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また来るとルイ様と約束してルイ様の部屋から解放された俺はそのあとすぐにライ様と合流。そこから五分もしないうちに帰りの馬車が到着したと知らせが入り、帰ることとなった。
「お邪魔しました。今日はすごく楽しかったです」
社交辞令とかではなく、本当に楽しかった。…一部を除いてだけど。
見送りに来たライ様はその言葉を聞いて、良かった、と微笑んだ。
「また遊びに来るといい。歓迎するぞ」
「はい。ありがとうございます」
行きたくないけど必ず行く。ルイ様のことがあるし。はあ、もお、なんでこんなことになっちゃうのかなあ。
ルイ様のことはライ様には言っていない。なんだか面倒なことになりそうな気がするから。
「では、失礼します」
そう言ってライ様に背を向け、馬車に乗り込もうとしたとき、腕を掴まれてグイッと引っ張られる。すると、チュッと軽やかなリップ音と同時に頬に柔らかいものが触れた。
「婚約の件、前向きに検討してくれ」
いたずらっ子のように笑いそう言ったライ様を俺は驚いて見つめる。
今キスしたな、この人。
「そういったことは好きな人となさった方がいいですよ。勘違いしますから」
「ははっ。カリンも勘違いした?」
「俺はしません。ライ様は意外といたずら好きな面があると今日知りましたから」
本当になんなんだ、この人。国の王子じゃなかったら頬叩いてるよ。
「いたずら、なあ…。存外鈍いようだな、カリンは」
「何か言いましたか?」
ぼそりとライ様が呟いたが聞こえなかった。ライ様はなんでもないさ、と笑った。
にこやかなライ様に見送られ、俺は王宮を出る。今日一日だけでいろんなことがあって正直疲れた。婚約婚約婚約。王家は“婚約”という言葉に毒されているのだろうか…。
チラリと馬車の窓の奥に向けていた視線を正面に向ける。その先にいるのはルートさんだ。何を考えているかまったく読めない澄ました顔をして、先ほどまでの俺と同じようにぼんやり外を眺めている。
ルートさんとは昨日以来なんとなく気まずい。行きの馬車の中でも一言も話さなかった。もちろん今も会話はない。
ルートさんの忠告を忘れていたわけでは決してない。ただ、本当にあれは思いがけないことだったのだ。まさかパーティーで第一王子と接触してしまうなんて。俺は嬉しくないんだけどねえ。
ふう、と息を吐く。
「婚約は結局どうなさったのですか?」
視線は変えず、景色を見ながらルートさんは言った。
「もちろん、断ったよ。俺の恋愛対象は女の子だから、男の人を急にそんな風に見れないかなあ」
「…そうですか」
ルートさんから聞いてきたというのになんだか微妙な反応だ。別にいいんだけど。
「あなたは本当に無防備です」
「…なに、突然…」
急に罵倒するじゃん。俺一応主人なんだけど…。
「私がどんな気持ちであなたに忠告したのか全くお分かりにならない、鈍感でもあります」
ちょっと待って。本当にどうした。反抗期ですか。
「汲み取っていただこうなどおこがましかったのだと気付きました」
「ルートさん…?」
なんだか雰囲気がいつもと違う…。
俺の方に目を向けたルートさんの顔は真剣だった。
「あなたが大切で仕方がないのです。いつか離れてしまうと分かっています。分かっていますが、奪われたくない」
切なそうに瞳を揺らすルートさんに俺は言葉を失う。直後ギュッと強く抱き締められる。
「このまま、私の中に治められたらどれほどいいか…」
何がなんだか理解できない。熱烈な告白を受けているような気分になる。
「ル、ルートさ」
「もう絶対に譲りません」
俺は本当に何も言えなかった。なんと言っていいか分からなかった。
「お邪魔しました。今日はすごく楽しかったです」
社交辞令とかではなく、本当に楽しかった。…一部を除いてだけど。
見送りに来たライ様はその言葉を聞いて、良かった、と微笑んだ。
「また遊びに来るといい。歓迎するぞ」
「はい。ありがとうございます」
行きたくないけど必ず行く。ルイ様のことがあるし。はあ、もお、なんでこんなことになっちゃうのかなあ。
ルイ様のことはライ様には言っていない。なんだか面倒なことになりそうな気がするから。
「では、失礼します」
そう言ってライ様に背を向け、馬車に乗り込もうとしたとき、腕を掴まれてグイッと引っ張られる。すると、チュッと軽やかなリップ音と同時に頬に柔らかいものが触れた。
「婚約の件、前向きに検討してくれ」
いたずらっ子のように笑いそう言ったライ様を俺は驚いて見つめる。
今キスしたな、この人。
「そういったことは好きな人となさった方がいいですよ。勘違いしますから」
「ははっ。カリンも勘違いした?」
「俺はしません。ライ様は意外といたずら好きな面があると今日知りましたから」
本当になんなんだ、この人。国の王子じゃなかったら頬叩いてるよ。
「いたずら、なあ…。存外鈍いようだな、カリンは」
「何か言いましたか?」
ぼそりとライ様が呟いたが聞こえなかった。ライ様はなんでもないさ、と笑った。
にこやかなライ様に見送られ、俺は王宮を出る。今日一日だけでいろんなことがあって正直疲れた。婚約婚約婚約。王家は“婚約”という言葉に毒されているのだろうか…。
チラリと馬車の窓の奥に向けていた視線を正面に向ける。その先にいるのはルートさんだ。何を考えているかまったく読めない澄ました顔をして、先ほどまでの俺と同じようにぼんやり外を眺めている。
ルートさんとは昨日以来なんとなく気まずい。行きの馬車の中でも一言も話さなかった。もちろん今も会話はない。
ルートさんの忠告を忘れていたわけでは決してない。ただ、本当にあれは思いがけないことだったのだ。まさかパーティーで第一王子と接触してしまうなんて。俺は嬉しくないんだけどねえ。
ふう、と息を吐く。
「婚約は結局どうなさったのですか?」
視線は変えず、景色を見ながらルートさんは言った。
「もちろん、断ったよ。俺の恋愛対象は女の子だから、男の人を急にそんな風に見れないかなあ」
「…そうですか」
ルートさんから聞いてきたというのになんだか微妙な反応だ。別にいいんだけど。
「あなたは本当に無防備です」
「…なに、突然…」
急に罵倒するじゃん。俺一応主人なんだけど…。
「私がどんな気持ちであなたに忠告したのか全くお分かりにならない、鈍感でもあります」
ちょっと待って。本当にどうした。反抗期ですか。
「汲み取っていただこうなどおこがましかったのだと気付きました」
「ルートさん…?」
なんだか雰囲気がいつもと違う…。
俺の方に目を向けたルートさんの顔は真剣だった。
「あなたが大切で仕方がないのです。いつか離れてしまうと分かっています。分かっていますが、奪われたくない」
切なそうに瞳を揺らすルートさんに俺は言葉を失う。直後ギュッと強く抱き締められる。
「このまま、私の中に治められたらどれほどいいか…」
何がなんだか理解できない。熱烈な告白を受けているような気分になる。
「ル、ルートさ」
「もう絶対に譲りません」
俺は本当に何も言えなかった。なんと言っていいか分からなかった。
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