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「こんにちは、ルイ様」
「……おう」

にっこりと挨拶を述べるお兄様に対して、ルイ様は気まずそうに返事をし、顔を逸らした。

「昨日ぶりだな、カリン。アランは久しぶり」

ルイ様の横で、ライ様は笑ってそう言う。
俺は、ルイ様との約束を律儀に守り、昨日、今日と、二日連続で王宮に来ていた。今回はお兄様同伴で。昨日の夕食のとき、明日も王宮に行くって言ったらお兄様が、僕も絶対に行くから、と少し怒ったように言ったんだ。まあ正直お兄様が一緒の方が心強いんだけどね。
王宮に到着すると、執事さんが俺たちの世話を甲斐甲斐しく焼いてくれた。ルイ様とは口約束だったから、入れてもらえないんじゃないかって心配していたけれど、杞憂だったらしい。
通された部屋は昨日と同じだった。ルイ様を待つ間に出された紅茶は、とてもおいしかった。昨日と味が違ったから、ほんの気遣いも見える。それに感動していると、ライ様とルイ様が入ってきた。あれ、ライ様もいるんだ…とちょっと驚いた。

「まあそれよりルイ様。なぜ、カリンを呼んだのですか?来なかったら婚約すると脅してまで」

隣に座っているお兄様の目がスッと細められる。その目を向けられているのはもちろんルイ様。

「お前には関係ない」

お兄様に負けじとルイ様も冷たく言う。隣でバチバチと火花が散っているように思うのは、気のせいじゃない。俺は何かを誤魔化すように紅茶を一口飲んだ。

「なあ、カリン。ふたりは放っておいて俺の部屋に来ないかい?」

脚を組み、その膝の上で肘をついておしゃれにキメるライ様はバチンとウインクをした。俺はえっ、と短く驚く。

「させるわけないでしょう?」「させるわけないだろ」

すかさずふたりが割って入る。
お兄様はなんとなく想像がつく行動だけど、ルイ様がそんなことを言うのは意外だ。目をパチパチさせながらルイ様を見ると、視線に気づいたルイ様は気まずそうに目を逸らした。それはもう、あからさまに。
え、なんで。無礼だったかなあ。

「ライ。いい加減にしてくれる?僕で遊びたいの?それとも本気なの?ハッキリさせてほしいんだけど」

お兄様の鋭い言葉はライ様には痛くも痒くもないのか、飄々とした様子で、ハハッと乾いた笑いを残す。

「どっちも合っているさ。優しい、スマート、完璧な王子と言われているアランが、ここまで余裕をなくすなんて興味が湧いてしまうだろう。それに、カリンは想像より遥かに魅力的だ。惹かれないはずがない。現にルイだって魅了されている」

ライ様はチラリと視線をルイ様に向けた。当のルイ様はそっぽを向いて、表情はまったく分からない。
……にしても、魅力的、ねえ……。確かに顔はいいだろうけれど、それ以外に魅力なんてない。

「お言葉ですが、そのようなことはないと思います」
「そのようなこと、といのは?」
「俺が魅力的だなんてことです。いいところなど、あまりありませんし……」

うん、ほんとに顔くらいでしょ。気弱でいつもびくびくしてて、子ども過ぎる。あほだし。……自分で言っててちょっと悲しい。

「そんなことはないさ」「そんなことはないよ」「そんなことはない」

三者三様の語尾だが、俺の言葉を否定しているのは全員一緒だ。さすがに俺は呆気に取られる。ここまで口を揃えて否定されるとは思っていなかった。

「どうして君はそうも自分を卑下するんだ」

呆れた顔のライ様。

「カリンは本当に僕の自慢の弟なんだよ?」

悲しそうに言うお兄様。

「お前はあほなんだな」

怒った顔のルイ様。
ルイ様は俺をただ貶しただけだ。

「謙虚なのはいいことだ。傲慢になりすぎるのはよくない」

目の前に座るライ様を、俺は見つめる。

「だがな、カリン。アランは君を本当に大切に思っている。君が自分をそんな風に扱ってしまったら、アランだって悲しいはずだ。もちろん、俺だって悲しいさ」
「ライ様……」

真剣に見つめ返され、俺は下を向く。
……お兄様も傷ついてるんだ……。

「ごめんなさい、お兄様」
「ううん。謝らないで、カリン。ただ、僕はいつもカリンを思ってるってことを忘れないで」

ギュッとお兄様に抱き締められ、俺はお兄様の腰に腕を回し、抱き締め返した。
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