をそっとなるべく優しく撫でる。

口元は嬉しそうに緩んでいて、心地よさそうだ。


佐野とはよく話す、というような関係ではない。

本当にただの教師と生徒という関係。

でも、なんとなく俺は佐野を気にかけていた。

昨年の引き継ぎの際に、佐野は不器用なところがあるからなにかと気にかけてやってほしい、と言われたからだ。

確かに佐野は不器用な面があると思う。

あんまり人を頼っているのを見ないし、一人で頑張ってしまうという癖もある。

だからだろうか。

普段は、分からない問題を聞きに来て淡々と理解していく佐野が、手を握ってほしいと甘えただけで、俺はものすごく嬉しかった。ものすごく可愛いと思った。

不安そうに揺れる瞳。

羞恥心からなのかほんのり赤い頬。

佐野もこんな風に甘えられるんだって思った。


俺、ノンケだったのに何かに目覚めそう……。


無防備に少し開いた唇の間に舌を突っ込んで、まず口内を犯したい。

次にシャツをまくり上げて、乳首を吸ったり手で触ったりする。

きっといい声を出すんだろう。

想像しただけでゾクリと体が震えた。

それで、とろとろになったところで___


「……て、何考えてるんだ俺!」


ハッとして俺はグシャグシャと自分の髪をかいた。

おかしい。

生徒にこんな邪な想いを抱いていい訳がない!

そりゃ確かに佐野は可愛いけれど、こんな事をしてはダメだ!

そもそも俺はノンケだろ?

俺、ここの学園に毒されているんじゃ……。


ブンブンと首を横に振って邪念を振り払う。

とその時、コンコンコンとドアがノックされた。

そして俺が返事をする前にそのドアは開いて、誰かが入ってきた。


「広尾先生この間の……」


手元の書類に落とされていた視線が上がる。

そしてピシッと動きが止まった。


しまった……!


入ってきた先生__もとい保険医の冬木先生の目には俺がまるで佐野と致したように見えているだろう。

はだけた胸元をさらして生徒は寝ていて、その手を俺が握っている。

何かがあったのは明らかだろう。

だがしかし、俺は何もしていない!


「あ、あの、冬木先生。
これはですね……」

「言い訳は聞かねぇ。
晴に何してんだ、広尾先生」


元ヤンなだけ、冬木先生は鋭い目で俺を睨む。

俺、死んだかもしれない……
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