噂の補佐君

さっすん

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「新入生歓迎会ですか」


配布された書類。

一番上に『新入生歓迎会について』と書かれている。

開催日は三週間後だ。


生徒会専用の会議室で一つ大きな長方形の机を生徒会のメンバーが囲むように座っている。

珍しく真面目な雰囲気だ。


「うち、なんでこんなに新入生歓迎会遅いんですか?」


普通入学してから一ヶ月以内にはするものだろう。

副会長ははぁ、と大きなため息をついて呆れたような目を寄越す。


「入学してから二週間後には一年生は泊まり込みのレクリエーションがあるでしょう。
それとあまりに日にちが近過ぎると一年生が大変だからですよ」

「そんなのありましたっけ?」

「晴っておじいちゃん並みに記憶力ないの?」


空先輩は小馬鹿にしたように笑いながら言った。

失礼な。

俺はそれなりに記憶力には自信があるんですけど。

レクリエーションがあったのはうっすら覚えているけれど、でも何をしたかは本当に思い出せない。

……って、そういえば!


「俺、レクリエーション休みました」

「え、サボり?」


何やら嬉しそうに聞く岩下先輩に違います、とハッキリ言う。


「体調崩したんですよ。
俺が今まで通っていた中学とあまりに環境が違くて、順応するのに時間かかりました」

「そんなに違うものか?」


怪訝そうに海先輩が言う。

きっと海先輩には一生分かり得ない事だろう。


「雰囲気みたいなのが全然違います。
当時は仲がいい人もいませんでしたし」

「大丈夫だった……?」


コテンと可愛く首を傾げる中尾先輩。

その顔には心配の色が浮かんでいる。

身長は中尾先輩の方が十数㎝高いから俺が見上げる形だが、全く嫌な気はしない。

なんて優しい先輩なんだ……!と感動すらする。

俺は微笑んで見せる。

正直当時は本当にヤバかった。

精神的に安定しなくて、自分が教室内で孤立しているのは分かっていたし、苦しかった。

でも今はそんな事はない。

とても充実している。


「無駄話もそれくらいにしろ」


ギロリと会長に睨まれ、俺は口をつぐみ、手元の資料を読む。


「今回は新歓で何をするか決める。
何か意見はあるか」

「去年と同じじゃダメなの?」


空先輩が手を挙げて発言する。

別に手を挙げる必要性はない。


……去年は何をしたっけ。

ペラペラと書類をめくると、過去数年の新歓で行われたゲームが書かれているのを発見した。

ビンゴ大会をした年が多いようだ。

去年はケイドロをしている。

別にケイドロでもいいのでは?と思ったが、会長は首を横に振った。


「去年の……ケイドロだったか?それは怪我人が多く出て今年はしない事になった」


確かにこの学園運動全然しないもんな。

それにちょっと擦過傷が出来ただけですぐに保健室に行きそうだ。

ちなみに俺は去年、風紀委員として見回りをしていたから参加していない。

でも、ケイドロがダメならいろいろダメにならないか?

要するに走る系はダメなんだろ?

はぁ、やっぱり難しい……。


「晴、意見はないのですか?」

「え?」

「あなた庶民だったんですから、いろいろとゲーム知っているでしょう?」


副会長喧嘩売ってます?

庶民って!

確かに皆さんからしたら庶民だけど!

……まぁそれは百歩譲ってスルーしよう。

だけど、庶民だからってゲームをたくさん知っている、というのは偏見である。

そりゃ外で遊ぶものはけっこう知っていると思うけど、どれもこれも走るものだし……。


「そう言われましても……ケイドロがダメな以上、俺が知ってるゲームは出来ないです」


期待に応えられなくてすみませんね、と嫌味っぽく副会長に言うと、本当にその通りですね、と返された。

副会長って俺を苛立たせる天才かもしれない。


「じゃあさぁ、中学の文化祭とか何したの?」


岩下先輩が興味津々な様子で尋ねて来る。

俺は中学時代を振り返った。

一年生の時は劇をしたな。

二年生の時は屋台を出して、三年生の時は……


「大々的な冒険ゲームしました。
数クラス合同で」

「冒険ゲーム?」

「はい。
学校全体を使ってしました」


すると、会長は興味を持ったのか、詳しく説明するように言った。

最後の文化祭という事で複数の教室を貸してくれて、また数クラス合同だった事もあり、教室は多く使えたからこそ出来たゲームだった。


基本は二人以上のチームで参加する。

様々な課題が出され、それを全てクリアしたチームには景品が与えられる。

尚、クリアに掛かった時間によって景品の豪華さは違う。

簡単に説明すればこんな感じだ。


「いい、それ……」


一番に反応してくれたのは中尾先輩だ。

それに続いて海先輩もいいんじゃない?と言った。

ただ、興味は無さそう。


「いいじゃんそれ!楽しそう!」

「まぁ、私はそれ以上の代案を出せませんし、それで手を打ちましょう」

「副会長だって本当はめちゃくちゃいい!って思ってるくせに~」

「うるさいですよ、空」


賛成してくれるのさ嬉しいが、いざ決まるとなると、少し不安だ。

会長は難しい顔をしていた。


「とりあえず、これで出す。
生徒会の一存だけでは決められないからな。

来週の委員会で提案する」


そういえば来週は定期委員会だ。

月に一度各委員の委員長が集まって近況を報告したり、この場合のように行事についての話し合いをする。

俺は一応生徒会の補佐だから参加するがする事はほぼないはずだ。

少なくとも前回は挨拶くらいしかしてない。

あの場は俺以外全員三年生だから、居心地が悪い。


「提案者は晴だ。
ゲームの説明頼むぞ」

「は?」

「じゃあ晴は来週の資料作りをしろ。
予算まできっちり書いておけ」

「え?」


俺が提案者?

という事は俺が、提案するゲームについて説明しなければならないのか?

……どうしよう!!

俺本当にああいう場は苦手なんだって!

そもそも補佐って前で説明とかないんじゃ……。


「マジですか……」


先輩方は席を立って次々と生徒会室に戻っていく。

協力する気はゼロですか……。


そう思った時、クイクイと袖を引っ張られた。

いつの間にか俯いていた顔を上げると、中尾先輩がいた。


「困ったら、手伝う……」

「本当ですか!?ありがとうございます!!」


中尾先輩は天使なのか……!!
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