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寮に帰り、自分の部屋に入る。
一人部屋であるが、ドアの先は電灯によって明るく照らされている。
「お帰り、晴」
「ただいま、捺」
ベッドの端に座り携帯をいじっていた捺が俺に気付いて顔を上げた。
「捺って意外と暇なんだな」
俺はネクタイを外しながら捺に言った。
捺はそんな事ない、と否定する。
それならば問いたい。
何故俺の部屋にいるんだ。
そりゃ合鍵は渡しているけれども。
いつでも来ていいと言ったけれども。
週に三回以上は俺の部屋で夜を過ごす。
泊まっていく事もしばしば。
「にしても帰ってくるの遅かったな」
「あぁ、新歓の提案書かいててさ」
「シンカン……?」
意味が分からず首を傾げる捺に新入生歓迎会のこと、と説明する。
捺はあぁ、と納得した。
「あんまり一人で背負い込み過ぎるなよ」
「分かってる」
捺は俺を思いの外理解しているらしい。
心配してくれているのは、すごくありがたい。
「途中だけど、敦先輩と悠先輩に提案書見てもらう事になったから、背負い込み過ぎてはないかな」
「へぇ……」
ハンガーにネクタイをかけながらそう言う。
少しでも捺に安心してもらえたら嬉しい、という俺なりの気遣いのつもりだ。
しかし、返されたのはなんだか煮え切らない言葉で、俺は心配になった。
シャツのボタンを外す手を止めて振り返る。
俯く捺に俺は更に心配になる。
ゆっくりと捺に近付き、顔色を確認しようとすると、突然右腕を掴まれた。
驚く暇もなく、ボスン、とベッドに倒される。
俺に馬乗りになる捺。
名前を呼ぶが、捺は一向に反応しない。
ベッドに押さえ付けられた右腕。
この状態から抜け出すのはなかなか難しそうな為、俺は何も抵抗はしなかった。
「晴って付き合ってる奴とかいるの?」
温度が感じられない声だった。
いつもとまるで違う捺の様子に少し慌てる。
「いないけど……」
「じゃあ、合意じゃないってことだよな」
「……なんの話?」
捺の言っている意味が全く理解出来ない。
合意?何が?
視線が絡まった。
捺の顔を見た瞬間息が詰まった。
いつもの捺の顔じゃない。
俺を射抜くように真っ直ぐ向けられる冷えきった目。
一見いつも通りの無表情にも見えるが、纏う雰囲気は温かみがまるで無い。
「そうやって誰に対しても無防備なのは許せない」
「な、に言って……」
真意を聞こうと口を開いた途端に捺の顔が近付いて深く口付けられた。
唇の間から侵入した捺の舌は俺のそれと深く絡まる。
「は、ぁ……んっ、や…ぁ…!」
部屋に響く水音。
それから俺の声。
全てが俺の羞恥心を煽った。
唇を離された時にはもう既に抵抗や反論する気力は残っていなかった。
糸を引くどちらのか分からない唾液。
俺の頬を伝う涙。
休めていたのもつかの間で、捺は俺の首に食らいついた。
「あっ!……っう、ん……」
強く首筋を吸われ、痛みと共に痺れが俺の全身を駆け巡った。
捺が怖い。
そんなの初めて思った。
何を考えているのかなんて分からないけれど、捺はどこか優しさの滲んだ顔をして俺を見ているのは確かだ。
しかし今は違う。
怒っていて、俺に対して無慈悲だ。
「晴……」
俺の名前を呼んだ捺はそっと首筋を撫でた。
「俺のものになれよ……」
絞り出したような声が、俺を困惑させた。
なんで捺がそんな声出すんだよ……。
苦し気に歪められた捺の顔。
今にも泣きそうだった。
だからなんでお前がそんな顔をするんだ。
しばらく流れる沈黙。
それを破ったのはやはり苦しそうな捺の声だった。
「好きだ、晴」
黒髪から覗く黒い瞳が俺を見つめた。
一瞬何を言われたのか分からなかった。
好き?
捺が?
俺を?
一気にいろんな事があり過ぎて言葉を出せない俺。
捺はゆっくり体を起こした。
ただ、目は真っ直ぐ見つられたままだ。
「返事とかはいらない」
捺はそれだけ言うと、動けずにいる俺を放ってベッドから下り、静かに部屋を出ていった。
俺の腕にはまだ捺の手に掴まれているような感覚が残っていた。
一人部屋であるが、ドアの先は電灯によって明るく照らされている。
「お帰り、晴」
「ただいま、捺」
ベッドの端に座り携帯をいじっていた捺が俺に気付いて顔を上げた。
「捺って意外と暇なんだな」
俺はネクタイを外しながら捺に言った。
捺はそんな事ない、と否定する。
それならば問いたい。
何故俺の部屋にいるんだ。
そりゃ合鍵は渡しているけれども。
いつでも来ていいと言ったけれども。
週に三回以上は俺の部屋で夜を過ごす。
泊まっていく事もしばしば。
「にしても帰ってくるの遅かったな」
「あぁ、新歓の提案書かいててさ」
「シンカン……?」
意味が分からず首を傾げる捺に新入生歓迎会のこと、と説明する。
捺はあぁ、と納得した。
「あんまり一人で背負い込み過ぎるなよ」
「分かってる」
捺は俺を思いの外理解しているらしい。
心配してくれているのは、すごくありがたい。
「途中だけど、敦先輩と悠先輩に提案書見てもらう事になったから、背負い込み過ぎてはないかな」
「へぇ……」
ハンガーにネクタイをかけながらそう言う。
少しでも捺に安心してもらえたら嬉しい、という俺なりの気遣いのつもりだ。
しかし、返されたのはなんだか煮え切らない言葉で、俺は心配になった。
シャツのボタンを外す手を止めて振り返る。
俯く捺に俺は更に心配になる。
ゆっくりと捺に近付き、顔色を確認しようとすると、突然右腕を掴まれた。
驚く暇もなく、ボスン、とベッドに倒される。
俺に馬乗りになる捺。
名前を呼ぶが、捺は一向に反応しない。
ベッドに押さえ付けられた右腕。
この状態から抜け出すのはなかなか難しそうな為、俺は何も抵抗はしなかった。
「晴って付き合ってる奴とかいるの?」
温度が感じられない声だった。
いつもとまるで違う捺の様子に少し慌てる。
「いないけど……」
「じゃあ、合意じゃないってことだよな」
「……なんの話?」
捺の言っている意味が全く理解出来ない。
合意?何が?
視線が絡まった。
捺の顔を見た瞬間息が詰まった。
いつもの捺の顔じゃない。
俺を射抜くように真っ直ぐ向けられる冷えきった目。
一見いつも通りの無表情にも見えるが、纏う雰囲気は温かみがまるで無い。
「そうやって誰に対しても無防備なのは許せない」
「な、に言って……」
真意を聞こうと口を開いた途端に捺の顔が近付いて深く口付けられた。
唇の間から侵入した捺の舌は俺のそれと深く絡まる。
「は、ぁ……んっ、や…ぁ…!」
部屋に響く水音。
それから俺の声。
全てが俺の羞恥心を煽った。
唇を離された時にはもう既に抵抗や反論する気力は残っていなかった。
糸を引くどちらのか分からない唾液。
俺の頬を伝う涙。
休めていたのもつかの間で、捺は俺の首に食らいついた。
「あっ!……っう、ん……」
強く首筋を吸われ、痛みと共に痺れが俺の全身を駆け巡った。
捺が怖い。
そんなの初めて思った。
何を考えているのかなんて分からないけれど、捺はどこか優しさの滲んだ顔をして俺を見ているのは確かだ。
しかし今は違う。
怒っていて、俺に対して無慈悲だ。
「晴……」
俺の名前を呼んだ捺はそっと首筋を撫でた。
「俺のものになれよ……」
絞り出したような声が、俺を困惑させた。
なんで捺がそんな声出すんだよ……。
苦し気に歪められた捺の顔。
今にも泣きそうだった。
だからなんでお前がそんな顔をするんだ。
しばらく流れる沈黙。
それを破ったのはやはり苦しそうな捺の声だった。
「好きだ、晴」
黒髪から覗く黒い瞳が俺を見つめた。
一瞬何を言われたのか分からなかった。
好き?
捺が?
俺を?
一気にいろんな事があり過ぎて言葉を出せない俺。
捺はゆっくり体を起こした。
ただ、目は真っ直ぐ見つられたままだ。
「返事とかはいらない」
捺はそれだけ言うと、動けずにいる俺を放ってベッドから下り、静かに部屋を出ていった。
俺の腕にはまだ捺の手に掴まれているような感覚が残っていた。
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