上 下
10 / 13

10

しおりを挟む
また来るとルイ様と約束してルイ様の部屋から解放された俺はそのあとすぐにライ様と合流。そこから五分もしないうちに帰りの馬車が到着したと知らせが入り、帰ることとなった。

「お邪魔しました。今日はすごく楽しかったです」

社交辞令とかではなく、本当に楽しかった。…一部を除いてだけど。

見送りに来たライ様はその言葉を聞いて、良かった、と微笑んだ。

「また遊びに来るといい。歓迎するぞ」

「はい。ありがとうございます」

行きたくないけど必ず行く。ルイ様のことがあるし。はあ、もお、なんでこんなことになっちゃうのかなあ。

ルイ様のことはライ様には言っていない。なんだか面倒なことになりそうな気がするから。

「では、失礼します」

そう言ってライ様に背を向け、馬車に乗り込もうとしたとき、腕を掴まれてグイッと引っ張られる。すると、チュッと軽やかなリップ音と同時に頬に柔らかいものが触れた。

「婚約の件、前向きに検討してくれ」

いたずらっ子のように笑いそう言ったライ様を俺は驚いて見つめる。

今キスしたな、この人。

「そういったことは好きな人となさった方がいいですよ。勘違いしますから」

「ははっ。カリンも勘違いした?」

「俺はしません。ライ様は意外といたずら好きな面があると今日知りましたから」

本当になんなんだ、この人。国の王子じゃなかったら頬叩いてるよ。

「いたずら、なあ…。存外鈍いようだな、カリンは」

「何か言いましたか?」

ぼそりとライ様が呟いたが聞こえなかった。ライ様はなんでもないさ、と笑った。

にこやかなライ様に見送られ、俺は王宮を出る。今日一日だけでいろんなことがあって正直疲れた。婚約婚約婚約。王家は“婚約”という言葉に毒されているのだろうか…。

チラリと馬車の窓の奥に向けていた視線を正面に向ける。その先にいるのはルートさんだ。何を考えているかまったく読めない澄ました顔をして、先ほどまでの俺と同じようにぼんやり外を眺めている。

ルートさんとは昨日以来なんとなく気まずい。行きの馬車の中でも一言も話さなかった。もちろん今も会話はない。

ルートさんの忠告を忘れていたわけでは決してない。ただ、本当にあれは思いがけないことだったのだ。まさかパーティーで第一王子と接触してしまうなんて。俺は嬉しくないんだけどねえ。

ふう、と息を吐く。

「婚約は結局どうなさったのですか?」

視線は変えず、景色を見ながらルートさんは言った。

「もちろん、断ったよ。俺の恋愛対象は女の子だから、男の人を急にそんな風に見れないかなあ」

「…そうですか」

ルートさんから聞いてきたというのになんだか微妙な反応だ。別にいいんだけど。

「あなたは本当に無防備です」

「…なに、突然…」

急に罵倒するじゃん。俺一応主人なんだけど…。

「私がどんな気持ちであなたに忠告したのか全くお分かりにならない、鈍感でもあります」

ちょっと待って。本当にどうした。反抗期ですか。

「汲み取っていただこうなどおこがましかったのだと気付きました」

「ルートさん…?」

なんだか雰囲気がいつもと違う…。

俺の方に目を向けたルートさんの顔は真剣だった。

「あなたが大切で仕方がないのです。いつか離れてしまうと分かっています。分かっていますが、奪われたくない」

切なそうに瞳を揺らすルートさんに俺は言葉を失う。直後ギュッと強く抱き締められる。

「このまま、私の中に治められたらどれほどいいか…」

何がなんだか理解できない。熱烈な告白を受けているような気分になる。

「ル、ルートさ」

「もう絶対に譲りません」

俺は本当に何も言えなかった。なんと言っていいか分からなかった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます

瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。 そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。 そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。  新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。  ___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。  ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。  しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。  常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___ 「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」  ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。  寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。  髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?    

転生したら溺愛されていた俺の話を聞いてくれ!

彩ノ華
BL
不運の事故に遭い、命を失ってしまった俺…。 なんと転生させて貰えることに! いや、でもなんだかおかしいぞ…この世界… みんなの俺に対する愛が重すぎやしませんか…?? 主人公総受けになっています。

BLゲームの脇役に転生した筈なのに

れい
BL
腐男子である牧野ひろはある日、コンビニに寄った際に不慮の事故で命を落としてしまう。 その朝、目を覚ますとなんと彼が生前ハマっていた学園物BLゲームの脇役に転生!? 脇役なのになんで攻略者達に口説かれてんの!? なんで主人公攻略対象者じゃなくて俺を攻略してこうとすんの!? 彼の運命や如何に。 脇役くんの総受け作品になっております。 地雷の方は回れ右、お願い致します(* . .)’’ 随時更新中。

案外、悪役ポジも悪くない…かもです?

彩ノ華
BL
BLゲームの悪役として転生した僕はBADエンドを回避しようと日々励んでいます、、 たけど…思いのほか全然上手くいきません! ていうか主人公も攻略対象者たちも僕に甘すぎません? 案外、悪役ポジも悪くない…かもです? ※ゆるゆる更新 ※素人なので文章おかしいです!

眠り姫

虹月
BL
 そんな眠り姫を起こす王子様は、僕じゃない。  ただ眠ることが好きな凛月は、四月から全寮制の名門男子校、天彗学園に入学することになる。そこで待ち受けていたのは、色々な問題を抱えた男子生徒達。そんな男子生徒と関わり合い、凛月が与え、与えられたものとは――。

俺が総受けって何かの間違いですよね?

彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。 17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。 ここで俺は青春と愛情を感じてみたい! ひっそりと平和な日常を送ります。 待って!俺ってモブだよね…?? 女神様が言ってた話では… このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!? 俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!! 平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣) 女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね? モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。

処理中です...